ミツカン父子引き離し事件:辣腕弁護士が尋問で暴いた創業家会長の傲慢

【後編】「ミツカン父子引き離し事件」訴訟、注目の尋問傍聴記
ノンフィクション作家/フリーライター
  • 「ミツカン父子引き離し事件」民事訴訟のリポート後編
  • 辣腕弁護士が会長に鬼気迫る追及。会長が押し黙った質問とは
  • 原告側から提示された新たな弾劾証拠。尋問で明らかになったのは…

8月9日、東京地裁で行われた「ミツカン父子引き離し事件」の口頭弁論。約8時間に及んだ尋問のハイライトとなったのは、大輔氏の代理人である河合弘之弁護士による、和英会長、美和副会長への反対尋問である。まずはその主な質疑を再録する。

初期の家族写真。左から原告の中埜大輔氏と元妻の聖子氏、被告の美和、和英夫妻(提供写真)

和英会長が押し黙った質問

――あなたは大輔氏に「仕事をしていただろ、おまえ。仕事するな」と言いましたが、これは業務命令ですよね。(以下、質問は河合弘之弁護士による)

違います。これは、親の気持ちとして言っています。大輔氏は能力に欠けていましたし、傍若無人でした。渡英直前の時期に「他の仕事を探してこい」と私が大輔氏に提案したのは、それが聖子との結婚生活がうまく行くという親の思い、親心です。

――子どもは生後まだ4日なのにあなたは大輔君たちに養子縁組のサインを要求しましたよね。

聖子はサインしましたが、大輔氏は拒否しました。財産継承のために一子相伝で養子をとるのが中埜家の伝統だということ、そのため聖子も姉の裕子も先代(2人の祖父)の養子になっている。その話は以前に大輔氏にしていました。なのに、養子縁組の書類を見せたときに拒否してきたので私は残念に思いました。

――生後すぐに子どもを養子にするなんて大輔氏は聞いていませんよ。裕子さんも聖子さんも、養子になったのは19歳と20歳。大人になってからですよね。

はい。でも、早く養子になれば、次の当主候補として祖父に認めてもらったと、後々、孫の励みになると思ったからです。

――でも、8代目のあなたは、養子にならなかったですよね。

なってないです。その時の当主の考えによっていろいろですから。

――2代目から7代目までで、生後すぐに養子になった人はいるんですか?

……いません。

――では、養子は「中埜家の伝統」ではないじゃないですか!!

…………。

※画像は法廷イメージ(whim_dachs /iStock)

原告から提示した「弾劾証拠」

河合弁護士の追及はなおも止まらない。

――あなたが署名を迫った時、大輔君が「1日考えさせて欲しい」と言うと、激高しましたよね。

いいえ。……私は彼が、親子の縁が切れる「特別養子縁組ではないのか?」と聞いてきたので、「これは普通の養子縁組で子どもの養育は今まで通り大輔と聖子でできるから」と説明しただけです。

――大輔君は特別養子だなんて言っていませんよ。あなた、特別養子縁組のことを知っているのですか?これは親が育てられないなど家庭の事情がある子どもが家庭裁判所の決定によって進める特殊な手続きです。普通の親ができることじゃないですよ。

……。

ここで原告側(大輔氏)から会長らに対する「弾劾証拠」が提出された。先代の7代目の妻であり、和英会長の母親が大輔氏の両親に宛てた手紙であった。ミツカンの企業サイトには「ミツカングループを今日の総合食品メーカーへと押し上げたのは、紛れもなく七代目の功績」と記されている。そのミツカン史上で最も重要な時代を知り尽くした人物の妻からの直筆の手紙である。日付は2014年5月26日。当時夫妻だった大輔・聖子が渡英する直前に書かれたものだ。

――「大輔さんは1年間工場など見習いをして勉強され、ただいまは本社にいますが、同僚にも評判がよくうれしゅうございました」と書いてある。あなた方は彼が本当に駄目社員だと悪口をいろいろ言っているが、家の中にいて話を聞いているおばあちゃんがね、「評判も上々ですよ」と大輔氏のことを褒めている。(大輔氏は能力がない)というあなたの評価と全然矛盾しているんじゃないか。

……えー、まぁ、母が感じる部分と、私が感じる部分とは違いますから。

法廷内にいる美和氏と聖子氏も、この時ばかりは身を乗り出していた。

――さらに、この手紙には、「この度、2人は英国に行くことになりました。2人は仲良く、安心いたしております」と、大輔さん・聖子さんの夫婦仲が良いことがはっきり書かれていますよ。

……母は高齢ですから、よくわかっていなかったのではないかと。

河合弁護士の質問に中埜会長は満足に答えることが出来ず、しどろもどろになった。原告席にいた大輔氏は「核心に触れられる度に、元義父母(被告ら)の目がキョロキョロと泳いでいたのが印象的でした」と語った。大きな声で自信を込めて、常に発言していた大輔氏と対照的に感じた。

反対尋問で明らかになった傲慢

非上場会社であるミツカンの株式や中埜家の財産は、その「一子相伝」の中埜家の当主と次代の当主が保有しており、中埜家の当主が代々、ミツカンの代表者となってきた。中埜家による経営・支配を次代以降の血族に引き継いでいくことを“至上命題” としているとされる。

愛知県半田市のミツカン本社(Asturio Cantabrio /Wikimedia CC BY-SA 4.0)

とはいえ、まだ目も見えていない新生児と、祖父母である和英会長・美和副会長が養子縁組を結ぶことがミツカン、そして中埜家の伝統と言えるのか。また、男児の父親である大輔氏を追い出したことが許されるのか。

家訓である、「一子相伝」や財産継承のための養子縁組というのも、和英氏が養子に入っていないことから、和英会長らによる、伝統でもなんでもない、傲慢で必要のない行為であったことがはっきりした。これは大輔氏からキャリアと家族を奪うだけでなく、産まれてきたたった1人の孫から父親を奪う行為でもあった。この子どもが成長した後、祖父が行った行為を知ったとき、果たしてどう思うのか――。

このように大手食品会社のトップが平気で嘘をつき、家族を破壊してしまったことは経営面にもマイナスを及ぼすのではないか。単純に比較はできないとはいえ、経営側のウソが致命傷になったケースはある。20年ほど前、雪印グループの食品表示偽装問題は、企業の屋台骨を揺るがすスキャンダルとなり、ついには廃業・解散を決定するまでに至っている。

今後、ミツカンは何らかの問題を起こしたとき、同じように隠蔽する可能性があると思えてならない。食品メーカーは異物混入など、一つのあやまりが市民の命取りとなる。だからこそ、間違ったときはすぐに謝ることができる柔軟さと誠実さが必要なのに…。訴訟は家庭内の問題とはいえ、創業家のあまりにも身勝手な振る舞いは消費者の目にどのように映るだろうか。

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