原油価格「いつの間にか」ウクライナ侵略以前並み…専門家が指摘する新たなリスク

「油が崩壊」エコノミストが警鐘
ライター/SAKISIRU編集部
  • 原油価格が「いつの間にか」ウクライナ侵略以前並みに…その背景は
  • 歴史的なインフレのアメリカで強い金融引き締め策。その余波で起きた事態
  • エコノミストらが指摘する「原油価格の下落と世界経済の影響」は?

このところ、毎日のように食料品などの値上がりを伝えるニュースが流れ、大半の企業が値上げの理由の一つに「原油価格の高騰」を挙げている。そのため、今も一時期のような1バレル=100ドルを大きく超えるような原油高になっていると思っている人も少なくない。

しかし実は、原油価格はロシアのウクライナ侵略以前の水準に戻っている。

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1バレル=122ドルから90ドルに

昨年まで1バレル=70円~80円台だった原油価格は今年に入ってから徐々に値を上げていき、今年2月3日には、1バレル=90ドル代に乗った。2月末からのロシアのウクライナ侵略をきっかけに、原油価格はさらに上昇していき、6月8日には1バレル=122ドルという記録的な高値を付けた。

しかし、それをピークに原油の価格は徐々に下落していき、8月4日には、1バレル=90.53ドルとロシアのウクライナ侵略以来の水準となった。

7月半ばまでは1バレル=100ドル代の高値を付けていた原油の価格は、なぜここに来て急速に下落し始めたのか。その理由は、景気減速への懸念だ。

原油価格急落の理由

アメリカは今、歴史的なインフレに見舞われているが、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)は、2か月連続で政策金利を0.75%引き上げるなど強い金融引き締め措置を取っている。さらに、アメリカに歩を合わせるように、ヨーロッパ各国の中央銀行も相次いで政策金利を引き上げた。

だが、金融を引き締め過ぎて景気後退局面に陥る、いわゆる「オーバーキル」になってしまうのではとの懸念が市場に漂っている。

景気後退への懸念が高まる中、さらに原油価格の下落を加速させる発表があった。米国エネルギー情報局(EIA)が、3日に発表した統計「U.S. Stocks of Crude Oil and Petroleum Products(アメリカの原油および石油製品の在庫)」によると、アメリカでは原油とガソリンの在庫が増えているという。この発表を受けて3日から4日にかけて、原油価格がさらに下落した格好だ。

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世界的な景気減速のサイン?

現状はまだ1バレル=90ドル台で、過去と比べると原油価格は低いというレベルではない。ただ、これからもし、原油価格が大暴落するとどうなるのか。世界経済にどのような影響を与えるのか。野村証券シニアエコノミストの桑原真樹氏が、2015年に発表した論文「原油価格の大幅下落が持つ意味」の中で、原油価格の下落と世界経済の影響について次のように指摘している。

原油価格の上昇は、世界GDP をネットで減少させる可能性が高い。逆に、原油価格の下落は、使いきれないほどの資金をもっていた一部の国(編集部注・産油国)から世界中に所得を移転させることになる。それによって失われる需要はもともと少ない一方、所得が増えた国ではある程度の需要増加を見込むことができる。だとすれば、原油価格の下落は、世界の GDP に対してネットでプラスと言えるのではないか。

一方で、このタイミングでの原油価格の下落は世界的な景気減速のサインと見る専門家もいる。「エブリシング・バブルの崩壊」「米中覇権戦争で加速する世界秩序の再編 日本経済復活への新シナリオ」などの著書がある、エコノミストのエミン・ユルマズ氏は、ツイッターでリーマンショック時の原油価格と米国株の値動きと今回とを比較したうえで警鐘を鳴らす。

油が崩壊しています。グローバル景気悪化の先行指数です。米株はインフレが下がると思って反発しているけどそれより早く企業業績が悪化しますよ。リーマンショックの同じパターンです。リーマンの時の米株と油(左)、今の米株と油(右)。

なお、夏休みを前にした一般家庭にとっては、原油価格が下落したと聞いた時、まっさきに気になるのが「ガソリン価格はどうなる?」ということではないだろうか。こちらは、原油価格と違い、急落とはならない。石油情報センターによると、レギュラーガソリンの小売価格は、全国平均で1リットル当たり169.9円。5週連続で値下がりしているものの、依然として高い水準のままだ。

 
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