なぜ中国海軍はこの夏、日本周辺で執拗に示威行動に出たのか、どう対処すべきか

「台湾有事関与なら日本攻撃」を誇示?日本の対抗策は?
元航空自衛隊情報幹部
  • 8月中旬以降、日本周辺で中国軍艦の示威行動や航空機の偵察が活発に行われた背景
  • 「日本海と太平洋で2正面同時展開」…一連の動きで日本に何を誇示したのか
  • 最新で最大の攻撃型無人機も参加。米英などの多国間訓練に日本参加への反発か

8月中旬以降、日本海や東シナ海及び太平洋のわが国周辺において、中国海軍の艦艇群による示威行動や航空機による偵察活動などが活発に行われた。防衛省の発表などから中国軍による一連の行動を時系列で追うと、次のようなものであった。

〇日本海における艦艇群の活動

まず、8月14日、わが国周辺海域への事前偵察と思われる中国海軍ジャンダオ級小型フリゲート「FFG-649:1,500トン級」1隻が対馬海峡を北上して日本海に入域した。表面には一切出ていないが、この艦艇と連携して艦艇群の入域前に日本海の経路上で潜水艦が偵察活動を行っていた可能性も考えられる。

8/14対馬海域を通過したジャンダオ級小型フリゲート(防衛省プレスリリース

この後22日には、わが国に対するプレゼンス(示威行動)を行うための本隊と思しき同海軍のレンハイ級ミサイル巡洋艦「CG-101: 13,000トン級」、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦「DDG-119:7,500トン級」及びフチ級補給艦「AOR-903:23,000トン級」、計3隻の艦艇群が対馬海峡を北上して日本海に入域した。このレンハイ級巡洋艦には、ヘリ1機の搭載も確認された。

〇東シナ海及び太平洋における艦艇群の活動

次に、この日本海での活動に合わせるように、わが国の南西方面において別の艦艇群が活動を始めた。

8月24日、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦「DDG-156:7,500トン級」、ルーヤンⅡ級ミサイル駆逐艦「DDG-151:7,000トン級」及びジャンカイⅡ級フリゲート「FFG-548:4,000トン級」の計3隻が、沖縄・宮古島間の海峡を南下して沖縄南方の太平洋海域へ進出した。

〇航空機による東シナ海及び太平洋での動き

この東シナ海での艦艇群の動きに合わせるように、航空機による活動が始まった。

8月24日、太平洋進出前の点検飛行を兼ねた偵察と見られる中国軍の新型(偵察・攻撃型)無人機TB-001が、東シナ海を飛行した。翌25日には、Y-9電波情報収集機、Y-9対潜哨戒機及び(偵察型)無人機BZK-005の計3機が東シナ海から沖縄・宮古島間を抜けて沖縄南方の太平洋上空で威力偵察(示威行動を行うことによって相手の出方などを探る活動)を兼ねた情報収集活動を実施した。

Y-9情報収集機(防衛省プレスリリースより)

8/25の中国軍機の行動概要

防衛省プレスリリースより

その翌26日には、25日と同じ機体のY-9電波情報収集機、Y-9対潜哨戒機及び(25日とは異なる偵察・攻撃型)無人機TB-001が25日と同様の経路で太平洋へ進出し、沖縄南方の海域で25日と同様の活動を行った。

これらの活動で特筆すべき点

〇中国海軍最大の戦闘艦「南昌」

まず、日本海の艦艇群の中の中国海軍最大の戦闘艦艇であるレンハイ級ミサイル巡洋艦「南昌(なんしょう):CG-101/13,000トン級」の存在である。

レンハイ級ミサイル巡洋艦「南昌」(防衛省資料より、元資料は「駆逐艦」)

