過去最大の戦闘艦も…中国海軍の空母打撃群構想を読む
縮まる日米との差、強まる台湾危機- 元空自情報幹部が、4月に沖縄海域で航行した中国の空母打撃群の動向分析
- 尖閣沖で早期警戒ヘリ発艦。北海艦隊の空母群に東海艦隊所属艦が含まれていた理由
- アジア最大級の戦闘艦も参加。台湾侵攻や尖閣などで想定できる艦隊の動向
(編集部より)中国海軍の艦隊が、沖縄・宮古島間の海峡を通過して太平洋に航行することも珍しくなくなってきました。同じような報道が繰り返され「定番化」すると、一般国民の関心は薄くなりがちですが、軍事のプロから見れば、どの軍艦が参加しているかなどわずかな「変化」だけでも政治・外交的に新しい意味を持つことがあり得ます。元空自情報幹部の鈴木衛士氏に、先月の沖縄海域での中国艦隊(空母打撃群)の動きを分析してもらいました。
空母「遼寧」グループの活動
防衛省統合幕僚監部の発表などによると、4月3日に沖縄・宮古島間の海峡を南下し、南シナ海などで活動していた中国海軍の空母「遼寧(りょうねい/CV-16:65,000トン級)」と、この随伴艦である「レンハイ(ミサイル巡洋艦13,000トン級)」、「ルーヤンⅢ(ミサイル駆逐艦7,000トン級)」2隻、「ジャンカイⅡ(フリゲート艦4,000トン級)」、「フユ(高速戦闘支援艦48,000トン級)」という計6隻の空母打撃群(グループ)が、同月26日に再び同海峡を北上して帰航した。
山東省の青島(チンタオ)を母港とするこの空母「遼寧」を中心に編成されたグループは、2016年に初めてこの海峡を通峡して太平洋へ進出した後、2018年以降は毎年ここを通って外洋で活動するようになった。
2016年当初は、西太平洋周辺のみで活動しており、グループで外洋へ進出して活動すること自体が訓練の主目的と見られていたが、2018年以降は徐々に海域も訓練内容もその活動の幅を広げ、その際の空母「遼寧」の艦載機(戦闘機や哨戒機等)の機数も増加していった。
そして、昨2020年と本年はほぼ同じようなパターンをとり、この海域を通過後に台湾周辺でこの海域を主担当とする東海艦隊(司令部は浙江省寧波)の艦艇や航空機などとともに演習を実施し、その後南シナ海へ移動してこの海域を主担当とする南海艦隊(司令部は広東省湛江)の艦艇や航空機などと演習を実施したと見られる。
このような一連の空母打撃群による活動は、それぞれの艦艇や乗員の練度向上のための訓練という目的だけではなく、活動する海域の周辺国などに対する戦略的示威行動(軍事的圧力)の意味合いが濃いということを、われわれは念頭に置かなければならない。
尖閣沖の日米艦艇を意識?
