金正恩打倒に容赦なし!アメリカと韓国の動きがコケ脅しではない理由

【前編】「ウクライナ」で様変わりする朝鮮半島
元航空自衛隊情報幹部
  • 韓国新政権誕生とロシアのウクライナ侵攻で、朝鮮半島情勢が再び緊張
  • 韓国で対北強硬派の大統領が誕生したことで軍の現場レベルにも影響
  • 軍事面でも米韓連合軍の軍事連携がどう深化しているのか

最近になって、朝鮮半島情勢が2017年以来再び緊張する気配を見せ始めている。そんな中、特に注意しなければならないのは、「北朝鮮が対米交渉を有利に進めることを狙って自ら南北間の緊張を高めていたような時期と、ロシアがウクライナに軍事侵攻している現在の国際情勢を背景にした朝鮮半島情勢とでは、明らかに事情が違ってきている」ということである。

結論を先に言えば、今後北朝鮮が過去と同様な挑発を繰り返せば、アメリカ(と同時に韓国)は、今までのように北朝鮮に対する攻撃を躊躇せず、「金正恩(キム・ジョンウン)体制の崩壊を企図した作戦を発動する可能性がある」ということだ。

以下、なぜそのような事態が考えられるかについて述べたいと思う。

北朝鮮・金正恩主席(左)と韓国・尹錫悦大統領

北朝鮮がレッドラインを超えた

5月26日の拙稿(バイデン離日直後の3連発!コロナ渦中の北朝鮮によるミサイル発射、その意図は?)でも触れたように、北朝鮮は今年に入って間もない正月5日に極超音速ミサイルを発射したのを皮切りに、1月30日には中距離弾道ミサイル「火星12」を発射し、2月27日以降5月25日までの間で、数回にわたり「火星17」と見られる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を行った。

これによって、今年初めに金正恩総書記が示唆していた通り、18年4月(朝鮮労働党委員会総会で)のいわゆる「(核実験や長距離弾道ミサイルの中止に関する)モラトリアム宣言」を事実上破棄したことになる。おそらく、7回目の核実験も技術的条件が整い次第、実施することになるのだろう。

北朝鮮がこのような行動に邁進しているのは、先の拙稿でも述べたが、金総書記が核・ミサイル開発をさらに深化・加速させることを意図しているからであり、これは彼自身の危機感の現れでもある。特に、今回のロシアによるウクライナ侵攻で、誰よりも刺激を受けたのは金総書記であると思われ、自国のようなミサイル以外の通常兵器が脆弱な赤貧国が大国(アメリカ)の脅威から身を守るためには、「その大国に対して有効な戦略(核)兵器を持つしかない」ということを痛切に感じたに違いないからである。

韓国で対北強硬派の大統領が誕生

このような折、韓国では5月に政権が交代し、対北強硬派の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が就任した。尹大統領は、選挙期間中から「北朝鮮は主敵」と位置付け、北朝鮮のミサイルを防ぐには「先制攻撃しかない」と公言してきた。このような大統領の誕生に刺激されてか、中・長距離弾道ミサイルを立て続けに発射した直後の4月1日、韓国国防部の徐旭(ソ・ウク)長官が「北朝鮮のミサイル発射兆候が明確ならば先制打撃する」と発言。

これに対して、北朝鮮の(実質的な軍NO1である)朴正天(パク・ジョンチョン)党中央軍事委員会副委員長が、「もし、韓国軍がわが国に対して先制攻撃のような軍事行動をとったならば、わが国は容赦なくソウルの主要な標的と韓国軍を壊滅することに全力を集中する」と応じた。

今までにもこのようなやり取りはあったが、今回はこれが双方の軍のトップ同士によるものだけに、単なる脅し文句だけでは終わらない側面がある。

Im Yeongsik /iStock

米韓の軍事連携が深化

このような対北強硬派の韓国新政権発足と並行して、軍事面でも米韓連合軍の軍事連携も深化してきている。

まず陸軍の動きとして4月23日、在韓米軍第2師団が2月末に韓国に循環配置された機甲旅団戦闘団「レディーファースト(Ready First)旅団」による、地下トンネルにおける訓練の様子をSNSで公開した。ここには、特殊防毒マスクと防護服、酸素ボンベを着用した将兵が地下トンネルで訓練する姿が映し出されていた。

参照:中央日報「地下トンネルで小銃を持つ人たち…韓国に来た米国「レディーファースト旅団」訓練公開

また、5月には米ミズーリ州のローズクランス空軍基地に所在する、米陸軍デルタフォース(Delta Force)や同海軍ネイビーシールズ(Navy SEALs)等、特殊部隊の輸送訓練などを行う「上級航空輸送戦術訓練センター:AATTC(Advanced Airlift Tactics Training Center)」で行われた、初めてとなる米韓合同特殊任務訓練に、韓国軍の特殊任務旅団が参加し、韓国空軍の特殊作戦用輸送機MC-130Kの写真などが公開された。

空軍の動きとしては、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した3月24日の翌日、韓国の空軍基地でF-35A戦闘機約30機による「エレファントウォーク」と呼ばれる多数機発進準備訓練が実施された。この同じ日、アラスカ米空軍基地においてもF-35A戦闘機42機による「エレファントウォーク」が行われた。

参照:中央日報「同じ日にF35A動員し「エレファントウォーク」訓練実施した韓米空軍

また、北朝鮮が短距離弾道ミサイル8発を発射した6月25日の翌26日には、韓国が同じ数の弾道ミサイルを日本海に発射するとともに、韓国空軍のF-35AやF-15と米空軍のF-16戦闘機などによる臨時の共同訓練が実施された。

参照:時事通信「米韓空軍が共同訓練 対北朝鮮、F35など20機

そして、このような動きは米韓のみにとどまらず、日米でも同様な軍事連携の深化が見られる。

後編に続く

 
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