フランス大統領選挙でマクロン再選も、「脱悪魔」ルペン大健闘で広がる波紋

待ち受ける6月の試練、引き続き欧州政治は波乱含み...
評論家、徳島文理大学教授
  • フランス大統領選挙でマクロンが再選するも、ルペン健闘で波紋
  • なぜルペンが躍進したのか。フランスの政治地図おさらい
  • 6月の国民議会選挙が試練だが…。フランス政局が欧州への影響カギ

フランスの大統領選挙決選投票で、中道派で現職のエマニュエル・マクロン大統領(共和国前進)が、親ロシアでNATO脱退を唱える極右のマリーヌ・ルペン候補(国民連合)を破って当選を確実にした。

日本時間25日午前3時に出口調査の結果が発表され、マクロンが58%、ルペンが42%。事前の世論調査では、マクロンが55~57%、ルペンが43~45%だったのでほぼそのままだった(フランスの出口調査の信頼度は高い)。

もし、ルペンが勝っていたとしたら、欧州の将来に深刻な打撃となった。EUやユーロからの脱退は言わなくなっていたものの、統合の深化には反対しており、NATOの軍事機構からの脱退やロシアへの制裁の緩和を唱えていたので、ウクライナ情勢にも大きな影響を及ぼすところであった。

ルペンの中道シフト奏功

再選を決めたマクロンは5年前に39歳という、ルイ・ナポレオン(のちのナポレオン3世)の40歳を更新する最年少で大統領就任したのち、トランプ大統領の登場や英国のEU離脱に直面。年金制度などの改革は思うようには進まなかったが、経済は比較的良好だった。燃料価格高騰を背景に運転手らによって始められた「黄色いベスト運動」も致命的な事態には至らず、新型コロナウィルスのワクチン事実上の義務化をしつつ接種者には行動規制を緩和するという作戦はめざましい成功を収めた。しかし、エリート的な上から目線や独走は変わらず、革命前の旧制度に対するのに似た反感が高まっているとすらいわれた。

再選は、強力なライバルの不在から、決戦投票では楽勝とみられてきたが、2回ほど危機があった。5年前の決選投票では、ルペンをダブルスコア(66.1%)で破り、再びのルペンとの対決では楽勝とみられてきた。しかし、昨年の12月に共和党が、日本語が堪能な女性のヴァレリー・ペクレス(パリ首都圏知事)を候補に選出。世論調査によっては、第2回投票でマクロンに勝つという数字もあった。ペクレスはENA(国立行政学院)を2位で卒業し、夫も高級官僚で大企業社長とマクロン以上のエリートだったが、結局は、政策が似ているのとカリスマ性に欠けることから失速した。

逆に、ペクレスの登場で危機に陥ったルペンは、より中道色を強めたのが成功して支持率が上昇し始め、第1回投票があった4月10日ごろには誤差の範囲内までになっていた。しかし、マスコミが露骨にマクロンを支持し、ほとんどの候補がルペンに投票しないように呼びかけたし、経済の予想外の混乱も心配され、ルペン支持が終盤で少し減った。

フランスの政治地図おさらい

アメリカでは民主党が社会正義を標榜するリベラルで、共和党が保守である。英国では保守党、自由民主党(本来の自由主義的リベラル。かつては二大政党のひとつ)、労働党だ。

欧州大陸での政治地図は、左派と右派で色分けすると、ドイツでは、左から左派党、社民党、緑の党、自由党、キリスト教民主同盟(CDU)、ドイツのための選択肢(AfD、極右)で現在は、社民党・緑の党・自由党の連立政権で、その前では社民党とCDUの大連立、左派党とAfdを政権に参加させることはタブー視されている。

フランスでは、対独レジスタンスの英雄ドゴールが1958年に復帰してから、極左諸政党、共産党、社会党、中道諸政党(現在では環境派も台頭)、ドゴール派(現在は共和党)、極右諸政党という政治地図が基本だ。

