中国どころかタイにも遅れる自衛隊のドローン軍備、日本の“軍事後進国”化を憂う

このままでは戦う前に「負ける」可能性
安全保障アナリスト/慶應義塾大学SFC研究所上席所員
  • タイ海軍が昨秋、自国開発した海上偵察用ドローンの空母での離着陸に成功
  • 中国や欧米各国軍と同様にのドローン運用ノウハウを蓄積した意義
  • 新興国でもドローン前提軍の時代。このままでは日本は“軍事後進国”に

タイ海軍は、2021年秋、自国で開発した海上偵察用ドローンが、空母チャクリ・ナルエベトでの離着陸に成功した。日本の自衛隊ではチャレンジすらしていない、自国でフル生産した機体の空母への離着陸に成功したことは自衛隊のこの分野における遅れを白日の下に晒した。

サイアムドライテック社が公開したMarcus Bの離着陸試験飛行の動画より

タイ海軍が成功した艦載偵察ドローン

開発を担当したタイ企業のサイアムドライテック社により11月17日に公開された動画で登場した機体は、MARCUS-B(Maritime Aerial Reconnaissance Craft Unmanned System-B、海上空中偵察無人システムB型)と名付けられており、タイ王国海軍研究開発局(NRDO)、サイアムドライテック社が軍産共同開発したものである。

機体の特徴としては固定翼のVTOL(垂直離着陸機)となっている。動力はバッテリーである。離着陸を滑走せずに垂直移動で行うものとなっており、動画を見ればわかるように空母からの発艦も着艦も成功させている。

サイアムドライテック社が公開した動画。Marcus Bが空母甲板に水平着陸

機体の役割としては、空母や駆逐艦から発進しての偵察用とされ、過去に駆逐艦から密輸の疑いのある船舶を偵察する実験を行った。全長は2.5mで、最高時速は約70kmと前のタイプより遅くなった変わりに、10kgの荷物を運搬でき、2時間も滞空でき、最大航続距離は160-180kmとされている。

動画を確認したところ、プロポ(操縦装置)はDJIの民生品、飛行データの確認はパナソニックのタフブック、飛行ルート設定はフリーソフトのMissionPlannerなど、民生品を多数使用している。実際、このドローンの生産費用は1,200万バーツとされ、日本円でたったの約4150万円だ。

作戦行動中の軍艦でも行動可能なドローン

注目すべきは、今年から量産へと入るとの報道があることだ。これはつまり、運用時の艦艇では様々なレーダーが稼働しているが、タイ海軍はそうした電波環境下でも(すでに成功している中国軍や欧米各国軍と同様に)ドローンを運用できるノウハウを蓄積したということになる。

また外洋行動時航行中の艦艇は相当動揺する可能性も予想されるが、そうした環境でも着艦できると判断したことになる。このようにドローンを軍艦で運用するには、他にも様々な課題を乗り越えたうえでのノウハウ蓄積が必要だが、タイ海軍はそれを乗り越えたのだ。

サイアムドライテック社が公開したMarcus Bの離着陸試験飛行の動画

こうしたノウハウ蓄積が持たらす意義はいうまでもない。ドローン本体に人間を搭載する必要がないことは、人間を載せることに付随した設備をすべて切ることが出来る。それは整備や運用コストを大きく減らす。金銭的・時間的コストの高いグローバルホークのようなものはいざ知らず、こうした民生技術発祥の機体であれば、整備性は有人機とは比較にならないほど向上する。

何よりも有人機と違い、長時間飛行できることで、偵察や監視任務にもうってつけだ。

そして人間が搭乗しておらず、安価な国産であることから、どのような環境下でも安易かつ迅速に発進させられ(有人機では戸惑うようなリスキーな環境下でも)飛行させられる。日本としても例えば海賊対処や北朝鮮の瀬取りの現場における情報取集に際し、高価な哨戒ヘリを撃墜のリスクをかかえて飛ばすよりも、国産ドローンの方があらゆる面でコスト価値がある。

