首里城火災、住民訴訟へ 〜 司法で問う沖縄県と美ら島財団の管理責任
不可解な料亭買収...財団の体質にメス入るか- 首里城火災を巡る、沖縄県と美ら島財団の管理責任を問う住民訴訟が提起
- 誰も処分もされない状況に原告団の一人「『責任者出てこい!』と叫びたい」
- 防火体制の杜撰さなど財団の管理責任。老舗料亭の不可解な買収など体質にメス
2019年10月31日未明に発生した首里城火災の管理責任をめぐり、「沖縄県が、発災責任を負う指定管理者・美ら島(ちゅらしま)財団に、約2億円の損害賠償を請求しないのは違法」として、8人の沖縄県民(首里城火災の管理責任を問う沖縄県民の会)が、玉城デニー沖縄知事を相手取った住民訴訟を起こした。

「出火原因不明」で終わらせない
首里城火災では、1992年の復元以来、琉球王朝のシンボルとして観光資源にもなっていた漆塗りの正殿を始め、城郭内の6棟の施設が焼尽に帰した。那覇市消防局は、被害額約53億円と算定している。
火災後、関係機関の調査が進められていたが、沖縄県警察は2020年1月に「事件性なし」との判断を示し、那覇市消防局は同年3月に「出火原因不明」という結論を下している。消防は、正殿内の電源系統のトラブルが火元である可能性を示唆しているものの、「建物全体の焼損が激しく、物的証拠や着火物を特定できない」としている。
これに対して原告は、沖縄県監査委員に対して本年6月4日に住民監査請求を行い、美ら島財団が沖縄県に収めるべき固定納付金2億3千万円を、県当局が9700万円に減額したこと、首里城に収蔵・展示されていた県所有の美術品が火災によって毀損したのに、美ら島財団に損害賠償をしないことを県民に損害を与える行為であるとして訴えたが、監査委員は7月16日付けで、「却下」の判断を下した。これを受けて原告は、那覇地方裁判所に8月16日付けで、美ら島財団の管理責任と沖縄県の監督責任を問う訴状を提出した。

原告団「責任者出てこい!」
原告団の共同代表である那覇市の石岡裕さんは怒りをこめて語る。
「どうにも納得できないんです。沖縄県民の心を傷つけ、53億円もの損害を出した大規模火災なのに、管理する財団や県の担当部局で誰ひとり処分を受けていません。免職、停職はもちろん、厳重注意すらない。さすがにこれはおかしいと思います。誰も責任を取らない状況でこのまま前に進んでいいのでしょうか。県民だけでなく県外・海外の多くの人たちがもやもやした思いを抱えているのが現状で、『責任者出てこい!』と叫びたい気持ちでいっぱいです。裁判に勝って管理体制を一新したいと思います」
石岡さんと共に共同代表を務める宜野湾市の金城ミツ子さんは、美ら島財団と沖縄県の不誠実な態度を見て訴訟に参加することを決めたという。
「沖縄県が所有する美術品も首里城内に多数収蔵されていました。ところが、火災によって県民の美術品がどうなったのか問い合わせても返答はなく、破損したのか焼失したのかもわからないまま2年近く経っています。こんな人たちに先祖伝来の大切な品を委ねていたのかと思うと悲しくなります。同じ思いを抱えている県民は少なくありません。今のような管理体制では、歴史も文化も後世に承継されません」
美ら島財団の管理責任
弁護を担当するのは、「那覇孔子廟違憲裁判」において、今年2月最高裁で違憲判決を勝ち取った、大阪弁護士会の徳永信一弁護士を中心とした弁護団である。
「出火原因は特定できない、と消防は結論していますが、火災が発生した背景には、沖縄県の指定管理者として首里城の管理を受託していた美ら島財団の杜撰な管理があります。たとえば、財団から防災や警備の仕事を請け負っていた警備会社の係員は、出火を発見した際にあわてるだけで、消火器などによる初期消火もできなかった。おまけに、消防車がかけつけたとき、彼らは正殿に誘導できませんでした。こうした消火の遅れが延焼を拡大したと思っています。外部から正殿に放水する放水銃もあったが、正しく機能していません。消火のための貯水槽にも十分な水が蓄えられておらず、消火活動は一時中断しています。美ら島財団の防火意識や防火体制に問題があったことは明らかです」(徳永弁護士)
原告団が掲げる「美ら島財団の過失」は多岐にのぼる。
- 警備員・監視員は異常を感知しながら、初期消火等の適切な対応をとれなかった。
- 通報を受けて駆けつけた那覇市消防局を警備員・監視員は適切に誘導できず、消火活動に移るまでに時間を要した。
- 正殿周囲に設置されていた放水銃が、翌日のイベントのために組まれた足場などに遮られ、十分活用できなかった。
- 城内の消火用貯水槽がすぐに枯渇し、放水活動が一時中断した。
- 焼失した首里城城郭内には、重要文化財を含む歴史的価値の高い美術品が展示または収蔵されていたが、スプリンクラー等、その価値に見合うだけの防火設備が設置されていなかった。
- 火災の2年前の平成29(2017)年12月22日に、那覇市消防局から首里城正殿等の防災上の欠陥を指摘されていたにもかかわらず、適切な是正措置を怠った。

財団の奢り
こうした防火上の過失に加えて、美ら島財団の経営姿勢に「奢り」のようなものがあったのではないか、と筆者は考えている。現在、同財団は首里城(公園)のみならず、沖縄本島北部にある美ら海(ちゅらうみ)水族館、海洋博記念公園、沖縄県立博物館・美術館の指定管理者になっている。コロナ前の2019年の入場者数を見ると、首里城公園が205万人、海洋博記念公園が455万人、沖縄美ら海水族館が332万人、沖縄県立博物館・美術館が57万人だ。財団は、単純合計で1039万人の利用者にサービスを提供してきたことになる。
この数字は年間1000万人という沖縄県来訪観光客数に匹敵する。現在コロナ禍で入場者数は大幅に減少しており、同財団は赤字に転落しているが、指定管理者の候補となりうる法人の少ない沖縄県では、今も別格の巨大法人であり、「財団は琉球・沖縄文化の守護神」と考える職員も少なくないという。だが、同財団が事業を営む施設のほぼすべてが国か県かが所有する施設だ。つまり、公共の資産を利用して初めて同財団の経営は成り立っていることになる。事業としての公共性を損なわない範囲で利益を追求する責任を負っているはずだ。
ところが、沖縄県における法人としての優位性・独自性に甘えるあまり、財団は杜撰な経営姿勢に陥ってはいないか。あるいは「自分たちは沖縄では特別な存在だ」と思いこんではいないか。それが今回の火災の遠因になっているように思えてならない。
不可解な料亭買収
同財団は2016年に、伝統的な琉球料理を提供する那覇市内の老舗料亭「美榮(みえ)」を買収している。首里城に関連した「琉球の食文化研究」が買収の名目だが、「江戸料理の伝統」を守るために、東京のどこかの財団が料亭を買収した話など聴いたことがない。「経営が悪化した料亭の主人に頼まれて財団が買収した」という噂もあるが、公的機関からの受託を生業とする財団が料亭を経営することには大きな違和感がある。
今回の住民訴訟では、首里城の管理責任だけではなく、財団のこうした内部事情も明らかにされることになる。初公判は10月末から11月初旬に予定されるが、裁判の勝ち負けとは別に、美ら島財団のあり方、指定管理のあり方、文化の継承のあり方なども問われることになろう。今後の裁判の推移をしっかり見守りたい。
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