平均賃金が韓国より低い理由 ~ 大企業の国際戦略と起業・イノベーション?
連載『日本経済をターンアラウンドする!経済再生の処方箋』 #1- 平均賃金で韓国より下回り始めた日本。成長できなくなった原因を各種統計から分析
- 韓国との比較でいえば大企業がグローバル市場で成功。戦略的な差異
- 起業熱でも大きな差。「日本は先進国」という刷り込みを捨て他国に学ぶべき段階

株式会社ターンアラウンド研究所
西村健(代表取締役社長)
小寺昇二(共同代表、主席研究員)
「気が付けば日本の平均賃金が韓国よりも低くなっていた」という2019年のOECD統計データが話題になっています。実際のデータを見ると、1割もの差がついているのです。
日本:38,617ドル
韓国:42,285ドル
(アメリカ:65,836ドル)
出典:OECDサイト

韓国以下の平均賃金!日本はもう先進国じゃない?
日本人にとっては「とうとうここまで来ていたのか…」と突きつけられる驚愕の数字です。コロナ前からインバウンド訪日客や、海外旅行をした日本人が「日本の物価は安い」と一様に口にするのをよく聞きましたが、コロナ対応で「日本スゲー論」はすっかり影を潜めてしまいました。もういい加減「日本は超大国、豊かな国だ」という意識を捨て、現実を直視すべき時期に来ているのではないでしょうか。
次にOECDの資料をもとに、時系列を追った指標と数字をみていくことにしましょう。まずは、平均賃金の指標について少し説明します。OECDの「Average wages」は、労働者の賃金年収をフルタイム換算し労働者数で割ったものです。賃金の金額は、為替や物価の影響を考慮した購買力平価を用いた上で、ドル換算で示されています。(OECD定義)。

直視すべきなのは、直近の絶対値よりも過去から今に至るまでのトレンドでしょう。日本の推移を見てみると、この20年近く横ばいで、ほぼ伸びていません。アメリカは4割、韓国は9割近く上昇しているのにもかかわらずです。さらに、法人企業統計が示す法人企業売上高や従業員給与などは、1990年代に入ってから、ほぼ横ばいの数値を示しています。いわゆる「失われた20年、30年」が如実にグラフに示されています。
次に、1人当たりのGDPで確認してみましょう。この指標で国民の平均的な豊かさがわかります。

ここ30年で、ルクセンブルグ、カタール、ドイツ、フィンランド、そしてアメリカ。こうした諸国にどんどん離されてしまってしまいました。日本は人口が世界で11位と多いことから、国の規模でみると依然、世界に冠たる経済大国ではあるかもしれません。ところが1人当たりでみるとかなりお寒い状況です。2020年の日本の「1人当たりGDP」は、購買力平価換算で世界第30位にしか過ぎないのです。
日本が駄目な理由① 国内優先の国際戦略
なぜなのか?これを探っていくのが今回の連載のテーマですが、まず韓国と比較してみましょう。第一に、大企業レベルでの韓国企業の成功です。
韓国の代表的な企業として、
半導体・テレビ:サムソンがトップシェア
エアコン・洗濯機・冷蔵庫:LGがトップシェア
といった特徴があります。かつて日本の十八番だった電機機器関連でも、完全に逆転されてしまいました。
韓国という国の成長要因として、産業構造では財閥を中心とした寡占体制のもと、成長産業に資源を集中してきたことが、結果として韓国の産業を成長させたのでしょう。そういう基本認識でいいかと思います。
また読者の皆さんも、BTSなどK-POPのグローバルでの活躍はご存知だと思います。GDPに貢献するほどの規模ではないものの「エンターテイメント産業」の躍進も、目を見張るものがあります。グローバル市場においては日本企業よりも、韓国企業の方が今の時代によりあった戦略をとっていることがご理解いただけるかと思います。
GAFAや世界経済に詳しい弊研究所アナリストの小寺昇二(埼玉工業大学教授を3月に定年退職後、現在は同大非常勤講師)は、「なぜK-POPはアメリカでも受入れられ、J-POPはそうでないのか?を考えればわかる」と指摘します。K-POPは「徹底的に世界で売れるものを目指した。グローバル化に対応できている。だから成功したのだ」とも言います。
韓国企業のグローバル市場における成功要因を、日本企業と企業文化の比較でしてみましょう。
- 国内市場が狭小であることから、世界市場での生き残りがすべて (⇔日本国内のガラバゴス市場がメインターゲット)
- 徹底的なマーケティング重視 (⇔日本では依然職人芸的なモノづくりへのこだわり)
- トップダウン経営 (⇔日本の決められない意思決定)
- 徹底した成果重視の人材の登用 (⇔日本の横並びの人事戦略)
いくつかの点で日本と韓国の間には、決定的な戦略の違いがあります。比較すると以下の図のようになります。

