中国原発「放射能漏れ」#1 可視化された日本のリスク
「風下」に位置も、脆弱な察知体制- 中国の台山原発で放射能漏れ事故。出資した仏企業の米国への連絡でやっと公表
- 世界的な温暖化対策の流れで中国も火力削減、今後原発増設へ加速しそう
- ここで焦点になるのが収集した科学的かつ技術的な情報活動「MASINT」
中国原発で「放射線漏れ」との報道
米CNNが6月13日(現地時間)報じたところによると、8日にフランスの原子力企業フラマトムが、「中国広東省にある台山(タイシャン)原子力発電所において、放射能漏れの疑いがあり、一般市民にも放射線物質に関する差し迫った脅威がある」として、「必要な技術支援を至急要請する」という内容の書簡を米エネルギー省に送付していた模様である。
これは、フランスの電力会社(EDF)が同原発に30%出資しており、フラマトムはこの子会社として原子炉関連設備の設計、製造及びサービスを手掛けていることにちなんでいる。この書簡の中で、中国の安全規制当局が、同原発の運転停止を回避するために「施設外の放射線量の許容限度を引き上げている」との内容が記されており、このままでは社員らの安全が脅かされる危険があるとの認識から、原発に関して高い技術や知見を有する米国に助けを求めたものと思われる。
15日の仏フィガロ紙などは、同原発の冷却水内の希ガス濃度が、フランスでは原子炉停止となる上限値の少なくとも2~3倍に上っていると伝えている。つまり、中国は「何らかの理由で原子炉停止のハードルを大幅に上げている可能性がある」ということであり、これはとても危険なことだ。
米国は、フラマトムの申し出に対して、国家安全保障会議(NSC)を複数回開催し、情報の収集や分析を行って対応を検討している。
ようやく事実を認めた中国
台山原発を運営している中国広核集団有限公司(CGN)は、13日にウエブサイトで声明を発表し、「施設の内部でも周辺においても、異常な放射線量は検知されていない」「2基の原子炉はともに運転中である」などと述べ、正常に運用しているとしていた。
ところが、これまで沈黙していた中国政府が、16日になってようやく、「台山原子力発電所で燃料棒の一部が破損し、冷却材の放射性物質の濃度が上昇した」と発表し、事故の発生を認めた。一方で、中国で原発の安全管理を担当する国家核安全局は、「放射性物質の漏洩は存在しない」と説明しながらも、「冷却材の放射性濃度に関する基準値を当局が審査して認可した」と述べ、原子炉停止を避けるために基準値に変更を加えた可能性を匂わせた。
今回の事故は、フラマトムの申し出によってこのように世間に広まることがなければ、中国側は一切これを公表することはなかったであろう。この一連の中国の行動を見ていると、(現在のコロナ禍の発端となった)中国武漢でのオーバーシュート(爆発的患者急増)発生時の(どうしても隠し切れなくなってから公表するという)中国政府の対応がよみがえってくる。
筆者は、当初からこの新型コロナウイルスも中国の武漢ウイルス研究所における(ウイルス流出)事故ではないかと疑っている。それは、この武漢における肺炎患者発生当初からの極端な中国政府の隠蔽姿勢に基づく。
今年に入ってからは、「DRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investing COVID-19)」と名乗る(国籍を持たない)一般有志の調査チームによって、(本研究所からの流出が疑われる)様々な事実も判明し始めている。同研究所所属のコウモリのウイルス研究の第一人者である石正麗(シー・チョンリー)氏が、昨年6月に米国の科学誌に掲載した記事の内容に嘘があったことも判明している。恐らく、中国指導部は当初からこれが事故であった可能性があることに気付き、絶対に知られたくない事実を隠蔽しようとしているのであろう。
本当にこの国はまったく信用できない。今後中国内のいずれかの原発で大事故が発生したとしても、恐らく1986年のチェルノブイリ原発事故の際の(ソ連政府の)ように、放射線被ばくで何千人もの犠牲者が出て初めて事態の深刻さが世間に伝わる、というようなことになるのであろう。
今後予想される放射能リスク
現在、中国の商用原子炉は、国際原子力機関(IAEA)の資料によれば1991年に初号機が稼働されて以降、本年5月13日現在15地区で50基の原子炉が稼働中であり、さらに5地区で6基の原子炉が建設中である。しかし、これらが中国の電力に占める割合は今のところ5%に過ぎない。
本年4月に開催された地球変動サミットで、「2030年までに温室効果ガスの実質排出量を05年比で50~52%削減する」という新目標が設定された。この中で中国の習近平主席は、「26~30年の石炭消費量を21~25年の水準から段階的に削減する」との方針を示しており、さらに今後原子炉の建設が加速する可能性がある。こうなれば、これに比例して原発事故のリスクも高まることになる。残念ながら、風下に位置するわが国は、このリスクを背負わなければならない運命にあるということだ。となれば、万が一に備えてわが国は、この原発事故などの兆候を察知する能力を高めておかなければならない。
極めて貧弱な自衛隊のMASINT能力
軍事情報には、「MASINT:Measurement and Signatures intelligence(空間情報:意訳)」と呼ばれる活動分野がある。これは、特定の技術的センサーで収集した各種データを、量的及び質的に分析するという科学的かつ技術的な情報活動である。また、この中でも大量破壊(ABC)兵器に用いられるような核や化学物質や細菌・ウイルスなど、その情報源に応じて様々なカテゴリーに分かれている。
今回のような場合には、この中の「NUCINT:Nuclear Intelligence(核情報)」というカテゴリーが該当する。NUCINTは、空気中の放射能データを計測してこれを分析し、今回のような原子力施設の事故や核実験などを探知するような場合に活用される。
今回の台山原発のトラブルに関連して、日本の原子力規制庁によると、「国内の放射線量を測定するモニタリングポストの値には今のところ有意な変動はない」とのことである。しかし…(#2に続く)
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