北京冬季オリンピック、習近平政権に影を落とす台湾問題と新型コロナ
【連載】北京2022「世界」を悩ます3つの争点 #3(最終回)開幕まであと3か月を切った2022年北京冬季五輪・パラリンピックで浮上した3つの焦点。①民主主義陣営の「外交的ボイコット」はどうなるか?ーについて#1、#2 で紹介してきた。最終回では、②台湾・香港情勢がどう影響するか?③猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大が大会運営にどう支障を及ぼすのか--の解説を行いたい。

リトアニアが台湾問題の火種に
習近平政権が国威発揚、国力誇示を狙う「スポーツの祭典」は中国が国際社会でどう位置づけられているかを表す成績簿と言える。2021年、習政権の台湾に対する圧力はますます高まりを見せているが、その台湾との結びつきで北京大会の成果の鍵を握る国がある。
それが、北欧バルト海に面し、欧州連合(EU)の一角であるリトアニアだ。第二次世界大戦中に外交官、杉原千畝氏が「命のビザ」を発給したことで知られる国が今、反中国包囲網の最前線にいる。
親台湾のボルテージを上げる人口240万人の国に、いらだちを示す中国。大会期間中に、このリトアニア選手団の一挙手一動作によって、台湾問題の火種が拡大する恐れもある。

リトアニアの首都ビリニュス。10月下旬、女性政治家で弱冠32歳のアウシュリネ・アルモナイテ経済イノベーション大臣が地元メディアにこう力説した。台湾政府からの代表団がリトアニア入りした時のことだった。
「リトアニアにとって、産業、ハイテク、バイオテクノロジー、ITを活用した金融サービス分野において、台湾側からの投資は大きな国益がある。もちろん、我が国のGDPの8割を占める農産物を台湾に輸出する可能性についてもメリットがある」
リトアニアは今、台湾との互恵関係を強化するムードに包まれている。台湾外交部(外務省)は11月18日、リトアニアに欧州で初めて「台湾」の名称を用いた代表処(代表部に相当)を立ち上げた。同日の外交部の公式ツイッターには「駐リトアニア台湾処」の事務所の前で、笑顔でプレートを掲げる職員の記念写真が掲げられ、こんなメッセージが添えられた。
「この素晴らしい日が実現するよう、私たちの国を支えてくれたリトアニア政府と世界中の友人らに対して、深く感謝いたします。ありがとう!」
The Taiwanese Representative Office in #Lithuania🇱🇹 is open & ready to expand exchanges between #Taiwan🇹🇼 & the #EU🇪🇺 member state. We're deeply grateful for the support of @LithuanianGovt & friends worldwide who backed our countries in making this great day possible. Thank you! pic.twitter.com/O2bUxWHTwb
— 外交部 Ministry of Foreign Affairs, ROC (Taiwan) 🇹🇼 (@MOFA_Taiwan) November 18, 2021
台湾への連帯につながるリトアニアの歴史
なぜリトアニアが台湾との関係を強化しようとしているのか?それはリトアニアの歴史と密接な関係がある。
第一次世界大戦後に独立国家となったリトアニアは第二次大戦中、ナチスドイツの侵攻を受け、大混乱の中で1940年にソ連に編入された。ソ連ペレストロイカ末期の1991年、ソ連の共和国でいち早く独立を宣言したが、ゴルバチョフ政権がこれを阻止しようと武力で突入。多数の死傷者が出る血の日曜日事件が起こった。

