コロナ新規感染者数、計量分析から見える「医療崩壊の先行指標」

政府がいまやるべきことは?
2021年08月03日 06:00
経済学者/高崎経済大学教授
  • 止まらない新型コロナの感染拡大。新規感染者数と死亡者数の計量分析
  • 約1か月遅れて死亡者数が増加。ただ、直近の死亡率は約3分の1まで減少
  • 人流が止まらないが、医療リソースには限界。政府が今やるべきことは?

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。政府は7月9日に4回目となる緊急事態宣言を発令したが、東京都では新規感染者数(PCR陽性者数)が7月28日に初めて3000人を超え、過去最多を更新し続けている。

gale /iStock

一方、ワクチン接種のスピードは一時期よりは鈍ったものの、現時点では日本国民の24%が2回目の接種が終わり、特に重症化リスクの高い65歳以上の高齢者の接種率は75%となった 。高齢者のワクチン接種が進めば、コロナウイルスの感染者が増加しても死亡に至るリスクが減少するとの指摘がある。

コロナウイルスの致死率を計測するためには、正確な感染者数と死亡者数の把握が必要だが、PCR検査数が不十分である可能性や公的機関(保健所)が把握していない感染者も実際には存在するため、実際の致死率の推計はそれほど簡単ではない。そこでここでは、現在の新規感染者数によって予測できる1か月後の死亡者数はどのくらいかということに焦点をあて、計量分析の手法を使って簡単な検証を行った。

新規感染者数と死亡者数の関係は変化する

グラフには、2020年2月28日から2021年7月25日までの東京都の1日当たりのPCR陽性者数と死亡者数の推移および重症患者数(東京都基準)の増減を表している 。このグラフによると、新規陽性者数が増加してから約1か月遅れて死亡者数が増加してくるのがみてとれる。実際に、新規陽性者数と死亡者数の同日の相関係数は0.26であるが、死亡者数の遅れを30日から33日とすると0.78と高くなる。

しかしながら、新規陽性者数と死亡者数のこの相関関係はずっと一定であったわけではない。構造変化テストという計量手法を用いると、その関係が複数回変化していることがわかる。関係が変わった可能性の高い時点は、1回目の緊急事態宣言発令から約3週間後の2020年4月30日前後、2回目の緊急事態宣言直前の2020年12月27日前後、および宣言解除前の2021年3月3日前後である。

それではどのように変わったのか。4つの期間、すなわち

(1)2020年2月28日から2020年4月30日まで
(2)2020年5月1日から2020年12月27日まで
(3)2020年12月28日から2021年3月3日まで
(4)2021年3月4日から7月25日まで

に分けて、簡単な推計とそれに基づくシミュレーションを行ってみた。
その結果、仮に1日1000人の新規陽性者数が観察された場合、1か月後に1日当たり

(1)の期間では28人
(2)の期間で11人
(3)の期間で15人
(4)の期間で8人

の死亡者が出ることとなる。つまり、昨年春のパンデミック当初の死亡率はかなり高かったが、直近の死亡率は約3分の1まで減少していることがわかる。ただし、ここでの死亡率の定義は、ある日の「観察された陽性者数」が30日後の死亡者数をどのくらい説明するかを推計し予測を行った値である。

昨年春のパンデミック初期がなぜ死亡率が高かったのかは、昨年春はPCR検査体制が不十分であったことに加え、保健所や医療機関が確立した治療法もない未知のウイルスの蔓延で大混乱し、機能不全に陥ったものと推測される。だがその後徐々に医療現場が落ち着きを取り戻し、コロナウイルス患者への適切な対応が取られるようになったため、(2)と(3)の期間はおよそ死亡率が半分となり、直近の(4)では、変異株の弱毒化の可能性もあるが、今年2月17日から開始されたワクチン接種の効果が含まれている可能性が高い。

1日のPCR陽性者6000人が「臨界値」

itakayuki /iStock

死亡率が低くなっても感染者数が増加すれば入院患者も増え、特に重症患者の増加は医療機関の負担が増大することも考えられる。グラフからは判別が難しいが、1日当たりの陽性者数と重症患者数の増減の相関係数は、同日が一番大きく約0.3と弱いながら正の相関があることがわかる。

ただし1日の重症患者が累積していくと重症患者用の病床は埋まっていくはずだ。相関係数でみると、陽性者数の増加は約14日後の重症者累積数と強い相関があることが確認できる。しかしこれらの関係も一定ではなく、陽性者数と死亡者数の関係と同じような傾向をもっている。直近では、1日の陽性者数が1000人となると、当日は重症者が1名増え、14日後に重症者の累積数は85人程度と予測される。

東京都は当初より、重症患者用も含め入院患者用確保病床を増加させている。7月31日時点で入院患者用は5967、重症者用は392である 。PCR検査体制が十分であることを前提として、ここでの推計をベースにすると、1日当たりの陽性者数が7日移動平均で6000人を超えたあたりで、14日後の重症者用の確保病床が全て埋まってしまうことになる。

政府はエビデンスをもって自粛要請を

昨年春以来、新型コロナウイルスの感染爆発によって、私たちの生活は大きく変わってしまったが、ワクチンの出現によって死亡リスクが大きく減少した可能性が高い。今後ワクチン接種が進むにつれ、死亡リスクは減少の一途をたどることになるだろう。

4回目の緊急事態宣言後もなかなか人流が減らないとされるが、度重なる自粛要請に慣れてしまったことに加え、もしかすると人々は、新規陽性者数と死亡者の関係が変化し、すでに新規感染者数が3000人や4000人程度ではコロナウイルスを恐れる必要がなくなっていることを悟ってしまっているのかもしれない。そうだとすると、何らかの新しいイベント(変異種の猛毒化など)によって死亡リスクが驚異的に高くならない限り、もはや政府の要請だけでは人流は止まらない。

しかしそうはいっても、医療リソースには限りがある。感染拡大を止めなければ医療崩壊は必ず起こる。いま政府や東京都がやるべきことは、さらなる重症者数の増加に備え確保病床を引き続き増加させることと、そして旧型になりつつあるコロナウイルスをインフルエンザウイルスと同じ指定感染症5類相当に落とす時期の検討をそろそろ始めるべきだ。人々はいつまで自粛を続ければよいのか、どうなったらコロナ前の正常な生活に戻れるのかそのゴールを求めている。

同時に、新規感染者数より死亡者数と重症者数の方が重要な指標ではあることは当然だが、新規感染者数もまた死亡者数と重症者数の「先行指標」としてやはり重要であることを政府は明確にアナウンスし、刻々と変化する陽性者数と死亡者数、重症者数の関係を、エビデンスをもって適時国民に周知させるべきである 。コロナウイルスの死亡リスクが小さくなったとはいえ、医療が崩壊すれば全国民に悪影響を及ぼす。政府の要請に従わない国民も、医療崩壊は怖いはずだ。

  1. 政府CIOポータル参照
  2. データは東京都福祉健康局より入手した。データはすべて7日移動平均をとっている。
  3. 相関係数とは、-1から1までの範囲をとる指数。1に近ければ正の相関、-1に近ければ負の相関、0に近ければ相関がほとんどないことを示す。
  4. 東京都コロナウィルス感染症対策サイト参照。
  5. ここでのエビデンスはオープンデータのみを使用した簡単な回帰分析をもとに分析を行っている。そのため結果はあくまでも一例である。政府はもっと精度の高いエビデンスを出すことは可能かもしれない。

 

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経済学者/高崎経済大学教授

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