中国の不動産バブルは、米国の金融引締めで破裂する

国内金融の理論から先読みすると...
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • 中国の不動産バブルはなぜ崩壊しないのか。その構造と今後を読み解く
  • 国民の根強い不動産信仰や、日本のバブル崩壊を教訓に当局が大甘規制
  • しかし、米国が金利を上昇させた場合、中国も追随せざるを得ない理由が

中国の不動産市場はバブル状態にある。これは、多くの人によって指摘されている。1998年の住宅制度改革以降、中国の不動産取引が活発化する中で、2008年のリーマンショック後に政府が行った4兆元の財政支出と大幅な金融緩和は、景気の回復だけでなく不動産価格の急上昇ももたらし、中国の不動産市場にバブルが発生した。

このバブルは、明日にも破裂すると言われたが10年以上経った今でもまだ破裂していない。昨年以降、コロナ禍の影響を受けた商業用不動産や地方都市では、価格の鎮静化が見られるが、上海、杭州、北京、南京、深圳などの大都市を中心に住宅価格は依然として上昇し続けている。

中国・上海(fotoVoyager/iStock)

なぜバブルは弾けないのか

今年1月に中国人民銀行(中央銀行)は、金融機関に対して不動産関連融資の伸びを抑制するように要請して住宅投資熱を冷まそうとしたが、あまり効き目はないようだ。70大都市の新築住宅価格の対前年比は今年1月3.9%、2月4.3%、3月4.6%、4月4.8%、5月4.9%(National Bureau of Statistics of Chinaのデータ)と上昇のスピードを上げてきている。

出所:BIS住宅価格データベースより米セントルイス連銀が採録したデータをもとに作成

中国の不動産バブルの要因のひとつは、国民の根強い不動産信仰だ。中国では社会保障制度が十分でないため、国民は貯蓄をして将来に備えており、中国人の貯蓄率は日米欧の諸国よりはるかに高いが、貯めたお金の運用先が限られている。海外への資金の持ち出しは厳しく制限されているし、株への投資は2015年に大暴落が起きて多数の自殺者が出るなど悲惨なことがあったため、敬遠する人が多い。そうした中で住宅価格は若干のアップダウンはあったが、右肩上がりの上昇傾向が続き、中国人の格好の投資先となっている。

今では2軒ないし3軒の住宅を所有している人は珍しくないが、賃貸市場が整備されていないこともあって賃貸収入ではなく、値上がり益を期待した投資のため、内装すら施さず、夜になると明かりがつかない幽霊が住んでいるような高層マンションが林立している。

また、価格の高騰している上海などの大都市では、住宅の保有は1家族2軒までに制限されているが、この規制をかいくぐるために偽装離婚が急増したことから、当局は今年1月下旬に離婚後3年以内の住宅購入を厳しく審査することとしたりするなど、どうみても異常な状況が続いている。

しかし、このような異常なバブル状態の中でも、中国政府・中央銀行は上述のような不動産融資の伸びの抑制を要請する程度の措置はとるが、かつて日本の大蔵省・日銀が不動産融資の総量規制や公定歩合の5回にわたる引上げで徹底的にバブルをつぶしたようなことはしていない。

こうした中国政府が断固とした態度を取らないことが、中国の不動産バブルがつぶれない大きな要因だが、これは日本のバブル崩壊を研究して急激なバブルつぶしは経済に大きなダメージとなることを学んだからだと言われている。しかしそれだけではなく、中国では不動業界が経済の極めて重要なセクターとなっていることが大きい。不動産投資はGDPの10%近くを占めており、建設資材など関連する産業を含めるとGDPの約3割にも達すると言われている。また中国の地方政府は不動産業者へ土地を貸す(中国では土地は私有できない)ことによるリース料で歳入のかなりの部分をまかなっており、もし不動産バブルがつぶれると中国経済全体が計り知れない深刻なダメージを受けることになるのだ。

Nastco/iStock

アメリカの金利が上昇すると…

こうした政府の生ぬるいバブル対応のためにいつまでもバブルが破裂しないので、政府の統制が隅々にまで行き渡る中国では、普通の資本主義諸国と違って、不動産バブルは破裂しないとまで言う人もいる。しかし、古今東西つぶれなかったバブルはない。

それでは中国の不動産バブルは何が引き金となってはじけるのかというと、私はアメリカの金利が上昇すると中国国内の金利も引き上げざるを得なくなり、不動産融資のコストが高くなってバブルがはじけると思っている。

「国際金融のトリレンマ」という経済理論があって、「海外との自由な資本移動」と「為替相場の安定」と「国内金融政策の独立性」の3つのことは同時に達成することはできず、必ずその一つを諦める必要があるとされている。これまで中国は資本移動に制限をかけることによって為替相場の低位安定と国内金融政策の独立を維持して経済発展してきたが、近年は人民元の国際化政策の下で海外との資本移動規制を緩めてきている。その一方で人民元の為替相場を米ドルに対して一定の変動幅に収める政策(管理フロート制度と呼ばれている)を取る以上、国内金融政策はアメリカの金融政策に追随せざるを得ない。もし、アメリカが金融引締めをして中国が金融を緩めたままだと、急激に人民元安が進んで、資本の海外流出などの弊害が生じてしまう。

現在アメリカでは、サマーズ元財務長官をはじめとする様々な識者が、新型コロナ対策とバイデン財政でばらまかれた資金がインフレを引き起こすと言って、FRBに金融の引き締めへの政策転換を促している。

これに対してFRBは今のところすぐに金融引き締めに転じるそぶりは見せていないが、物価はじりじりと上昇しつつあるので、金融政策を引き締めの方向に転じる日も遠くないかもしれない。そうなると中国も金融引締めを行わざるを得なくなるが、そのときこそ長年つぶれなかった中国の不動産バブルがつぶれるときだ。

 
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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