「情と理」鈴木宗男氏の維新離党、“除名寸止め”はどう評価すべきか
2つの時間軸 見据えた「異説」- 鈴木宗男氏の維新離党に身内からも厳しい声。どう評価?
- 記者会見で26回出た言葉から考える「情と理」の問題
- 過去と未来、2つの時間軸を含めて考える筆者の異説
ロシアへの渡航届を怠ったとして、日本維新の会は10日、鈴木宗男参院議員(比例)に対し除名を言い渡す直前、離党届を持ち出され、馬場代表の判断でそれを受理した。
猪瀬氏「東京では通用しない」
この離党劇には党外だけでなく党内にも厳しい声がある。翌11日(昨日)の党役員会では、馬場氏から「去る者は追わず」という方針を示したのに対し、「手続きを経て決めたのだから除名処分にすべきだった」などの声が出て(出典:NHKニュース)、特に浅田均、猪瀬直樹両参院議員が突き上げたようだ。
2人とも党内きっての論客であり、個人的にもよく存じ上げているので、馬場氏や藤田幹事長を詰める様子が目に浮かぶ。実際、猪瀬氏から筆者には今回の決定について「単なる浪花節でしょう。東京では通用しないよ」とXで厳しい指摘も出た。
では、今回の措置が「落第点」だったかと言えば、筆者の見解では「及第点」だと考える。これは決して馬場氏や藤田氏に忖度するから言うのではない。
記者会見で26回出た言葉
確かに鈴木氏の渡航から離党までの事態を見る限りでは、批判噴出は仕方がない。鈴木氏が永田町随一の「親露派」であると言っても、ロシアは岸田首相を入国禁止リストに入れ、国交が実質的に破綻しており、政府はおろか党執行部にも無断で訪露した場合の政治的影響が計り知れないことを本人は度外視しすぎている。
また、除名処分言い渡し間際での離党届提出は、百戦錬磨の鈴木氏に一本取られたと見る向きもあろう。
しかし時間軸を過去、そして未来に置いて総合的に判断した時、維新にとっては悪いことばかりではないと思える。ただ、その前に押さえておきたいことがある。藤田幹事長の10日の記者会見で象徴的だったコメントの一つがこれだ。
「ただの会議を決意する、または届けを出さないというのと重さが違いますから、結果の重大性を鑑みでですね。事務的なミスで許されるものではないというのがこれは誰が見ても明らかだと思いますので、そういうことも踏まえてこの党のガバナンスに逸脱する行為であるということについてはやはり責めを受けるべき」
との見解を示した。記者会見では「ガバナンス」という言葉が、藤田氏、そして一部は記者との発言含め26回も出たことが印象的だ。
ここで思い出すのは、先月出版された藤田氏の著書『40代政党COO 日本大改革に挑む』(ワニブックス)だ。経営者出身として党運営、組織改革の“ネタバレ”を盛り込んで政界で注目を集めている同書には、「維新の会の危機管理(ガバナンス)」という項がある。そこではしばしば噴出する党の不祥事の問題を認めた上で、
問答無用でいきなり除名をするというようなきびしい処分を、パフォーマンスでやることが適切ではないというのが私の考えです。…(略)…報道が必ずしも正しいとは限りません。何よりも推定無罪の原則が重要です。その上で1つ1つ丹念に事実を確認していく。…(略)…そうしたプロセスも党規委員会など所定のルールに沿って検証します。
などと持論を述べている。政党ガバナンスは何かと「人治」に集約されやすい。もちろん今回の離党届受理は、トップである馬場代表の最終判断で「人治」となり、そこに至るまで党運営の実務を取り仕切る藤田氏は「法治」の原則を極力維持しようとしていた。いわば「情」と「理」のせめぎ合いだ。刑事裁判の判決でも法規に準じた上で個別のケースは「情状酌量」で最終判断する。
過去と未来、2つの時間軸
ここで過去に時間軸を置いてみたい。4年前、同じ“ロシア絡み”で丸山穂高衆院議員(当時)の北方領土を巡る発言で除名した際は、ほぼ問答無用に近く、党幹部がロシア大使館に謝罪行脚するという感情的な対応が目立った(ロシア大使館への謝罪は、ロシアの北方領土占拠を容認したように先方に利用されかねず慎重に臨むべきだった)。その意味で当時と比べれば、組織として少し「熟度」が出つつあるのかもしれない。
他方、未来に時間軸を置くと、2つの利点はあったようにも思う。1つは、除名していた場合、鈴木氏との関係性は修復不可能になったはずだが、離党届受理という寛大な別れ方をしたことで、将来的に全国展開を仕切り直す際に北海道方面で水面下での政治的協力をまた可能にする余地を僅かに残した。
75歳の鈴木氏がいつまで政治活動が可能かという問題はあるし、早期の再接近はあり得ないが、冷静にみて維新がいまの地力で北海道まで党勢拡大するのは困難なのも事実だ。「ムネオカード」を切るかは別に選択肢は複数あったほうが動きやすい。
もう1つの利点は(1つ目の話とやや矛盾するが)、「鈴木宗男」という全国区の政治家と距離を置いたことで、悪材料が出尽くして仕切り直しのイメージを形成しやすくなったとも言える。
「情」と「理」の狭間
仮に馬場氏の「温情」判断の裏にそうした思惑があったとして、いずれも口が裂けても言えない「大人の事情」だ。しかし政党でも企業でも経営は長い目で見た時、「理」ばかりが最適な結果をもたらすとは限らない。さりとて「理」もなければ組織は成長しない。「情」と「理」のせめぎ合いを積み重ねることが肝要だろう。
もちろん「情」であろうが「理」であろうが、結果が問われるのは政党も企業も同じだ。一連の不祥事や万博の遅れで今年上半期まで野党第1党へ勢いのあった世論調査での支持率にかげりは出ている。NHKが数日前に行った調査で維新は4.9%。立民に5.3%で半年ぶりに逆転された。「売り物」の政策も、政府与党が(中身は別に)「減税」を打ち出してから、対立軸がぼやけた感はある。
けさの毎日新聞のスクープではベーシックインカム構想を見直しとのことだが、社会保障のコスト問題にメスをいれ、共同親権は自民党内の対立に便乗して民間案をぶち上げる…といった大胆さを維持しながらスケールを追求できるだろうか。少なくとも企業で言えば、上場の鐘を打ち鳴らす立場にはまだまだ遠い挑戦者だ。
【参考】
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