大統領選挙や小選挙区2回投票制の総選挙は、決選投票で共産党の支持も得た社会党候補と、中道・右派諸政党の支援を受けたドゴール派候補が争うことが多かった。ただ、大統領選挙では、3強対決に持ち込んで、中道派が勝利したこともある。

第五共和制の大統領は、ドゴール、ポンピドー(ドゴール派)、ジスカールデスタン(中道派)、ミッテラン(共産党)、シラク、サルコジ(ドゴール派)、オランド(社会党)、マクロンだ。

マクロンは社会党に属し、オランド前大統領の顧問や大臣を務めたが、新自由主義的改革を貫徹できず辞任した。中道諸勢力を、糾合し、共和党と社会党の一部も糾合して当選したのち、共和国前進という新党を形成し、大統領選挙の2か月後の総選挙でも圧勝した。
経済政策は、新自由主義的だが予算の使い方は社会党に近く、環境派も取り込んでいる。EU重視で英米との協力も重視し、日本の安倍政権の価値観外交にも協力した。

今回の選挙では、12人の候補が立候補したが、伝統的な分類では、共産党は極左でなく、社会党と同じ左派扱いだ。極右はかつては王党派のことだったが、中小企業者や農民を地盤とする伝統的な社会維持を主張する。

ルペンの父は、極右の扇動的政治家だったジャン・マリー・ルペンで、支持率15%が限度だった。娘のマリーヌは、「脱悪魔路線」と称しEU離脱とか反ユダヤ色を弱めた。反対した父親は除名され、ゼムールというより極右的な候補が出て、マリーヌの姪もそちらに回った。しかし、この作戦のお陰で決選投票で、前回から大幅に票を伸ばした。

このあおりを受けて、ペクレスは急速に支持を失い、得票率4.8%で5%を切ったことから数億円の供託金を没収された。左派では、社会党から分離したメランションが台頭。日本の政党に例えれば、立憲民主党の党首が山本太郎氏だと思えばいいが、健闘して22%もとって、社会党のパリ市長、イダルゴを惨敗させた。

予断許さない国民議会選挙

日本ではあまり注目されていないが、問題は6月12日と19日の国民議会選挙だ。マクロンの党は議席を減らすだろうが、あとどうなるか見当がつかない。これまで、ルペンの国民連合は577議席のうち8議席のみ、メランション率いる不服従のフランスは17議席だが、大幅に躍進するだろう。首相は大統領が指名するが不信任される可能性があるので、議会の少数派ではもたない。

しかし、決選投票で40%以上もとった候補者の党を、いつまでもキワモノ扱いしているのも不自然で、その取り込みも俎上にのるかもしれない。ルペンの政策は、英国のジョンソンや米国のトランプよりは中道派的とも言える。ドイツでもフランスでも極右とは組まないと保守政党はしてきたが、いつまでもつか。イタリアではすでに崩れているし、スペインでは地方レベルでは連立入りしている。

EUでもポーランドとハンガリーでは極右政権が成立し、ポーランドのモラウィエツキ首相はマクロン大統領から反ユダヤ主義者と呼ばれている。それがウクライナ支援の中心だから、プーチンのウクライナ政権ネオ・ナチ扱いを笑えない。

ロシアとフランスは伝統的に友好関係が深いが、ルペンをはじめ右派が親プーチンなのには、理由がある。社会の急速なリベラル化のなかで、プーチンがキリスト教重視でLGBTに反対するなど、伝統的なヨーロッパの社会観重視なのだから話は複雑だ。

また、ルペンはロシアの銀行から融資を受けていると批判を受けたが、これは金融界が極右には資金を融資しないので、ロシアの銀行に頼ったものであり、批判しづらい。極右を排除し続けるのか、体制内に取り込んで穏健化させるのか難しい選択だ。

フランス政局が今後も欧州の政治情勢全般、ひいてはウクライナ情勢の鍵を握りそうだ。

 
評論家、徳島文理大学教授

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