コロナの危機から温泉旅館のM&Aで攻めの業態転換!小野写真館のチャレンジ
連載『ビジネスで社会を変える共感力』#5- コロナでブライダル事業が窮地に陥った小野写真館が温泉旅館をM&Aした理由
- 「感動体験創出企業」を掲げ、「高級旅館×写真」の新事業に挑戦して話題に
- 攻めの経営は続き、フォトブックアプリ事業を買収。フォトテック事業にも進出
このコロナ禍において、いよいよ待ったなしの状況になっている後継者不足の問題において、筆者は新しいヒーローをみつけました。フォトスタジオ事業やブライダル事業などを運営する小野写真館(茨城県)の小野哲人社長です。小野写真館は、2020年10月に高級温泉旅館「桐のかほり 咲楽(さくら)」(静岡県)を譲り受けました。

コロナを機にM&Aで業態転換
経済産業省によると、2025年には70歳以上の経営者が約245万人となり、その内の約半数が後継者未定であるとされています。コロナ禍の影響で、経営環境が激変するなか、早急な課題解決が求められています。その解決策の一つが、企業や事業を第三者に承継する事業承継M&Aです。そのヒーローの一人が小野社長だと筆者は考えます。
小野社長はご両親から引き継いだ写真館1店舗から多角化し、15年間で年商を約8倍へと拡大させた手腕をもつ方です。しかし、同社は、コロナ禍の影響を受け、2020年4月から7月に予定されていた挙式の大半がキャンセルとなり、同社の柱であるブライダル事業は一時7~8割減となりました。
その小野写真館は、なぜM&Aをしたのでしょうか?厳しい状況のなか、小野社長は、新しく「感動体験創出企業」というビジョンを掲げ、業態転換により新たな収益源を生み出すべく、M&Aを通じた成長戦略を打ち出したのです。その第一弾として、河津桜で有名な河津町にある高級温泉旅館「桐のかほり 咲楽」を事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」を通じて譲り受けました。
「咲楽」の創業者・萩原良文氏は、70代になり、後継者不在で廃業も検討していたのですが、お客様から「続けてほしい」と熱望され、第三者承継を検討。おもてなしでお客様に感動していただくことを大切にしてきた萩原氏は、小野写真館が掲げる「笑顔、幸せ、感動」という理念に共感し、また、「今まで培ってきた写真技術やブライダルのおもてなしの相乗効果をもって新ビジネスにトライしたい」という小野社長の熱い想いに共感し、その想いに応える形で小野社長にバトンを渡しました。

小野社長に最初に咲楽に訪問したときに印象に残った点について伺いました。
「『咲楽』へは小道を入り、坂を上っていく道のりがあります。坂を上り切って咲楽を眼前にした時に突然、気持ちが変化したのです。挨拶の後、施設を全て見させていただきました。その時心からこの場所に感動している自分に気づきました。ビジネスとしてM&Aの交渉に来ているのに、旅館を経営したことはないのに、心の底から咲楽に関わりたいと思ったのです。この時の気持ちは今でも忘れられません。
小野写真館での結婚式や成人式、写真撮影は、形としての式が目的ではありません。私たちが提供するのはお客様に感動を体験していただく点にあります。旅館も時間、美味しいご飯、温泉などを通じて素晴らしい感動体験を提供しています。事業譲渡にあたっては経営的なコストの問題や解決すべき課題も相当ありました。しかしそれらを乗り超えてでも実現させたいという、ビジネスと個人的な感動が全て一致したのです」(小野社長)
新事業「高級旅館×写真」が話題に
Visionalグループが運営する事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」のPRを担当する筆者は、小野社長と萩原氏の素晴らしい物語に感動し、より多くの方々に知っていただきたいと思い、オンライン記者説明会を開催。今度は、お二人の物語を聞いたメディアの方々に共感の輪が広がり、後日、「ワールドビジネスサテライト」の特番の「コロナに負けない!わたしの秘策」という特集で、中小企業の経営者3人と大江麻理子キャスターが語り合うオンライン座談会に小野社長が選ばれ、M&Aによる「高級旅館×写真」の新事業について話されました。
そして、小野写真館は、「高級旅館×写真」事業の次の展開に、「withコロナの新しい祝いのカタチ」として、「咲楽」の全館(全4室)を貸し切った親族約10名による挙式を2021年2月に初開催し、満開の河津桜の前でウエディングフォトも撮影されるとのことでした。コロナで結婚式を挙げられないカップルが多いなか、この挙式の様子を多くの方々に知っていただきたいと筆者が思ったところ、宿泊業界におけるM&Aの動向をテーマに取材を検討されていた「ガイアの夜明け」のご担当の方と運よく出会うことができました。番組の方が、小野社長と萩原氏のストーリーに共感してくださり、2020年の年末から、密着取材が開始。
さらに、緊急事態宣言下で非常に厳しい状況であったにもかかわらず、貸し切りウエディングの第一号カップルの方々がご協力くださり、ウエディング前日にカップルにオンライン合同取材ができる場を設け、プレスリリースも発表。その物語については、SankeiBizの記者の方が丁寧に取り上げてくださいました。また、密着取材をしていただいた「ガイアの夜明け」では、一連の物語が放送され、共感の輪がどんどん広がっていきました。

