ファーウェイ、楽天、テンセント…産業補助金や投資で飛び交う経済戦争の「実弾」

【連載】『経済安全保障リスク』著者、平井宏治氏に聞く #2
ライター・編集者

(編集部より)経済安全保障を巡る新しい動きが日経新聞の一面トップに載ることも珍しくなくなってきた。ビジネスの現場からどう備えるか。新刊『経済安全保障リスク  米中対立が突き付けたビジネスの課題』(育鵬社)で、経済安保の事業リスクについてM&Aのプロの立場から警鐘を鳴らす平井宏治さんに、企業側から見た時の課題や対策を聞いた。

ファーウェイに投じられた8兆2400億円

――「経済安全保障」に関しては、サプライチェーンの問題、技術流出の問題のほかにもう一つ、産業補助金の問題が挙げられます。

【平井】ある産業、ある企業に国家予算から多額の産業補助金を投下する。それが研究開発を促進させるのはもちろんですが、本来かかるはずの開発費、つまりコストを企業や研究機関が負担する必要がないため、商品化した際の販売額を安く設定できます。そうした商品は高品質の上に安いので、他国、他企業の製品との競争に勝つことができる。ファーウェイはこうした産業補助金の勝者で、実に8兆2400億円もの補助金を得ていたといわれています。

lcva2/iStock
平井 宏治  株式会社アシスト社長
1958(昭和33)年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。1982年、電機メーカー入社。外資系投資銀行、M&A仲介会社、メガバンクの証券子会社、会計系コンサルティング会社勤務を経て、2016年、株式会社アシスト代表取締役社長。1991年からM&A助言ならびに事業再生支援業務を行う傍ら、メディアへの寄稿や講演会を行う。日本戦略研究フォーラム政策提言委員。著書に『経済安全保障リスク 米中対立が突き付けたビジネスの課題』(扶桑社)がある。

――ファーウェイ製品が世界での価格・技術競争で勝てる大きな要因ですね。

【平井】中国製品、特にパソコンには以前からバックドア(PC内の情報を勝手に別のところに送信する)の問題が指摘されているのですが、それでも日本人が中国製のパソコンを買うのは、価格が安いからにほかなりません。それは中国の労働者の賃金が低いからというだけではなく、こうした産業補助金の影響が確実にある。いわば国家ぐるみのダンピングのようなものです。

少し前までは多くの日本の電機メーカーがパソコン、特にノートパソコンを製造・販売していました。しかし多くが中国製品との価格競争に敗れ、撤退したか二束三文で事業を売却しているのが現状です。かつて日本の白物家電がたどった命運と全く同じですね。

――これでは自国の製造業が持ちません。しかしあくまでも産業補助金は中国国内でやっていることであり、他国でも多少なりと同じような制度はあります。対抗する術があるのでしょうか。

【平井】国際社会も、中国のこうした産業補助金を使った「経済戦争」を問題視してはいます。しかし中国の制度は非常に不透明なこともあり、WTOも勧告を出しあぐねている状況です。

アメリカのトランプ政権は「ダンピングされた製品には関税をかける」という方針で対抗しました。日本も恐れず、この方針を踏襲すべきではないでしょうか。国内産業を守るために、これはやはり必要な観点です。

楽天・テンセント提携の「不都合な真実」

――中国との取引を行う対象が「ヒト」や「モノ」の場合は、まだしもその行き来を制限しやすい一方、データとなるとかなり難しい。例えば日本国内に5000万人ものユーザーを抱える楽天は、中国企業のテンセントとの提携を発表しています。

改正外為法で外国人投資家や海外投資機関が日本の通信インフラなどの「コア業種」にあたる企業の株を取得する際には、割合によって事前の届け出が必要で、改正によって取得比率10%以上から1%に引き下げました。ところが楽天は「事前届け出が免除される条件」である「役員を出さない」「非公開情報にアクセスしない」をクリアしたとして、届け出を〝回避〟しました。

【平井】私はこの提携を非常に懸念しています。国家安全保障局経済班の人たちは、M&Aに関する実務のことを知らず、楽天の言い分をそのまま受け取っているのではないか、と。

楽天は「テンセントとの提携は業務提携ではなく、純投資を受けるだけだ」と言っていますね。つまり「金を出してもらうだけで、それ以上でもそれ以下でもない」と。しかし一方で楽天は、テンセントに関する発表を行った同日に、日本郵政との業務資本提携についても発表しています。

どちらのケースでも楽天は同じく「新株を出して資金調達をします」と言っています。しかし楽天は表向きには、片や日本郵政とは「業務資本提携です」と言い、片やテンセントとは「純投資です」といっている。この説明には無理があるのではないでしょうか。しかも、それぞれの内容を見比べると、「戦略的提携」と全く同じ言葉を使っています。

個人テータの管理に危機感を!

――仮に楽天がテンセントと「提携」し、情報共有がなされた場合、企業側は中国共産党の指示があれば、社が持っているすべての情報を当局に提示しなければなりません。

【平井】中国の「国家情報法」によるものです。仮に楽天・テンセントの関係が「提携」だった場合、楽天は個人情報をテンセントと共有する可能性があります。そして中国共産党・国家情報院はテンセントに対し、いつでも情報召し上げの命令を下すことができる。これによって、日本の楽天ユーザーの様々な情報が、テンセントを通じて中国当局にわたることになる。

「単なる買い物履歴のデータでしょう。要人はともかく、一般人の履歴なんて、そんなに大したことはないのでは」と考える人もいるでしょうが、膨大な個人データ、つまりビッグデータが独裁国家・中国にわたることの意味、リスクは重い。個人の趣味、興味、行動履歴が中国に筒抜けになりかねません。

また、データそのものだって非常に大きな財産ですよ。ビックデータの価値は、なんらかの政治外交工作に使えるというだけではありません。日本人の多くのユーザーはLINEの情報管理の問題に関しても軽視していますが、自分のデータを差し出すことがどれほど危険なことなのか、個々人がもう少し危機感や警戒感を持つべきです。

最終回 #3に続く

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