オリンピック選手も虫歯に!スポーツドリンク乱用に注意

熱中症対策との両立はどうする?
歯学博士/医療行政アナリスト
  • 猛暑でのスポーツドリンク、過剰に飲むのは注意。ロンドン五輪選手の虫歯データも
  • ドリンク中の人工的に添加された糖分「遊離糖」。WHOが健康被害を警告する理由
  • 熱中症予防と生活習慣病予防を両立させるためにはどうしたら良いのか

金メダルを量産し国民をわかせたオリンピックも終盤。世の中はまもなく夏休みシーズンを迎え、触発されてスポーツに挑戦されるかたも多いでしょう。

とはいえ季節は夏真っ盛り。スポーツのみならず猛暑のレジャーに水分補給はかかせません。ここでスポーツドリンクを手に取る前に、少しだけ待ってください。

mel-nik /iStock

スポーツドリンクを過剰に、あるいは日常的に摂取することは健康に対し大きなリスクがあります。

事実、国際歯科連盟の発表によると2012年ロンドンオリンピックのアスリート399名のうち55%に虫歯、18%では競技に影響する歯科疾患が認められました。これは出身国の多様性という背景もありますが、スポーツドリンクと虫歯の関係は対策しなければならない課題と位置付けられています(1)。

WHOが警鐘「遊離糖」

運動時に大量の水分補給をする場合、塩分を中心とした電解質を同時に接種することが必要。厚労省は熱中症診療ガイドラインで0.1~0.2%の食塩水を20~30分おきに200ml程度摂取することを推奨しています(2)。

しかし食塩水は自作する必要があり、あまりおいしいものでもありません。

そこで入手が容易なスポーツドリンクを代用することが多いですが、これらは多量の糖分で甘味を加えています。このように人工的に添加された糖分などを遊離糖といい、近年WHOは大きな健康被害をもたらすとアナウンスを強めています。

遊離糖の問題点は吸収性が良すぎ、血糖値が急激に上昇することにあります。このとき体は適正な血糖値に戻そうと水分を求めるため口渇感は解消されづらく脳に強い快楽を与え依存性を示します。

結果としてさらなる遊離糖の接種に繋がり、短期的には大量摂取によるケトーシスなど意識消失リスク、長期的には糖尿病・高血圧・虫歯などの生活習慣病やストレス時の過食につながることがわかっています(3, 4)

歯の健康の観点で言うと1時間に数回のペースで遊離糖飲料を数時間にわたり飲み続け、それが毎日の習慣となっているというのは、極めて虫歯になりやすい条件といえます。

下図の通り歯は食事の度に虫歯に近づく「脱灰」と、そこから回復する「再石灰化」を繰り返しており、このバランスが崩れると虫歯になります。脱灰から再石灰化に転じるのに30分以上はかかるので、熱中症対策の飲み方は再石灰化の機会を失い続けることに。

臨床現場においてそれまで歯に問題なかった子供が、部活を始めたとたんに歯が白く曇ったような「初期虫歯」を多く作ってくる、というのはしばしば目の当たりにします。

画像提供)歯科医師/漫画家 うさっぱ(https://twitter.com/usappa_)

スポーツドリンクと水を交互に

では熱中症予防と生活習慣病予防を両立させるためにはどうしたら良いのでしょうか。いくつかの論文やガイドラインでは、パフォーマンス重視か健康重視かもふまえ、目的に応じて適切な飲み物を選択することを推奨しています(5,6)

試合・競技やエクストリームスポーツに関しては、運動中の糖分補給がパフォーマンス向上につながるのは事実。ふんばりが効かず事故になってもいけません(7)

この場合スポーツ後を含めた日常生活での水分補給を可能な限り水とし、フッ化物や歯科検診による虫歯予防に配慮することを推奨します。またラグビーや格闘技などでマウスピースを装着する前には、口腔内の糖分を水などで洗い流す必要があるでしょう(8)

ひとたび虫歯になれば治療のために練習時間をロスし、放置すれば痛みによる不眠や摂食障害で競技に支障をきたすことを忘れてはなりません。

一方、健康増進のためのスポーツであれば運動中の糖分摂取の必要性は下がるので、量と頻度を減じるのが良いでしょう。

例えばスポーツ愛好家の歯科医たちの間では、スポーツドリンクと水を交互に飲むという工夫がされているようです。干し梅や塩昆布を先に口にし、酸味を洗い流しながら水や麦茶を飲むのも良いでしょう。塩飴は糖質が高く口腔内に滞留するため、あまり推奨できません。

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飲み物以外の熱さ対策

これらと並行して電解質不足を予防するために、飲み物以外の熱中症対策を整えることも重要です。

まず運動開始前の時点で水分と電解質がしっかり補給できているでしょうか。熱中症対策の観点からは、朝食や昼食を抜いた状態で運動を始めるのは望ましくありません

つぎに熱い環境での運動や作業に体を順応させるため、一週間程度の時間をかけて徐々に負荷を高めていく必要があります。これは暑熱順化といい、発汗量が増し身体の排熱効率が高まるとともに電解質喪失量も減るため、熱中症リスクが低い体をつくることができます。

逆に普段冷房の効いたオフィスでデスクワークしていて、夏休みになったからと急に酷暑の中運動するのは大変リスクの高い行為です。

(引用)熱中症が発生するしくみと それに基づく有効な対策 (mhlw.go.jp)

残念ながら未だ、熱中症対策と慢性疾患予防の最善のバランスは明確になっていません。今後スポーツ医学と生活習慣病分野で協働したガイドラインの策定が待たれます。

それまでは少し「しょっぱい」結論ではありますが、0.1~0.2%食塩水が最も理想的な熱中症対策、とするほかなさそうです。

*資料提供・監修;トンデモ歯“スターズ(https://note.com/moody_dent_info

 
歯学博士/医療行政アナリスト

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