本年と今年の違う点は、昨年より5日間ほど日程が延伸していたほか、26日の夜間に沖縄・宮古島間の海峡を北上した後、翌27日に尖閣諸島北方50kmから100㎞の海域で早期警戒ヘリコプターを発艦させるなどして訓練を実施したことなどである。
これは、航海中に周辺で行動を監視していた日米の艦艇を意識し、帰り際に尖閣諸島の領有権をアピールする目的で実施したものと考えられる。
なお、今回のグループ編成で特徴的だったのは、昨年1月に就役したレンハイ級ミサイル巡洋艦「南昌(なんしょう)/CG-101:13,000トン」が加わっていたことである。
この「南昌」は、中国が新たに建造した過去最大の戦闘艦「レンハイ級」の一番艦である。この「レンハイ級」を中国海軍は、「055型駆逐艦」と呼称しているが、満載排水量13,000トンという大きさと「ルーヤンⅢ(ミサイル駆逐艦)」の倍近い112セル(ルーヤンⅢは64セル)もの垂直(ミサイル)発射装置(VLS)を装備していることなどから、米国国防総省や英国国際戦略研究所の年報「ミリタリーバランス」などがこの艦級を中国初の「ミサイル巡洋艦(CG)」と位置付けている。
中国はこの新たなレンハイ級の一番艦「南昌」を、中国海軍初の空母「遼寧」が所在する「北海艦隊」に配属させることで、空母打撃群としての戦闘力の中枢に据えようとしているのであろう。
そして、今回見逃してはならないことがもう一つある。それは、今回のグループ編成の内「ルーヤンⅢ」2隻のうちの1隻(艦番号131)と「フリゲート艦ジャンカイⅡ(艦番号577)」の計2隻が、空母の所在部隊である北海艦隊の所属艦ではなく、東海艦隊の所属艦であったということである。
2019年6月にこの空母グループが太平洋へ進出した際、新たに空母用の最新型補給艦である「フユ級高速戦闘支援艦」が加わったことが確認されたが、この時以来、2020年もすべてこのグループは北海艦隊の所属艦で編成されていた。したがって、筆者はこの2019年6月の時点で北海艦隊に正式に空母打撃群が編制されたものと見ていた。
ところが、今回のグループに東海艦隊所属の戦闘艦艇が2隻含まれていたのである。これはいったい何を意味するのだろうか。これを解くカギは、中国の空母配備計画にあると筆者は考えている。
「遼寧」に続く空母の動向
北海艦隊で空母打撃群が編制されたと思われる2019年も終わりに近づいた12月17日、中国初めての国産空母で中国海軍2隻目となる空母「山東(さんとう)70,000トン級」が海南島の三亜で就役し、南海艦隊に配備された。
現在は、南シナ海を中心に活動しており、5月2日には中国海軍の報道官が、「空母山東を中心とする部隊(新たに打撃部隊を編制した可能性)が南シナ海で訓練を実施した」と発表した。
そして、国産2隻目で中国海軍3隻目となる空母「003型/85,000トン級」が来年には進水し、その後2~3年以内に就役する見込みである。この003型は、米海軍の空母と同様の「アングルド・デッキ(艦載機のターンアラウンド時間を短縮するため、艦載機の着艦方向を斜めにずらして艦首側の飛行甲板を発艦専用にしたもの)」となっており、「電磁式カタパルト(発艦が容易となる)」を装備していると見られている。
中国はこの003型を少なくとも4隻は建造する計画があるとしている。おそらく、この一番艦を東海艦隊に配備するつもりなのだろう。
つまり、この003型が就役したあと、可能な限り早期に空母打撃群として作戦任務が遂行できるよう、すでにこれが編制されている北海艦隊の空母打撃部隊に東海艦隊の戦闘艦艇を派遣し、空母グループの編成艦として訓練に参加することで打撃部隊の艦艇としてのノウハウを得ようとしているのではないか。
台湾有事の陽動作戦視野?
そういえば、2016年12月に初めて空母「遼寧」のグループが沖縄・宮古島間を通過して外洋で活動したときには、計6隻の内「ルーヤンⅡ」と「ルーヤンⅢ」2隻のミサイル駆逐艦が南海艦隊の所属艦であった。
003型は、その大きさや搭載機数などは米空母に匹敵するほどのレベルである。これが東海艦隊に配備されたならば、この主担当海域に近い台湾やわが国への脅威は著しく高まるであろう。中国海軍とこの地域の日米海軍の実力差が縮まれば縮まるほど、台湾への武力侵攻のハードルは下がる。
台湾侵攻時には、日米の兵力を分散させるため、尖閣諸島や南西諸島に陽動作戦を仕掛ける可能性が高いと筆者は考えている。尖閣と台湾となれば米軍はまず台湾を守るだろう。
わが国は、このようなシナリオを見据えて現実的な防衛力整備を図らなければならない。空母は移動する基地である。地上も含めてわが国への攻撃根拠基地を叩くのは(国家の自衛権に基づく)当然の権利であり、国民を守るための国家の責務でもある。
わが国に対する脅威に十分対抗できるだけの有効な(攻撃能力を含む)軍事力を装備しない限り、将来における「わが国の独立」は保障されないであろう。
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