失速が止まらない!中国の景気対策がうまくいかない最大の要因とは
金融面の施策が「不発」に終わる構造- 失速が続く中国経済、政府が血道を上げる金融政策が不発の理由は?
- 中国経済のGDPの約25%を占める不動産でバブル崩壊が進行、住宅資金需要が…
- 人民銀行は主要24銀行に融資拡大を強く求め、一見融資額は増えたが…
中国経済は現在失速中だ。昨年後半以降不動産セクターのバブル崩壊が止まらず、3月以降は新型コロナのオミクロン株の感染拡大で各地でロックダウンが行われ、経済活動に甚大な影響が出ている。
このため中国政府は、インフラ投資の促進、金融政策手段の総動員、コロナで混乱した物流・サプライチェーンの安定化など様々な措置を講じて経済を安定させようと躍起になっている。しかし、財政政策と並んでマクロ経済政策の両輪の一つである金融政策が、どうもうまく効果を発揮していないようだ。
不動産不況で冷え込む資金需要
これは一つには、思い切った金融緩和措置をとりづらい状況が生じているためだ。ウクライナ情勢の影響等でエネルギーや原材料価格が高騰しているときに金融を緩和すると物価に悪影響が及ぶ懸念があるし、アメリカなどの主要国が金融引き締めを始めている中で金融を緩和すると大幅な元安や資本流出が生じる恐れがある。
しかし、金融面からの景気刺激が思うようにいかない最大の理由は、資金需要が冷え込んでしまっていることにある。特に中国のGDPの約25%を占める不動産セクターでバブル崩壊が進行している中で、住宅資金需要が落ち込んでいることが大きく影響している。
中国人民銀行は4月25日、銀行の預金準備率を今年になって初めて0.25%ポイント引き下げて銀行が融資等を行う資金を増やす措置を取った。また、5月15日には住宅ローン金利の下限を1軒目の購入については最大0.2%ポイント引き下げ、さらに5月20日には人民銀行の期間5年以上の最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)を0.15%ポイント下げた。この金利は銀行が中長期の貸出をする際の金利の目安としているもので、住宅ローン金利もこれを基準としている。人民銀行はこれらの措置によって、住宅ローンが借りやすくなり、冷え込みが続く不動産市場に活気が戻ってくることを期待していると思われる。
しかし、イギリスのことわざに「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」とあるように、いくら人民銀行が住宅ローンを借りやすくしても、肝心の資金需要が盛り上がっていないので融資は増えず、景気を刺激することにはなりそうにない。
ゼロコロナで冷え込みまくり
中国の70大都市の新築住宅価格の推移を見ると、ここのところ前年比の伸びが鈍化しておりついに5月は前年比でマイナス0.1%となった。もともと中国の住宅需要は値上がり期待の投資目的のものが中心であり、住宅価格がどんどん下がっていく中で住宅の購入を考えていた人々は様子見を決め込んでいる。そこへ新型コロナに対する「ゼロコロナ」政策によって都市がロックダウンされるなどしたため経済の先行きに人々が不安を抱き、とても銀行から借り入れをして住宅を買う気にならなくなっているのが現状だ。
こうした状況の中で、財新という中国メディアの報道によれば、5月20日、人民銀行が大手銀行に対する窓口指導で5月の月間の新規融資目標の達成を要求するとともに、各銀行に対して日々の融資データを人民銀行に提出するように要求した。さらに5月23日、人民銀行は主要24行を集めた会議を開いて融資拡大を強く求めた。
人民銀行の新聞発表によれば、この会議では「金融機関は大局的見地に立ち、責任を自覚して、全力を尽くして経済のファンダメンタルズの安定を図るべき」という指示があったそうだが、さすが中央集権的な中国ならではの一方的な厳しい指示だ。日本的に考えれば、資金需要が出てこない時に中央銀行から無理やり融資を増やせと指示されても銀行は対応に困るだけだろうと思う。しかしどうやら中国ではそうでもないようだ。
銀行が手形で融資の見せかけ
よく中国では「上に政策あれば、下に対策あり」ということが言われるが、ここでも各銀行は裏技を使って人民銀行の要求に応える形を作り上げている。それは人民銀行の統計上は銀行引受為替手形の買取が企業への融資としてカウントされることを利用したもので、融資が伸びない銀行は手っ取り早く手形の流通市場で手形を大量に買って融資実績に計上しているのだ。
かくして人民銀行の融資拡大の大号令と資金需要がない中でその指示に巧みに従うふりをする銀行の努力の結果、5月の新規元建て融資額は大方のエコノミストの予想を大きく超える1.89兆元と前年同月の1.5兆元から26%の大幅増加となった。しかし、この内訳をみると企業等向けの新規融資1.53兆元の半分弱が手形融資だった。これは上げ底実績であるだけでなく、こうした手形の買取は中国経済に新規資金を流し込むことにはならないので、景気刺激にはならない。
このように資金需要が盛り上がらない中では、中国政府は金融政策にあまり多くを期待することができない。しかし、今年秋の党大会で政権3期目を目指す習近平主席としては、それまでに何とか景気回復の形だけでも作りたいところだ。
そうなると、いきおい財政支出による景気刺激策に頼らざるを得なくなり、今後インフラ投資等をさらに増やすこととなるのだろうが、はたしてそれだけで今年の成長率目標の5.5%を達成できるかどうかは、かなり怪しい。中国政府は難しい局面に立たされているといえよう。
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