稲田議員も困惑 !? なぜ「人権意識」と「性の多様性」は共有されないのか

トランスジェンダーだけど法案に反対した研究者に聞く #3
2021年07月21日 06:00
ライター・編集者

先の通常国会で提出が見送られたLGBT法案を巡るニュースで、あまり論じられなかった本質的な問題について、保守派とは異なる理由で法案に反対したトランスジェンダー研究者の三橋順子さんに引き続き聞きます。(3回シリーズの3回目)

nito100/iStock

反対派の背後にある「恐怖心」

――LGBT理解推進法案に反対している保守派の意見の背後には、「あって当然の男女の区別をしただけで差別と言われかねない」とか「自分が同性愛やトランス当事者を受け入れないことを差別と言われたら困る」という不安や恐怖心があるように思います。

【三橋】心情的に、「差別だ!」と言われるのが怖いというのは分からないわけではない。しかしだからと言ってそういう人たちの存在を認めない、法的に公平な扱いをしないというのは話が違いますよね。「差別」については、すでに線引きもあって、内心の自由はどこまでも保障されていますが、差別的なことを言葉に出したり、差別的扱いをしたらNGだということです。まして公職にある人が公の場で。差別はLGBT当事者に対してだけでなく、誰に対しても許されないという大前提に立ち返る必要があるでしょう。

稲田朋美
編集部撮影

この法案を推進したことで反対派の保守から猛批判されている稲田朋美衆議院議員は、歴史認識問題などでは確かに保守派で、私からすればずいぶん違和感を覚える主張もされています。しかし「誰に対しても差別は許されない」という前提は、しっかりお持ちの方だと思います。今回のご尽力には率直に感謝しています。

党内の一部保守派から最後の最後に反発を受けて今回は国会提出を断念せざるを得ませんでしたが、さすがに「誰に対しても差別は許されない」という前提は党内でも共有されていると思っていらしたのだろう、と思います。ところが、それが甘かった。ここがとても問題なのですが、自民党の国会議員の一部や保守論壇では、そうした認識が共有されていなかった。稲田さんは「どうして話が通じないんだろう」と、きっと困惑された、と推測します。

「基本的人権」は誰もが保障されている

――「人権」という言葉を警戒する保守も少なくありません。

【三橋】「人権」がお嫌いだったら、まずご自身の人権を放棄すればいいのですよ。被参政権とか。立候補できなくなりますけど。基本的人権の尊重は憲法に明記されています。その憲法が気に入らないというならそれはしょうがないですが、「気に入らないから守らなくていい」だったら法治国家ではありません。少なくとも現行法規は守るべきでしょう。

――保守側が「人権」を主張するのはもっぱら、「中国共産党に蹂躙されたウイグル人の人権」と言った文脈です。もちろんそれも大事ではあるのですが。反対論の中には、「同性愛や性別の揺らぎは治療で治る」「ひっそりとしていれば誰も差別しない」などというものもあり、そうした言い分こそが「理解増進法案」の必要性を証明していると言わざるを得ないものも少なくありません。

【三橋】率直に言えば、私などは「理解増進法案」なんて必要ないと思っています。さっさと民法の一部を改正して「婚姻平等」を実現すればいいのです。憲法の理念に沿って、「誰に対する差別もなくす」ことを実現すればいいわけです。

Orbon Alija/iStock

――同性婚についても、反対論として出てくるのは「夫婦の基本は子供を育むことにあるのだから、子供が生まれない同性婚は認めない」という意見です。

【三橋】子供のいないご夫婦の前でそれを言えるのですか、と問いたいです。「同性婚を許すと少子化が進む」というのも誤解で、それはもう授精&受精能力があるヘテロセクシュアル(異性愛者)の方々に頑張ってもらうしかない。むしろ、子供を持ちたいという同性同士のカップルに、2人の子供としてきちんと育てられる環境や制度を整えることで、若干なりとも少子化を防ぐことになります。

私の知り合いのレズビアンのカップルにも、もうすぐ子供が生まれますが、現在の法律では、生まれた子供は産んだ女性、つまり片方の子供としてしか扱われません。「家族」を大事にするのならば、2人の子供と認める法整備をすべきだと思います。反対派は「同性カップルが親なんて、子供がかわいそうだ」と言いますが、実際の事例をぜひ見て知ってほしい。愛しあう2人の間で育つ子供が、本当に不幸に見えますか、と。

多様な性に寛容だった「日本の伝統」

――私自身、改憲派であり、歴史認識もいわゆる保守派に属すると自覚していますが、LGBTに関して「保守」はどの時点から急に厳密・猛烈に反発するようになったのかと不思議に思っています。もちろんジェンダーフリー教育反対の風が吹いていた時代はあったし、保守は社会の急進的変化は望まない、過激なポリコレに警戒する、という部分は分からなくはないのですが。

【三橋】保守派のLGBT反対派の代表ともいうべき山谷えり子参議院議員のように、ジェンダーフリー反対、学校での性教育反対、中絶反対、夫婦別姓反対、LGBT反対、純潔教育賛成という、それはそれで「一貫した」信念をお持ちの方もいます。それが例えばキリスト教右派的な信条からきている、というのであれば、反対する理由もわからないわけではありません。しかし「日本の伝統に反するから反対だ」というのならば、ジェンダー&セクシュアリティ史の研究者として、それは全く違うと言わざるを得ません。

日本は歴史的に見て、あのフランシスコ・ザビエルが激怒したように世界に冠たる「男色王国」であり、異性装(女装、男装)の文化・芸能が世界で最も発達している国です。『女装と日本人』(講談社現代新書)にも書きましたが、建国神話に女装の英雄が登場する国は、世界でも稀です。このことを国際学会で話すと、欧米の研究者は驚き、「うらやましい」と言います。現在残っている祭礼などからして、日本の神は女装を嫌いません。むしろ好む傾向さえあります。保守派の方が「日本の伝統」というのであれば、近代化の過程で厳格な男女二元論と異性愛絶対の西欧近代の性的規範に毒される以前の、多様性に富んだ豊かな日本の性愛文化の感性を顧みてもいいのではないでしょうか。(おわり)

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