東工大と医科歯科大が統合へ?日本の「医工連携」に横たわる大問題とは

専門家が昨年論文で指摘していた4つの問題
ライター/SAKISIRU編集部
  • 東工大と医科歯科大が統合協議開始の報道。背景に何があるのか?
  • 国公立大学の統合や再編で得られるメリット。今回は「医工連携」対応か
  • 日本の成長戦略を考えるうえでも重要さを増す「医工連携」の現状は?

東京工業大学と東京医科歯科大学が、近く統合に向けた協議を開始することが分かった。8日にこのニュースをスクープしたNHKによると、大学の国際的な競争力の向上が課題となる中、理工学系と医療系でトップクラスの両大学を統合することで、研究力の強化を目指すという。

時代の要請「医工連携」

このところ、国公立大学の統合や再編が相次いでいる。今年だけでも、小樽商科大、帯広畜産大、北見工業大が経営統合し、北海道国立大学機構が誕生している。また、奈良教育大と奈良女子大も経営統合している。さらに、大阪府立大学と大阪市立大学も統合して大阪公立大学になった。

大学が統合することのメリットには、規模が大きくなることでアピール度が増し、学生の確保に有利になる、事務業務の効率化や重複する学部を一つにすることによる諸経費の削減などがある。

東京工業大学と東京医科歯科大学は、いずれも理系トップクラスの国立大学で、現在の先端医療の研究や新たな医療機器の開発には、医学と工学が連携して推し進める「医工連携」が欠かせない。少子化で今後、学生の確保がより困難になることが予想される中、両者が統合することは自然なことなのかもしれない。

58兆円世界市場も、日本存在感乏しく

また、「医工連携」は、日本の成長戦略を考えるうえでも重要さを増している。世界の医療機器の市場規模は、2017年には4300億ドル(約58兆円)を突破しているが、今後も右肩上がりで拡大していくと考えられている。アメリカの調査会社、REPORT OCEAN(レポートオーシャン)によると、世界の医療機器市場は2020年から2030年にかけて、年率5.0%で成長。2030年には7450億ドル(約100兆円)に上る見込みだという。

elenabs /iStock

この大規模な市場を、日本企業が取りこめているとは言い難い状況にある。経済産業省の資料によると、2017年の時点で、世界の医療機器メーカーの売上高のトップ25に入っている日本企業はオリンパス(売上高52億ドル)、テルモ(同49億ドル)、キヤノン(同39億ドル)の3社だけ。対してアメリカは18社がランクインし、世界の医療機器シェアの40%を握る

また、欧米企業の売上高は日本企業のものとはけた違いだ。売上高ランキングでトップの、メドトロニック(アメリカ)の売上高は296億ドル。日本円にして、実に4兆円だ。2位のジョンソン&ジョンソン(アメリカ)の売上高は262億ドル、3位のフレゼニウス(ドイツ)は217億ドル。オリンパス、テルモ、キヤノンの3社の売上高を合計してようやく、7位のカーディナルヘルス(アメリカ)に並ぶ程度でしかない。

医療機器開発の人材育成が遅れる日本

背景には、医療機器開発の国際的なイノベーションに日本がついていけていないことがある。アメリカでは、大手企業が新製品を開発したベンチャー企業を買収し、大手企業が量産して販売するという流れが主流だ。医療ベンチャーの創業者も株式上場ではなく、大手企業への売却を目指すという流れが定着している。

しかし、日本ではまだその手法が定着しておらず、新たな機器を開発することのリスクを大企業が恐れ、自社で独創的な開発を行うことが困難な状況に陥っている。

さらに、医療機器開発のための人材育成も思うように進んでいない。東京女子医科大学と早稲田大学の共同先端生命医科学専攻、東北大学大学院医工学研究科、千葉大学フロンティア医工学センターなどで、医療機器開発のための人材育成や、医療と産業をつなぐ取り組みが行われているが、限定的だ。

近未来は、外科医とロボットが共同して手術する時代に(whyframestudio /iStock)

「医工連携」進まない4つの理由

日本で「医工連携」が進まない理由は、様々な専門家がかなり前から指摘していたことだ。神戸大学未来医工学研究開発センター講師の植村宗則氏が昨年、日本ロボット学会誌に寄稿した論文で、日本での「医工連携」における課題を次のように指摘している。

1. 医―工、産―学間のコミュニケーション、理解不足
2. 国内外の市場動向と事業に必要な投資を考慮した戦略不足
3. 医―工、産―学の双方を理解し開発を推進可能な人材と教育体制の不足
4. 医療機器に関する法規制等への理解力を持ち課題解決能力のある人材不足

東京大学大学院工学系研究科教授などを歴任した立石哲也氏も論文「わが国における医工連携の問題点」で、「個々に高いレベルにある生物学、基礎・臨床医学と理工学の協力関係が歴史的に不十分な状態が続いてきたことが医療産業の振興のマイナス要因」と指摘している。

今後、日本が医療機器の分野で存在感を高めていくためには、医療知識のある工学系人材や、工学系の知識を持つ医師などの医療従事者、医学と工学の両方の知識を持つ研究者をいかに増やしていけるかがカギとなるだろう。まだ、「統合に向けた協議が始まるか」という段階だが、東京工業大学と東京医科歯科大学の統合が実現した場合、日本の「医工連携」に与えるインパクトは決して小さいものではない。

 

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