中川コージ氏語る:世界が中国と付き合わざるを得ない時代、日本が取るべき道
インタビュー連載「目覚める獅子」はどこへ行く?#2日本よりも格段とデジタル化を進め、アメリカと世界の覇権を競い合うまでになった「目覚める獅子」は今後、世界の政治と経済にどんな影響を及ぼすのか。気鋭の中国ウォッチャーとして注目される中川コージ氏に展望を聞く連載インタビューの2回目は、デジタル人民元の世界的普及や米中冷戦の激化に直面する日本が、どういう戦略でのぞむべきかを語ります。

一帯一路がデジタル人民元圏になる日
――中国には、「デジタル人民元」を一つの道具として、アメリカの「マネー覇権」に挑戦しようという姿勢がある。しかも一帯一路などもこれと連携しているとのことですが、つまり中国と貿易をするにあたり、「その際は決済通貨をデジタル人民元とせよ」などと迫る可能性もある、ということでしょうか。

中川 チャイナが商圏を拡大すればするほど、それがひいては人民元を決済通貨として使いうる範囲になります。チャイナ側が強制するのではなく、利用者にデジタル人民元を使うことが手軽で安価で合理的であるように仕掛けていることが脅威なんです。特に一帯一路構想は様々な概念を含むものではありますが、その実体はインフラと商圏、そしてマネーの三要素によるものです。AIIBや一帯一路と抱き合わせで進められているシルクロード基金は、設立当初は米ドルで処理されていたものの、2017年の追加資金投入時には人民元が使われています。
――一帯一路や、途上国へのインフラ投資、それと裏表になっている「借金のカタに港を抑えて、中国の軍事拠点として使う振る舞い」などは日本でも問題視されています。また、覇権主義的、人権抑圧的性向も批判されるようになってきています。こういう報道が多くなると、「さすがに他の国も中国離れするんじゃないの」と思ってしまいますが。
中川 それは正しいと言えますが、誤解も多分に含まれることに警鐘を鳴らしています。例えばASEAN各国の中国との経済融合はどんどん強まっています。ことASEANにおいては「アメリカかチャイナか」を選択できるような立場にはなく、「どんなことがあっても付き合わざるを得ない」関係性にあります。途上国においても、不満はあっても投資は欲しいわけですよね。もちろんそこを睨んで、対チャイナ牽制として日本が積極的に途上国支援する、という方向は期待したいところですが。
ASEANとチャイナの間にも、南シナ海でのいわゆる「九段線」問題など、海洋安全保障上の摩擦は生じてはいます。しかし一方で、チャイナ―ASEAN各国間は、ほとんどの国で最大の輸出入貿易相手国になっています。また、「ワクチン外交」と不評を買っている中国のワクチン提供も、2021年6月までにASEAN加盟国すべてが受け入れています。
ASEANにおいては、もちろん加盟国それぞれに濃度の濃さ、異なる課題はあるものの、いずれも「安全保障のためのデカップリング」など、どこか遠い世界の話と言ったところでしょう。また、日本周辺でも韓国やロシアもチャイナとの経済的紐帯はむしろ強まっています。

米中という「ジャイアン」が殴り合う世界で
――そもそも日本ですら、一方ではQuad(日米英印戦略対話、安全保障の枠組みを協議)を主導しつつ、対中貿易関係を断つようなことはしていませんし、実際、「デカップリング」と言っても日本にしろ、当のアメリカにしろ、そう簡単にはできませんよね。
中川 特に日本は客観的に米中双方の利害関係やチャイナの動向を見据えて、右左の結論ありきの話ではなく、独立した主権国家として、どのようにチャイナを牽制しながら自国の利益を得られるか、を精緻に計算していかなければならないでしょう。
米中両陣営はそれぞれ、自国に有利になるようにプロパガンダを展開してきます。どちらが悪い、不誠実だという話ではなく、大国間の熾烈な競争関係とは、そういうものなのでしょう。
米中という2人のジャイアンが殴り合っている間で、日本は広報戦略もプロパガンダ戦にも不慣れではありますが、こうした「宣伝情報」はあくまでも「宣伝情報」として扱いつつ、自国の利益を最大化する道を地道に、緻密に追求していくことが求められます。
日本が優位になれるポイントを探せ
――頭を働かせなければ生き残れない、ということですね。
中川 米中は超大国ですから、あらゆる資源を持っていますが、一方では兵站が伸び切っています。その点では、地域大国である我々にパフォーマンス上の優位性が生じる部分もある。自分の強みと相手の弱みがどこにあるのか、どこで勝負するのかを考えよう、ということです。
(#3に続く)
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