パブコメの9割反対!政府のスマホアプリ規制「サイドローディング」の凄まじい愚策ぶり

開発者ら総スカンの理由
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • 政府の“スマホ”規制に対し、パブリックコメントの9割が反対する背景
  • 政府が義務化を検討する「サイドローディング」。その致命的な欠陥とは?
  • アプリ開発者「犯罪者に都合良いシステム」。政府に求めたい慎重な対応

政府デジタル競争本部が実施した「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」に対するパブリックコメントの結果があきらかになった。559件のコメントが寄せられた。しかし、この最終報告書に関するパブリックコメントの9割は非常に辛口なものだった。

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政府が進める「欠陥」政策

何故、同報告書にはこれほど多くの批判が集まったのか。実は最終報告書に基づいて予定されている政策は、日本国民が所有するスマートフォンのセキュリティに深刻な被害を催す可能性があるからだ。

スマートフォンは今や国民の大半が所有する。電話としてだけではなく決済端末、データストレージ、SNS、さらにマイナンバーカードも内蔵され機微な個人情報の出入口ともなっている。人々の日々の生活全般に関わり、スマートフォンなしの生活に人々は戻ることはできないだろう。

誰もが持つスマートフォンのセキュリティが政府の政策変更によって危険なものになるとしたら、そのような政策は採用されるべきではない。しかし、今、日本政府はそのような欠陥がある政策を進めようとしている。

日本政府は「サイドローディング」と呼ばれる仕組みをスマートフォンに義務化しようとしている。これが実現すると、OS標準のアプリストア(公式ストア)以外のストア以外からアプリを容易に入手できるようになる一方、公式ストアのセキュリティ審査を受けていないリスクが高いアプリが蔓延する恐れがある。具体的にはApple StoreやGoogle Play以外のストアからもアプリが手に入るが、そのアプリのセキュリティチェックは実質的に存在しないということになる。

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犯罪者に都合良いエコシステム

このようなサイドローディングの義務化は欧州で今年2023年5月に法律が成立しているが、アメリカでは依然として法制化の見込みすらない。つまり、政策がもたらすリスクの大きさすら何も分かっていない。

また、欧州委員会は法律制定後、追加調査としてサイドローディングのセキュリティリスクを軽減するためのソリューションの対策を開始し、来年4月にまとめる予定となっている。つまり、先行した法律を作った欧州ですら問題解決のための方法は見つかっているとは言えない状態だ。

他の政策では常に何周遅れにもなる日本のデジタル政策が同政策だけ足早に押し進めることには違和感しかない。

実際、6月に最終報告が公開された後、多くの有識者、それも多岐に及ぶ分野の人々から懸念が寄せられる異常な状況となった。

まず、数十のアプリ開発者による意見も寄せられているが、全体的を分析したところ、スマートフォンの技術をアプリ開発者に常に非差別的な条件で公開することに70%が反対。さらに、アプリをスマートフォンの専用の購入サイト以外からも購入できるようにする(アプリ代替流通経路、いわゆるサイドローディング)ことには実に91%が反対意見を表明している。

あるアプリ開発者は「エコシステムを悪用して不当に利益を得ようとする犯罪者にとってはとっても都合のいいルール変更案であり、その代償を背負うのは開発者であり、エンドユーザーだ」と指摘する。

また、アプリ開発者だけでなく、プライバシーやセキュリティの専門家、消費者団体、経済学者、知財の専門家、教育関係者、青少年保護関係者、経済安全保障の専門家など、その多くが立法の根拠を疑問視し、懸念を抱いていることは注目に値する。つまり、この問題は一部のデジタル関連の競争政策の専門家のみで決定して良い問題ではないのだ。

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約9割が反対の衝撃

特に、安全保障上・防犯上の問題は深刻である。いまやスマートフォンは医療データなどとも連携するようになってきているが、特定の個人の医療情報(疾患や遺伝情報など)は極めて重要なデータであることは言うまでもない。直近のサイバー攻撃の対象として増加している内容は医療データであり、それらの情報が少しでも漏洩するリスクが高まる可能性がある政策変更には慎重であるべきだ。東京都医師会もヘルスケアに関する機微な情報の情報漏洩について鋭く懸念を表明している。

これら多くの有識者が懸念を示しているとともに、一般ユーザーなど個人の声も多く寄せられた内容ですら

安全なサイドローディングなど絵に描いた餅だ

クローズドな環境だからこそ、高齢の両親に使わせられる

情報弱者はどうするのか

といった現場ユーザー視点から声が寄せられた。実に約90%弱が政府案に反対という衝撃的結果でもあり、政府としてこのまま進めるべきなのか、何をどうすれば「絵に描いた餅」で無くなるのか。慎重な舵取りが求められる。

日本政府が進めようとしているデジタル・エコシステムに関する政策は潜在的に大きなリスクをもたらすこと、ひとたびパンドラの箱を開ければ、再度閉じることは困難だ。徹底的な熟慮が求められる。せめて欧州の現実のインパクトを見極めたうえで最適な政策設計をすべきではないだろうか。

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国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員

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