こうした苦い教訓を持つリトアニアは国民の総意として大国の武力侵攻に対して強い警戒感を抱いており、プーチン政権に対しても、ロシアの人権弾圧やウクライナに対する軍事圧力に関してことごとく非難の意を表明している。
香港の民主化運動を封じ込める習政権に反旗を掲げており、今度は緊張が高まる台湾に対して、リトアニア国家としての連帯の意を示したのである。すでにリトアニア国内でも北京大会への「外交的ボイコット」が呼びかけられている。
リトアニアの姿勢に、「一つの中国」政策を掲げる習政権は激怒した。中国外務省の趙立堅報道官は11月22日の会見で、リトアニアとの関係を格下げすることを宣言し、「断行の意図?」(人民網日本語版、11月23日)を示した。
「次に皆が最も関心を持つべきは、一体リトアニアが誤った道を最後まで突き進むのか、それとも過ちを正し、関係修復を試みるのかという問題だ」
すでに米バイデン政権もリトアニアの姿勢に支持を表明している。北京大会直前の台湾情勢をめぐる中国とリトアニアの亀裂は看過できないレベルに達している。
台湾問題が、習政権の北京五輪懸案に
国際オリンピック委員会(IOC)は今年の東京五輪から、かつて処罰の対象にすらなった、大会期間中の選手たちの政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を一部、緩和した。厳しい規制は選手たちの表現の自由を妨げるというのが理由。東京大会ではその結果、出場選手たちが黒人への人種差別に抗議して、試合前に片ひざをつくパフォーマンスを見せるなど、歴史的な大会となった。
この規制緩和によって、もし、北京大会に参加したリトアニアの選手が、人権弾圧に対して抗議の意を示すパフォーマンスを見せた場合、IOCや大会組織委はどう対応するのか?さらに進んで、台湾への連帯の意を示すようなサインを示した場合、北京政府はどんな対応を取るのか
産経新聞によれば、台湾ではすでに立法院(国会に相当)で北京五輪へ厳しい対応をとるよう台湾当局に呼びかける決議案が提出された。北京大会に参加する可能性のある選手は8人といい、決議案ではその選手たちに中国が国内法を適用し、「台湾独立分子」として拘束される危険性があるとさえ、記されている。
中国・人民網日本語版は、11月22日付けで中国のリトアニアへの対応は、チェコやハンガリー、ポーランドへの警告だとする専門家の声を紹介している。中国人民大学の王義桅教授(国際関係学)は「こうした国々に対し、台湾地区など原則的問題において中国への挑発を試みてはならないと警告した」と指摘した。
こうしたことを背景に、北京に訪れる、欧米、日本を含む民主主義陣営の主要メディアは期間中、このテーマで挙げた国・地域の選手たちの動向を追い、少しでも中国政府の圧力がかけられれば、それを全世界に報道することになるだろう。そしてそのニュースが大事(おおごと)になれば、習政権にとってそれは大会に大きな傷跡を残しかねない出来事になるだろう。
「ゼロコロナ」が中国にもたらすジレンマ
もう一つは、大会成功に向け、民衆の自由を封じ込めてきた中国政府の「ゼロコロナ」政策である。この厳しい感染防止対策に対して民衆の不満が蓄積しており、この鬱憤の発露が特別優遇されている北京大会に向かいかねないとの懸念がある。

ゼロコロナ対策は至る所で、実施されている。
11月17日には、香港ディズニーランドを訪れた1人の来園者が、ウイルス検査で「暫定的な陽性」反応が出たとして、臨時休園となった。北京の郵便配達員は、新型コロナ感染症の中・ハイリスク地域から輸送されてきた宅配物を全て消毒しなければならない。北京の小学校では感染した学校職員1人がワクチン接種に臨んだことで、同じ会場に居合わせた他の職員が務める小学校をすべて閉鎖した。
市民生活に大きな犠牲を強いる対策について「コロナ煉獄だ」(米CNN)との声がある。反対論も公然と表に出るようになっており。香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙は「ウイルスが順応した今、中国ゼロコロナの目標は可能性ゼロだ」として、この対策の転換をすべきだとの論を展開した。
こうした中で、北京市は17日、市内に入るすべての人は48時間以内に受けた新型コロナ検査の陰性証明書の提示を求める新規制を導入した。開幕が近づくにつれ、さらなる規制が打ち出され、市民は五輪のためにあらゆる行動が制限される恐れもある。
なおも世界で猛威を振るう新型コロナ感染。その封じ込め政策は、東京大会以上に大きな影響を与え、習政権のジレンマを生みそうだ。
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