特に、この国産化には大きな意味があり、撃墜や墜落しても即座に代わりを用意できる。これが海外製であれば、どうしてもコストはかかり、しかも遠路輸送する時間的コストもかかる。もちろん適切な自国開発できれば、ではあるが。

日本はドローンで軍事後進国に

そもそも、より列度の高い状況であれば(例えば不幸にも台湾侵攻作戦が発動した場合)南西諸島に迫る中国軍艦隊を偵察するために有人の哨戒ヘリを飛行させることは、ほとんど自殺行為に近い。

ドローンは妨害電波に弱いとの間違った偏見とは異なり、電波妨害に対抗できる、もしくは自律型で動くタイプも多数存在しており(そもそも電波妨害されれば有人機でも意味がない)日本にも、このような海上偵察用ドローンの国産化は必要不可欠だ。しかし世界でも有数の海軍国であるはずの日本では、そうした取り組みは聞こえてこない。たった4500万円程度のドローンすら自国開発しようとすらしていない

余談だが、防衛省は米海軍でさえ見捨てたレールガン(米議会は復活させようとしているが)の開発予算に令和4年度予算で65億円も投じているが、それに投じる数%でも振り向ければ、この種の艦載ドローンを開発できるであろうが、していない。

ドローンに限ってみれば、とうとう日本はタイにも劣る軍事後進国になってしまったのだ。そして、インドネシア軍もエジプト軍も国産の武装ドローンの開発に成功している。世界中の大国はおろか新興国ですらドローン前提軍としての産業基盤も運用上のノウハウを蓄積しているのだ。

岸防衛大臣という最後のチャンス

岸信夫防衛相(官邸サイト)

岸防衛大臣になってから確かに防衛省自衛隊のドローンへの無関心さは改善され、一気に予算がつきはじめた。特に昨年の防衛白書で「近い将来、あらゆる戦闘において、これらのUAVが使用される」とし、正規戦でも必須の存在と位置付けたことは、高く評価されるべきである。が、それでも不十分だ。岸防衛大臣は就任前より、お忍びで日本のドローン企業を訪問したとされるなど、ドローンに関心が強いとみられている。

しかし鈍重な巨大組織を動かしていくのは並大抵のことではない。

海上自衛隊は、ドローンの試験的運用経費として約50億円を計上したが、タイ海軍は少なくとも2014年以前より既に国産開発をスタートしている。タイ海軍は2014年より以前に国産開発と生産基盤に着手しているのに、海上自衛隊は何を外国から買うかの検討を始めた段階なのだ。

つまり、日本はその遅れを全力で取り戻さなければならない立場にある。その遅れを取り戻す際には、旧来の大型兵器のような慎重かつ鈍重なやり方ではなく、試作・試験・改良を迅速に繰り返すプロセスも同時並行でなければならない。

兵器とは物があればよいというものではない。そのノウハウを蓄積し、作戦コンセプトを作り上げなければ意味がない。岸防衛大臣というドローンの本質を理解する大臣の間に、ソフト・ハード面でも、そして国内産業基盤でも「ドローン前提軍」に脱皮しなければならない。

2017年フランスで展示された中国軍のドローン兵器(VanderWolf-ImagesI /iStock)

タイですら技術生産基盤の育成で7年も先んじる状況を克服しなければ、中国軍を抑止するどころの話ではない。実際、中国軍は昨年夏も無人機を南西諸島に飛ばしてきたが、あいかわらず、航空自衛隊はF15戦闘機で邀撃せざるを得なかった。2013、2018年にも同様の事例があったのにだ。どう考えても安価な無人機を、高価で貴重な有人機で邀撃することはコスト上も間違っているのにだ。

このままでは戦う前に消耗戦で負ける恐れすらあるのだ。もう時間はない。

 
安全保障アナリスト/慶應義塾大学SFC研究所上席所員

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