医師の発信、どう受け止める?読む側に必要とされるリテラシー
コロナでは鵜呑みにできなかったケースも...- コロナで医師の発信でも信頼できないことも…読む側はどうすれば?
- 「限りなくデマに近い医療情報」を見分ける方法は?
- ファクトとオピニオンの区別…リテラシーの具体的な高め方
新型コロナウイルスの流行が起こってから、多くの医師がFacebookやTwitter、ブログなどで発信を行ってきた。その多くはとても真摯なもので、日々情報をチェックする一般の人にとって、最新の知見を共有してくれる有益なものだ。
しかし一方で、わたしたちは、コロナ禍で、医師が発信する情報であっても、時には信頼できないものもあるということを身をもって学んだのではないだろうか。新型コロナウイルス流行の初期には、PCR検査に対する流言飛語が飛び交い、医療従事者の中には、そういった「デマ」とも呼べるものに加担した人も、ごく一部であるが存在した。

「限りなくデマに近い医療情報」を見分ける方法
わたしは以前から、医療リテラシーについて、啓発活動を続けているのだが、まず大事なのが、限りなくデマに近い情報を見分けることで、そういった医療情報は、下に書いたようないくつかの特徴を持っている。
情報を受け取ったとき、自分で論文などを根拠を探すことができれば、それにこしたことはない。しかし、多くの現代人は忙しく、また、日々量産される論文などの情報を集め、さらに評価することは、専門家にとってすらも難しい場合があり、一般の人にはほぼ不可能と言っていいだろう。だからわたしは、下のような、簡易的な特徴で、まずは吟味するに値する情報かどうかを見極めることをお勧めする。
- 「○○に効く!」「がんが消えた!」など、100%の断定
- 「免疫力アップ」など、「免疫力」という言葉が強調して使われている
- 「○○の陰謀」などの陰謀論
- 「有名医師、研究者が推薦!」など、誰かの権威を借りた宣伝文句
- 「動物実験での効果」を喧伝する情報
「デマではなさそうな情報」の信頼性はどう判断する?
今回は、ここからがむしろ本題で、「明らかにデマとわからないけれど、どのくらい信頼していいのかわからない」情報に関しては、どのように判断すればよいのかは、情報の扱いに慣れないと難しいだろう。
SNSやマスコミで、日々生み出される情報に関しては、むしろ、明らかなデマは少なく、発信者も善意のことが多い。また、受け取る側がどのような解釈をするかで、情報を生かすことができるのか、それとも、情報に振り回されてしまうのかが決まることも少なくない。
医療リテラシーを高めよう〜医師による「体験記」を例に〜
ここで、「医師の発信」を例にとってみよう。
最近、医師で、自身が新型コロナウイルスに罹患し、その体験を発信するのを目にする機会が増えた。感染症の専門家である館田一博東邦大学教授も、自身がオミクロン株に感染し、重症化した体験をテレビなどで語っている。
また、筆者自身は、自身は感染しなかったが、保育園に通う次女が感染し、次女は10日間の、自身は濃厚接触者として7日間の隔離生活を余儀なくされた。新型コロナウイルス感染症を、医師として診断したり治療したりするのとは異なり、自身が感染したり、濃厚接触者となったり、患者の世話をしたりする境遇になれば、それまであまり想像できていなかった困難を感じることもあった。

最近知人が、新型コロナウイルスに罹患した体験を綴っている医師のブログを紹介してくれた。
このブログには、自身の感染の経過や、世間のコロナ感染の状況、どこで感染したと自身が考えているのか、などについて、詳細に綴られており、なるほどど思い、興味深く拝読した。
ただ、医師による発信であっても、こうした「体験記」を読む場合、読み手は、いくつかの点で注意が必要だ。
一般的に体験記には、事実である「ファクト」意外にも、「感想」「意見」「推測」といったものも含まれる。ファクト以外の、主観的なものを「オピニオン」と分類するなら、体験記などの文章を読むときには、「ファクト」がどれで、「オピニオン」がどれなのかに注目することは有用だ。なぜなら、「ファクト」は、客観的に正しいと証明される事実であるが、「オピニオン」はあくまでも主観的なものであり、うのみにすべきではないということがわかる。
例えば、上記のブログでは、感染の経緯について、以下のように語られている。
私が感染したのは1月中旬、その時の経過から話したい。
尚、この頃から私のブログは、論文や現場の状況だけでなく、感染者になってみなければわからない事を踏まえて発信してきた。
感染日:普段から私は、無限換気されている屋外でも密集の場所には行かない、あるいはできるだけ滞在時間を減らすようにしていた。
その日私は、帰宅時いつもより混雑している電車に乗った。近くでせき込んでいる人がいたのが気になっていた。
後から振り返ると、デルタ株までは電車内感染は起きないとされていた事が、オミクロン株では起きているのではないかと思った。
筆者は、自身の感性経路として、電車内を想定しているが、これが「ファクト」ではなくて「オピニオン」であるのは、「思った」という言葉で結ばれていることからも明らかだろう。
ここに述べられていることの中で、ファクトは、「1月中旬に感染した」「感染日と思われる日に、いつもよりも混雑している電車に乗り、近くで咳き込んでいる人がいた」ということである。
一方で、「後から振り返ると、デルタ株までは電車内感染は起きないとされていた事が、オミクロン株では起きているのではないかと思った」という部分はオピニオンだ。
このように読んでいけば、このブログをもとに、「デルタ株では起きなかった電車内感染が、オミクロン株では起きているとお医者さんが言っていたよ」と、それがあたかもファクトであるかのように、周囲に話したり、SNSで拡散したりすることは防げるはずだ。
なお、ファクトとオピニオンの見分け方は、BBCのホームページに詳しい。興味のある人はそちらを参照されたい。
「医療情報の信頼性には段階がある」ことを知ろう
また、基礎知識として、医療情報の信頼性には段階があるということを知っておくとよいだろう。最近、ビジネス分野などでも乱用されがちな「エビデンス」という言葉は、もともと医療分野で「科学的根拠」として使われていた。
医療分野では、研究結果などの信頼性を評価するのに、1990年頃から「エビデンス」という概念が使われている。
信頼性が高いとされる研究は、大勢の被験者を、ランダムに、介入群と非介入群(例えば、薬を飲ませるグループと、偽薬を飲ませるグループ)にわけ、結果を比較して評価する「ランダム化比較試験」とよばれるものだ。新型コロナウイルスのワクチンや治療薬も、このような研究を経て、効果が確認され、厚生労働省により承認されている。
一方、「1例のみの報告」「専門家の、科学的裏付けのない個人的な意見」は、エビデンスのピラミッド(下図)の中では、下位に位置づけられ、信頼性が低いとみなされている。医師や専門家による、個人的なブログ、SNSなどで情報を得る際には、こういう視点をもっておくといいだろう。

なお、筆者は、医師や専門家による体験記を否定する者ではなく、そういった記録は、社会的にも、患者を診る上でも非常に価値のあるものだと考えていることは申し添えておきたい。このように、様々な情報源からの情報を縦横無尽に得られる現代だからこそ、情報を得る側もリテラシーを高める必要があるだろう。
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