田中角栄からの卒業 #1 壊せない仕組みを作った「天才」
本編前にどんな人かそもそもおさらい- 田中角栄は今も政界屈指の人気だが、平成の敗戦を振り返る上で語るべきことは?
- 創刊特集の本編に入る前に、角栄の生い立ちをざっくり振り返る
- 33本もの議員立法を成立させた「Law Maker」としての天才的手腕に注目
SAKISIRUの創刊特集にふさわしい企画は何か。思い悩むうち、筆者の脳裏に稀代の政治家の名が浮かんだ。
田中角栄。
最終学歴は高等小学校(今の中学校)でありながら一刻の宰相に上り詰めた「今太閤」。故郷・新潟の豪雪克服を原点に「国土の均衡ある発展」を主導。そして、ロッキード事件に象徴される金権政治…。
昭和50年(1975年)生まれの筆者は、角栄が権力の頂点にいた時代の記憶はない。ロッキード事件で、首相経験者として初めて逮捕されたのは筆者が1歳のとき。その後、マスコミの金権政治批判で袋叩きにあっていた時代すらも、幼少のみぎりで印象が薄い。
そして、時代は平成になってまもなく角栄は75歳で死去。のちに政界に進出した長女の真紀子氏が、父譲りの巧みな弁舌を振るう姿を見て、往時の角栄の人気を想像するくらいでしかなかった。
そんな筆者が角栄の影を意識し始めたのは規制改革の度重なる挫折だ。
電波制度や農業など何年も取材をしてきて、時代に合った改革がなぜ進まず、日本の衰退を止められないのか関心を持っていたが、昨年の年明け、規制改革に詳しい友人が「“角栄法”をいかに廃止・改革するか」と力説していたのだ。

5年ほど前、ひさびさに「角栄ブーム」が起きてその人身掌握術などが礼賛された。あるいは往年はその金権政治の権化のような存在としてマスコミに批判されたが、政策や法制度に着目して角栄を批判する話は新鮮に聞こえた。
筆者は、その後、角栄の「遺産」を発展的に壊すことができなかったことが平成30年の「敗因」だと思い知るようになる。一方で、角栄が「仕組み」づくりにおいては天才的な業績を残していた割に、それがあまり注目されてこなかった不思議を感じるのだが、詳しい話は#2以降で。
「田中角栄」って、そもそも何をやった人か?
その前に、田中角栄がどんな人物だったのか、若い世代のためにも軽くおさらいしておこう。
田中角栄は1918年、新潟県二田村(いまの柏崎市)の生まれ。幼少期は父の事業の失敗で貧しい生活を余儀なくされ、高等小学校卒業後、土木の道へ進んだ。

16歳で上京。中央工学校の夜学で働きながら学び、卒業後に建築事務所を設立。理化学研究所所長の知遇を得て受注を増やし事業を軌道に乗せると、やがて年間施工実績で全国50位入りするという「起業家」の才覚を見せる。会社は朝鮮半島に進出するまでに拡大した。
しかし終戦により、現地資産を放棄して帰国。翌年、支援していた政治家の勧めで衆院選に出馬するが、ここでは落選。
1947年、2度目の衆院選出馬で初当選。その10年後、岸信介内閣で郵政大臣として初入閣。39歳の大臣就任は当時の戦後最年少だった。
以後、自民党幹事長、大蔵大臣、通産大臣を歴任。

田中の代名詞となるベストセラー『日本列島改造論』(日刊工業新聞社)が出版されたのは54歳になる1972年。総裁選への出馬を見越し、本人の政策ビジョンを側近たちがまとめた。「国土の均衡ある発展」を訴えた本は、1年で91万部も売れた。ただ、開発候補地となる地名を書いたことで地価の高騰を招いた。
そして自民党総裁選で勝利し、第64代総理大臣に就任。戦後国交がなかった中華人民共和国を訪問し、毛沢東首席や周恩来首相と会談。日中国交正常化を実現するなど、政治史に業績を残した。
しかし2年後の1974年、『文藝春秋』でジャーナリストの立花隆氏による、田中流の金権政治への追及キャンーペーンがはじまったことで社会的批判が沸き起こり、角栄は政権の座を去る。そして76年、米ロッキード社の日本国内への航空機売り込みで、便宜を図ったとして角栄は受託収賄財などの疑いで逮捕・起訴される(ロッキード事件)。
1983年、ロッキード事件の一審判決で懲役4年の実刑判決。即控訴。法廷闘争への執念をたぎらせていたはずだったが、やがて田中派のホープだった竹下登が新派閥を結成する「クーデター」が発生。失意の角栄は、脳梗塞で倒れ入院。以後、表舞台に登場する姿は減り、1993年、長女の真紀子氏の衆議院初当選からまもなく、肺炎で死去。享年75。
あまり注目されない「LawMaker」としての凄み

そんな角栄の生い立ちは凡百のメディアで無数に語られてきたが、新人若手議員だった時を中心に33本もの議員立法を成立させた「Law Maker」としての政治・政策的手腕は、さほど注目されてこなかった。
しかし角栄が自ら作った法律、もしくは成立に向けて主体的に関与したともいえる法律を並べてみると、戦後長らく社会インフラとして機能してきたものが多数あることに驚かせられる。
筆者が「角栄法」の存在を初めて意識したのは先述の友人の話だが、その彼が参考文献として薦めたのが『小泉内閣 VS. 田中角栄』(新潮社 2002年)。著者は、かつて著作や雑誌、情報番組などで税金のムダづかいを追及してきたジャーナリストの村野まさよし。
同書は角栄の「遺産」に小泉改革が切り込めるかという視点で当時書き下ろしたものだが、あれから約20年の動きをいまどう見ているか。人伝に連絡先を探し出し、筆者は村野とアポを取った。(敬称略:#2 平成で整理できず昭和の大成功モデルに続く)
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