熱海土石流で浮き彫り:今こそ問うべき「居住制限」という論点

現行制度の「切り札」国も活用視野
2021年07月20日 06:00
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • 熱海土石流の原因をめぐり違法な開発など「人災」ばかり取り沙汰されがち
  • 土砂災害の危険場所は特定できるが、一切の居住制限しておらず減災に限界
  • 現行の建築基準法でも自治体が「災害危険区域」指定は可能。国も踏み出す

今月3日、熱海市で発生した土石流は、約130棟あまりの家屋を飲み込み、死者18名、行方不明10人(7/19時点)という大惨事を引き起こした。今回の土石流災害発生の原因は、不適切な造成や盛土工事、そして付近のメガソーラー設置が影響しているのではないかと言われているが、現段階でまだはっきりしたことは分かっていない。

この週末も続いた行方不明者の捜索救助活動(防衛省・自衛隊ツイッターより)

今回の土石流を引き起こした原因が、山林・山間部の不適切な開発にあったとすれば、その違法性の有無や工事基準の見直しなどを徹底的に行うべきなのは当然だが、ただ、少し気になるのは、マスコミが今回の災害を人災であるという「視点のみ」で報じている点だ。

多くの人が指摘するとおり、今回の土石流は人為的な開発が要因で引き起こされた可能性は高いかもしれない。しかし、今回災害が発生したエリアは土砂災害警戒区域に指定され、災害が発生する可能性の高い地形だったという点についてもしっかり注目しなければならない。

日本では毎年平均1100件以上の土砂災害が発生

今回の土石流に限らず、土砂災害は毎年日本全国で多発している。国土交通省によれば、昨年の土砂災害は46都道府県で1,319件発生しており、これは集計開始以降の平均発生件数(1,105件)の約1.2倍となっている。

近年、土砂災害が増加している原因は、気候変動による豪雨の影響や山林の乱開発などが考えられる。ただ、その直接的な原因についてはその地域の地形特性やケースごとに異なるので、個別の土砂災害を完全に防止したり予見することは難しい。だが、土砂災害が発生する可能性のある区域をあらかじめ特定することは可能だ。

過去に発生した土砂災害から得られたさまざまなデータや知見によって、土砂災害が起こりやすい地形の区域は特定できる。それが「土砂災害警戒区域」や「土砂災害警戒特別区域」である。これらの区域は実際の地盤強度などを調査して指定するのではなく、地形と現地調査によって指定される。

あらかじめ土砂災害が起きやすい場所を特定できているのに、なぜ毎年土砂災害によって甚大な被害が起こってしまうのか?

答えはシンプルだ。日本は「居住の制限」ができないからである。例えば、いま自分が住んでいる場所が先述した土砂災害警戒区域の指定を受けたとしても、自分がその場所に住んでいたいなら別に引っ越す必要などない。あらたにその区域内の土地を買って家を建てる場合も特別な制限など受けない
※特別警戒区域の場合は特定開発行為に対する許可制や建築物の構造規制等有り

もっと言えば、その区域の自治体(市町村)も膨大な費用を負担する義務を負うわけでもない。土砂災害警戒区域を指定するのは都道府県であり、その指定を受けた市町村は土砂災害に関する情報の収集や警報の発令、救助その他必要な警戒避難体制に関する事項を定めなければならない義務等(ハザードマップの作成、配布等を含む)を負う。が、逆に言えばそれをするだけでいい。土砂災害警戒区域の指定を受けたからといって、即座に市町村が膨大な費用をかけ、その区域に新たな擁壁(土砂災害を防護するコンクリート壁等)を作るなどの義務が発生するわけでもないのである。

本当に居住制限は必要ないのか

現在、原子力災害対策特別措置法以外で「その場所は災害が起こりやすくて危険だから住んではダメです」という趣旨で居住を制限できる法令はない。人の移動や居住は憲法で保障された自由のひとつであり、一定の場合(公共の福祉に反する場合、刑務所等への拘禁、破産者の居住にかかる制限など)を除いて法的な制限はできない。

自然災害の危険性がある場所に住むことを制限できない以上、自然災害の被害は一定程度必ず発生する。その被害を最小に食い止めるためには、災害の危険性が高まった場合の迅速な避難や、災害を食い止める設備の増強(防護壁、堤防などの築造等)など「減災」への取り組みが重要となる。

避けようがない自然災害については、ソフトハード両面から減災に取り組み、その被害を最小限に抑える努力が必要だ。土砂災害だけではなく、河川の氾濫、洪水、浸水、高潮被害など、これまで災害を想定していなかった場所でも近年、予測を超えた自然災害が起こっているし、今後も同じような状況は続いていくだろう。

だが、災害大国といわれる日本で、すでにある程度の自然災害被害が予測できている地域であるにもかかわらず一切の居住制限をしないことは、本当に減災へ取り組んでいると言えるのだろうか

近年、郊外の住宅街で土砂災害が相次いだ広島市(くろすけ/写真AC)

居住制限の切り札「災害危険区域」指定

日本で直接的な居住制限をすることは難しいが、自治体は建築基準法に基づいて、災害危険区域(災害の危険がある場所の建築制限を行える区域)を条例で指定することができる

最近、国はこの制度を利用(活用というべきか)し、実質的な居住制限に一歩踏み込んだ動きを見せている。昨年、国土交通省が設置した「水災害対策とまちづくりの連携のあり方検討会」の資料には明確に「災害危険区域の指定の促進」や「災害危険区域を定め住居の建築の禁止を行うことも有効」という記述がある。少しあからさまな気がするが、国は地方に対して災害危険区域の制度を利用すれば実質的な居住制限をすることができることを明確に示したのである。

もちろん災害危険区域の指定が即、区域内での居住自体を制限するものではない。しかし、区域内で住宅の建築を禁止することは、実質的には緩やかに居住の制限が進んでいくことに等しい。新たに家が建たない場所では既存建物の劣化や生活インフラ設備の劣化などによってどんどん人が住めない環境になっていく。この災害危険区域の指定が促進されれば、いま各地で進められている都市のコンパクト化にも好影響があるかもしれない。

2021年3月31日現在、全国で土砂災害警戒区域等に指定されている区域は66万3,258か所に上る。そのすべてで土砂災害が起きるわけではないし、そのすべてが災害危険区域に指定されなければならない区域だとも思わない。居住制限という私権の制限も最低限であるべきだ。ただ、その私権制限によって、守られる命があることも事実だ。過去5年間(2016年~2020年)の土砂災害による死者・行方不明者は全国で247人に上っているのである。

住宅・不動産ライター/宅地建物取引士

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