石垣市に塩対応、読売には特ダネ…「尖閣」巡る政府の“やってる感”がスゴい

アフガン政変が示唆する「米軍頼み」限界
  • 「尖閣」をめぐり沖縄県石垣市と政府の温度差が目立つ
  • 石垣市は行政標柱を製作、上陸申請の意向だが、加藤官房長官は却下の姿勢
  • 中国と事を荒立てない政府の外交方針も、米軍頼みの限界がアフガンで示唆?

尖閣諸島を行政区域に持つ沖縄県石垣市と国の温度差が目立っている。石垣市は住所地名の変更に伴う新しい行政標柱を島内への設置をめざしており、市は23日に完成した標柱を記者発表。中山義隆市長は、中国側の度重なる領海侵入などの厳しい情勢を挙げた上で、「市はこれまで国に対し必要な措置を要請してきたが、いまだ状況に変化がない。尖閣諸島を市民、国民の皆さんに広く正しく知ってもらうことが重要」と述べるとともに、設置のための上陸を申請する意向を示した。

行政標柱をお披露目する石垣市の中山市長(右、市の公式YouTube)

これに対し、政府は翌24日、加藤官房長官が記者会見で「原則として政府関係者を除き何人(なんびと)も上陸を認めない方針を取っている」などとして却下する方針を鮮明にした。熱烈なアピールをする石垣市への“塩対応”ともいえる加藤発言に、ツイッターでは保守層が怒りを炸裂。ジャーナリスト門田隆将氏は「中国の反発を避ける為。日本の政治家官僚は責任を取らない。この1年半コロナ禍でも嫌というほど見せられた。こうしてやがて中国領に」と指弾。加藤氏は自身のアカウントでも「許可できない理由は?また隣国への忖度かよ。情けない官房長官」などとなじられる始末だった。

記者会見する加藤官房長官(政府インターネットテレビ)

ところが、“塩対応”ばかりが目立つことを躊躇したのだろうか。この日の読売新聞夕刊には一面準トップで「尖閣対応へ巡視船増強」と題した特ダネ記事が掲載された。「海上保安庁は大型巡視船の建造計画を増強し、来年度から新たに4隻の建造を始める方針を固めた」というのだが、読売一社への明らかなリーク報道。情報源となった政府関係者としては日本国内で弱腰と取られないようにしつつ、中国政府に“誤った”メッセージを送りたくないという思惑があった可能性がある。

しかし、実効支配をしているとは言いながらも、自衛隊どころか公務員を誰も常駐させず、過去には東京都の石原慎太郎知事(当時)から船だまりの建設を要求されても国は頑として応じてこなった。自民党も政権を奪回する前の時点では、2012年衆院選に向けたマニフェストに公務員の常駐を盛り込む勇ましさを見せたが、安倍政権は素振りも見せず掛け声だおれに終わった。

魚釣島(内閣官房HPより)

アフガン政変が示唆する「教訓」

国境の海の最前線に立つ地元自治体に突き上げられ、さまざまなアピール行動をしても肝心の政府が塩対応をするウラで、本土の保守層には海保の体制強化の報道を通じて“やってる感”を演出。しかし実際に中国側が武装した漁民などが尖閣に上陸占拠する「グレーゾーン事態」が勃発してしまえば実効支配をとって代わられるリスクがつきまとう。中国を無用に刺激することを避けつつ、米軍のプレゼンスを背にしておくというのが、日中国交回復以来の外務省の伝統的な手法とされるが、「米軍のプレゼンス頼み」で、警察の特殊部隊や自衛隊による実力行使を躊躇するのであれば、尖閣奪回もおぼつかない。

アフガニスタン情勢について演説するバイデン大統領(ホワイトハウスYouTubeより)

先ごろタリバンがアフガニスタンを容易に制圧できた要因の一つが、アメリカ軍の9月までの撤退だが、この時、判断の妥当性を問われたバイデン大統領が記者会見で述べた以下の言葉が日本の保守層らに鮮烈な印象を与えている。

アメリカ軍はアフガニスタン軍が戦う意思がない戦争で戦うべきではないし、死ぬべきでない

バイデン発言は、自国の領土を守るのは「まず自分たちから」というのが“グローバルスタンダード”であることを改めて示した形だ。日本では自国の安全保障について保守側ばかり熱心で、リベラル側はときに嫌悪する者すら存在する。党派性に囚われて“戦う”前から分断したままでは中国側の思う壷となりかねない。

 

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