フォトテックにも進出
ここからさらに第二章へ続いていきます。後日、小野社長から、ITサービスを運営するポーラスタァ(東京都)から、「ビズリーチ・サクシード」を通じて新たにフォトブックアプリ事業を譲受することになったという連絡を筆者は受けました。ポーラスタァ氏は、赤ちゃんの毎日の成長を写真とコメントで簡単に残せるフォトブックアプリ「BABY365」などのサービスを手掛ける会社です。創業者で当時社長だった高沖清乃氏は、3人のお子さんの子育てをされてきたご経験から「BABY365」を立ち上げ、現在、数万人のユーザーの方々が利用するサービスに成長しています。
「私の場合は、アイデアを出してそれを少しずつ改善していくことが得意。0から1は踏ん張れるのですが、1を100や1,000にすることは無理です。会社を大きくするには別の能力が必要です。第一走者の私が限界まで頑張り、『ここから先はよろしくお願いします』と次走者の小野社長にバトンを手渡したわけです。
最後まで自分でやり続けることだけが正解ではありません。役割や分担、得手不得手もあるでしょう。私の周りには、妊娠、出産、子育てを経て気付いたことを大切に事業化する女性経営者が大勢います。彼女たちには、子どもの成長やパートナーの海外転勤など、事業の存続を考えるタイミングが何度か訪れます。でもそんな時、事業を閉じずに『引き継いでくれる方がいたらお願いしよう』となれば、気持ち的に随分と楽になるのではないでしょうか。自分のライフステージに応じてアクセルを緩めたり踏んだりしていいんだと思うと、人生のあり方が違って見えてきました。今、『世界を広げよう』『子どもと関わる時間が増やそう』とすごくわくわくしています」(高沖氏)
高沖氏からお話を伺い、事業を譲り渡す経営者にとっても、経営の一つの手段としてのM&Aという選択肢や、その先の可能性が広がっていっていることを多くの方々に伝えたいと思いました。
一方、小野写真館は、「BABY365」などを譲り受けることで、新たにフォトテック(写真×テクノロジー)事業を開始。コロナ禍に2事業のM&Aにより、スピーディーに業態転換されている小野写真館の物語に共感し、「ビズリーチ・サクシード」では、事業譲渡日にプレスリリースと成功事例インタビュー記事を公開。そうしたところ、「ワールドビジネスサテライト」や日本経済新聞などで紹介されたほか、8月末に小野社長のインタビュー記事が、ヤフートップページにも掲載。その日はパラリンピック開会式の日で、開会式やコロナ関連の記事と並んでいたのが、印象的でした。

小野社長は、「M&A経営」(M&Aを経営に取り入れること)を体現する、「M&A経営」のトップランナーです。筆者がPRを担当する事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」は、「価値ある事業を未来につなげる」をミッションに掲げ、日本の多くの経営者の方々にとって、「M&A経営」が当たり前の選択肢となるような文化を経営者の皆様とつくりたいという想いがあります。小野社長、萩原元オーナー、高沖氏をはじめ、「M&A経営」のヒーローである経営者の方々のバトンをつなぐ物語を、今後も多くの方々に伝えていきたいと考えています。
(本連載は今回で一度お休みします。2022年春に再開予定です。お楽しみに)
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