バルカン半島が「中国」になる日…あざとい「債務の罠」

他国の資産を根こそぎ…トンデモ契約の中身
ジャーナリスト
  • 覇権外交を進める中国が近年、バルカン半島にも積極的に進出
  • ギリシア最大の港湾買収、モンテネグロで「世界一高価な高速道路」
  • 中国からの債務で建設。返済不能時は資産丸押さえの驚愕契約

(編集部より)6月30日で香港の国家安全法制定から1年、翌7月1日には中国共産党創立100年を迎えるとあって日本メディアの「中国特集」が佳境に入りつつある。しかしここ数日だけでも香港紙「リンゴ日報」の廃刊追い込みにみられるように、共産党政権の強権発動は止まらない。さらに中国は経済力にものを言わせて世界各地に着々と覇権を拡大中だ。本稿は、覇権外交の手口のひとつ「債務の罠」の実態について取り上げる。

欧州をチャイナマネーが侵食…(Oleg Elkov/iStock)

「ヨーロッパの火薬庫」と言われてきたバルカン半島は、地政学的に要衝でもあるために、世界の紛争を招いてきた場所だが、いま中国が「バルカン・シルクロード」と言う名で、バルカン半島にも積極的に進出している。

中国は2016年、ギリシャの最大の港・ビレリス港を買収している。ギリシャを起点に西バルカン諸国を経由して中東やヨーロッパをつなぐ一大拠点を築こうとしている。

驚くべきモンテネグロとの契約

モンテネグロで建設中の高速道路(※画像はイメージです。Luka Banda/iStock)

バルカン半島の西に位置する旧ユーゴスラビアの小国。モンテネグロは、人口62万人の小さな国だが、今ここで「世界一高価な高速道路」が建設中だ。

モンテネグロは、この高速道路の建設費用を、中国からの借金で賄っていた。2014年に中国輸出入銀行から約10億ドル(1000億円)の融資を受ける契約書を結んでいる。

高速道路は、地中海の海域であるアドリア海沿岸に接する港・バールと、隣国セルビアの首都ベオグラードを結ぶ予定だったが、完成の見込みがない。現状では、170キロのうちまだ41キロ分しか完成していない。中国から借りた10億ドルを、この区間だけで、すでに使い果たしてしまったというのだ。

今年7月から20年間にわたる返済が決まっているが、モンテネグロ政府は肝心な返済ができそうにないのだという。

さらに驚くのは、モンテネグロが中国と交わした契約の中身だ。

2014年に交わした契約では、モンテネグロは、もし返済出来なければ、モンテネグロの土地が中国のものになることとされている。モンテネグロ政府の同意なしに中国が同国に入り、プロジェクトを開発する権利が中国に与えられるという。港の開発権も中国に譲渡される。モンテネグロはインフラの管理権も放棄せざる得なくなるという。また、仲裁を行うにも裁判は、北京の裁判所で行うことまでが定められているのだという。

したたかに露骨に覇権拡大

中国のこうしたやり口はかつてから「債務トラップ外交」(インドの学者・ブラーマチェラー二氏が命名)だと批判されてきた。

一帯一路構想」で、発展途上国のインフラプロジェクトに、小国に不釣り合いな多額の資金貸与をする。最終的には返せなくなるというパターンで、窮地に陥らせて、国の資産を根こそぎ奪っていく。

ハンバントタ港のターミナル(スリランカ港湾局サイトより)

著名なのはスリランカの事例だ。中国からコロンボ港の開発費用として、巨額の貸与を受けたが、払えなくなったために同国は、ハンバントタ港の支配権を99年間、中国に譲らざるを得なくなった。また、インド洋の小国モルディブでも、払いきれない中国への債務が明らかになっている。

中国は批判を受けると、発展途上国と借款を結ぶ日本を例にあげて「なぜ西側諸国は日本も責めないのか?」などと、矛先を日本に向けたこともある。そのとき、インドの戦略研究家ブレーマ・チェラニー氏が「日本と中国の手法は違う。日本によるプロジェクトの金利は0.5%に過ぎないのに、中国は6.3%です」と反論した。

中国はモンテネグロの融資については「2%と低利」であるため悪意はないと反論しているが、日本の金利と比べれば高い。そもそも「日本は中国のようなあざとい担保設定をすることはない」とも批判されている。

中国はこのように世界から批判されるたびに、反論はするものの、評判を気にして行動を改める気配はない。他国の目など憚らずに、したたかに露骨に覇権を拡大していく。それが中華思想であり、彼らの戦略ということなのだろう。

 

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