大企業を比較してみると、韓国企業は徹底的に世界進出を目指し、グローバル戦略をとっています。ガラバゴスで国内市場を重視する日本企業との戦略上の違いが顕著です。今のところ、生産性は日本の方が韓国よりも上ですが、韓国はトップダウンを徹底すること、グローバル市場での生き残りを目標にすること、顧客を見てマーケティングを重視すること、そして成果主義を貫くことなど、戦略の「徹底」が特徴的です。これに対して、日本企業は、既存のマーケットや国内シェアを維持する現状維持を何より重視しているといえます。
日本が駄目な理由② 韓国と比べ低い起業数
日本が成長してこなかった第2の理由として、起業・イノベーションが進まなかったことが考えられます。そもそも、開業率と経済成長率との間には正の相関関係があるといわれています。ここ数年で、韓国では起業・イノベーションが進んでいますが、日本の開業率は国際比較してみると、圧倒的に低いのです。

日本を韓国を比較してみると、いくつも差があることは明らかです。整理してみると、以下の図のようになります。

起業した法人設立数(2020年)でみると、日本が13万1238、韓国が12万3305(日経新聞調べ)。スタートアップランキングでみると、日本が22位の585社、韓国が39位の331社と、これだけみると日本のほうが優れているように思えますが、日本と韓国とでは人口も経済規模も違いますので、それを考えると韓国の方が上になります。また企業価値が10億ドル以上の未上場企業で設立10年以内のスタートアップである「ユニコーン企業」の数(2010〜18年)を比べてみても、日本は1社で世界9位、韓国が6社で世界6位と、圧倒的な差があります(科学技術・学術政策研究所HPより)。起業は、雇用増加を生み出すことはもちろん、企業の新陳代謝も進めます。企業の参入・撤退が産業構造の転換やイノベーション促進の原動力となり、経済成長を支えるといっても過言ではありません。
ブライド捨て他国から学ぶべき
日本が韓国より平均賃金が低くなったことで、今では日本の大学生が韓国企業を目指す現象もあります。韓国にも先端技術や各方面で負けているなあと実感する機会も多くなりました。皆さんもそうでしょう?それでも、なお日本は先進国として他のアジア諸国より頭一つ抜けているという刷り込みが今の日本人の感覚にはまだあると思います。
でも残念ながら、今となっては現実ですらありません。これから日本が成長していくためにも、無駄なプライドは捨てて、韓国の成功を見ながらその秘訣を素直に学ぼうとする謙虚な姿勢が必要ではないでしょうか。
「日本企業はイノベーションのジレンマに陥っている」と小寺は指摘します。イノベーションのジレンマとは嘗て革新的なビジネスモデルで大成功した企業が、大企業になると革新性を失ってしまう状況を指します。
今の日本に足りないものはなにか。そして、イノベーションを生むには、どうすべきいいのか。これから、小寺さんとともに、「日本経済をターンアラウンドする!・経済再生の処方箋?!」という連載を書いていこうと思っています。次回は、小寺さんがK-POPから学ぶことの必要性を書いてもらいます。
乞うご期待。
(次回は8月以降予定)
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