岸田首相「断末魔」の大臣交代でも、斎藤健経産相は数少ない期待の人事
高市氏「太鼓判」、維新・藤田氏もリスペクト- 岸田政権、支持率墜落の断末魔の中で「一縷の望み」とは
- 昨年の法相就任に続き“救援登板”の斎藤新経産相に注目
- 高市氏、維新・藤田氏も認める斎藤氏の才覚とは?
自民党の政治資金パーティーの問題を受け、岸田政権の求心力は目を覆うばかりに低下している。この週末の世論調査での政権支持率は、日経が26%(同68%)、毎日が16%(不支持率79%)、共同が22%(同65%)などといった結果で、予想通り最低数字を下回る惨憺たる数字が並んだ。
断末魔での「一縷の望み」
なお読売だけは25%(同63%)とほぼ横ばいだった。15日朝刊3面スキャナーでは「自民内で『岸田降ろし』の動きは見えてこない」と慎重に述べるあたり、「岸田応援団」の真骨頂と揶揄されるかもしれない。しかし、その記事の結びは「支持率低迷が春以降もこのまま続く場合、自民内では首相に対して退陣を迫り、『総裁選で新しい選挙の顔を選ぶべきだ』との声が高まる可能性はある」と指摘する。読売ですらこれまでの逆風とはモノが違うことは認めざるを得ないようだ。
もはや「断末魔」にも見える岸田政権。松野官房長官以下ら安倍派の4閣僚を交代したが、毎日の調査では松野氏の後任に岸田派の番頭格である林芳正前外相に交代したことについても「期待する」は27%で、「期待しない」の54%の半分にとどまった。
一方で個人的に「一縷の望み」と感じたのが、西村康稔経産相の後任に、無派閥の斎藤健氏が指名されたことだ。斎藤氏は、この秋の内閣改造まで法相を務めて退任したばかりだった。“脱派閥”を印象付けるため、今回の人事では一時、官房長官への就任も検討されたとされるほど期待されている。
就任記者会見の冒頭、「さかのぼること40年前、私は当時の通商産業省の門をたたきました」と述べたように「古巣」に大臣として復帰した斎藤氏。官僚時代は日米自動車交渉を担当したが、出色なのは霞が関出身ではあるものの「改革志向」が強い点だ。内閣官房の行政改革推進事務局に出向して、小泉政権時代には道路公団民営化などの特殊法人改革を担当した。
高市氏が絶賛した俊才ぶり
退官して初めて選挙に挑んだ2006年衆院補選は敗れたものの、2009年衆院選で初当選。民主党政権が誕生し、自民には大逆風だったこの選挙で生き残った新人は、斎藤氏と小泉進次郎氏らわずか4人。自民再生のホープとして期待された斎藤氏は以後の政治家人生でも「抜擢」人事を歩み続ける。
野党転落で党が人材難に陥ったとはいえ、初当選直後いきなり党環境部会長に就任。さらに政権奪還1年後、当時の高市早苗政調会長が、斎藤氏を農林部会長に白羽の矢を立てた。経産省出身で農林分野に縁が薄いだけに党内外を驚かせた。
このサプライズ人事について高市氏は当時のブログで「元職に関する経済産業分野だけでなく、どの政策分野でも見事な理解力と的確な表現力を発揮して下さる極めて優秀な議員であることは良く知っています」などと抜擢理由を説明、TPP交渉を控えていたこの時、農政は変革の波に直面しており、守旧派との調整は難航が予想された。
しかし高市氏が「攻めの農林業を実現するには、齋藤健さんの知識やネットワークが役に立つはず」との期待を寄せた通り、その後の60年ぶりとなる農協改革の法案取りまとめに卓越した手腕を発揮。そして安倍政権後期の2017年、農相として初入閣し、農協改革や減反政策など戦後農政の大転換を決定づけた。
維新・藤田氏が感銘を受けたコラム
そんな改革派の斎藤氏には他党からも敬意を集める。TOTO法改正の議員立法で一緒だった維新の藤田文武幹事長もその1人。日頃は「自民党の政治は現状維持・微修正ばかり」と手厳しい藤田氏が、今年初めて出した書籍『政党COO 日本大改革に挑む』(ワニブックス)で「党派を超えて心からリスペクトしている」と斎藤氏を称賛する。
藤田氏が感銘を受けたとして著書で紹介しているのが斎藤氏のコラム集だ。タイトルは「三十年」。平成の30年を「宿題をやらなかった夏休み」にたとえ、「我々は多くの宿題を令和の時代に残した。隣の国はせっせと宿題をこなしていたのに」と嘆く。
コラム集は後援者向けに作成されたようで、筆者もある永田町関係者に借りて読んだことがあるが、表面的な政策的な話だけではなく、外圧なしに自己改革できない日本人の民族的特性にまで社会的・文化的な考察を深めているのが目を引く。
例えば、聖徳太子の17条憲法について「仏教よりも天皇よりも和が大事なんだという政治思想を表した」と評し、「和を乱す者はけしからんとなると、改革をしようなんていう輩はけしからんとなりがちになる。だから日本では、改革がかけ声だけの微温的なものになりがちで、なかなか真の改革はできない」と論じる。これだけ鋭く、かつ構造的に物事を論じられる政治家は多くいまい。
またも救援登板、モノにできるか
ところが無派閥であるが故にいまの自民の派閥政治では実績・実力があってもチャンスがそう巡ってこない。昨年の法相就任、今回の経産相就任のいずれも前任者の更迭に伴うリリーフ登板というのは、「自民党」という政治システムの限界の裏返しかもしれない。
それでも回ってきた出番をモノにすれば先はつながる。GX・エネルギー基本計画、福島処理水、半導体など重要課題が目白押しだが、就任会見で斎藤氏が「私自身が先頭に立って経済産業省の総力を挙げて取り組んでいく局面」と真っ先に挙げたのが大阪万博の成功だ。
万博の準備の遅れは、選挙で競合する岸田自民と維新と微妙な関係性も影を落としていたが、改革志向で藤田氏ら維新側と波長が合いそうな点で、斎藤経産相の存在は万博準備の立て直しに好材料か。党内外で目立った敵はいないが、かといって事なかれ主義は好まず、勝負所での利害対立を恐れない斎藤氏。この難局にどう挑むのか注目している。
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