この「南昌」は、レンハイ級の一番艦で、中国海軍はこれを「055型駆逐艦」と呼称しているが、満載排水量13,000トンという大きさとルーヤンⅢ(大型駆逐艦)の倍近い112基もの垂直(ミサイル)発射装置(VLS)を搭載し、長射程の対地巡航ミサイルなども発射できることから、米軍を始めとするNATOはその艦級を中国初の「ミサイル巡洋艦(CG)」と位置付けている。これがわが国周辺で活動すれば、わが国に対してもそれなりの威圧行動となり得ることは言うまでもない。

〇日本海と太平洋という2正面同時プレゼンス

今回、上記の日本海における活動と並行して、大型ミサイル駆逐艦ルーヤンⅢ「DDG-156:7,500トン級」を中心とする3隻の戦闘艦艇群が沖縄南方の太平洋で活動した。これは、中国海軍が日本海と太平洋の2正面で同時に作戦が可能であるということを誇示したものと考えられる。すなわち、台湾有事の際に東シナ海や太平洋で自衛隊が関与すれば、中国海軍は日本海から日本を攻撃することが可能だという意思表示であろう。

〇中国最新で最大の攻撃型無人機による活動

25日から2日間にわたって、対潜哨戒機や電波情報収集機とともに沖縄南方で活動したTB-001「NATOコードネーム:スコーピオン/TW328」は、四川省に所在するテンゴエン・テクノロジー(Tengoen・Technology)という中国企業が開発し、2019年3月に試験飛行が成功したと伝えられた(中国で最大の)無人機である。

TB-001(防衛省プレスリリースより)

同社の(初期段階の)発表によると、最大離陸重量2.8トン、総翼幅は20m、長さは10m、高さは3.3m、巡航高度8,000m(約26,000ft)で航続距離6,000㎞、ペイロード(最大積載量)は1トン、電池寿命35時間とされている。このペイロードは、さらに付加を大きくするよう改良されているという話も伝えられており、テスト飛行時には3種類8発のミサイル及び誘導爆弾を搭載した写真も公開された。この無人機が量産されるとなると、わが国にはかなり脅威度の高い存在となる。まさに、これが沖縄まで十分活動範囲に含まれるということを示威したのであろう。

多国間の大規模訓練に反発か

前述したこれら一連の中国軍の活動は、明らかに、米軍が主催して英軍及びオランダ軍が参加した大規模広域訓練「LSGE21(Large-Scale Global Exercise 2021)に自衛隊が参加したことに対する反発である。

特に今回米国は、米海軍の強襲揚陸艦「アメリカ:LHA-6/50,000トン級」及びこの搭載航空機F-35Bやドック型揚陸艦など空母打撃群に匹敵する戦力を投入し、英海軍からは空母「クイーン・エリザベス:R-08/67,000トン級」及びこの搭載航空機F-35Bなどが参加した。そして、わが国は陸・海・空自衛隊からそれぞれの精鋭部隊が参加し、特に海上自衛隊最大の航空機搭載護衛艦「いせ」においては、米軍のオスプレイ「MV-22B」を着艦させるなどの訓練が行われた。

LSGE21に参加した各国軍艦(防衛省プレスリリースより)

これらは、中国を刺激するには十分すぎる規模及び内容であり、かなり脅威を感じたことは間違いないだろう。この共同訓練に対して、中国外務省は25日の記者会見で、「国家間の軍事協力は地域の平和と安定を損なってはならず、第3国の利益を損なってはならない」と述べて強くこれを非難していた。

一方、中国共産党の機関紙「環球時報」の国際版(24日付)では、日本海での中国艦艇群の行動に触れた上で、(8月15日に岸防衛大臣などが靖国神社を訪問したことに反発して)「中国軍の能力誇示は、日本の右翼勢力と軍国主義者を抑止する警告として役立つ」などと述べていたが、これはあくまで副次的な効果を狙って言ったものであろう。

今回、このような形で中国軍が精一杯見栄を張って最新鋭の艦艇や無人機などを投入し、この訓練への偵察や情報収集を執拗に行ったことで、あらためてこのような多国間が連携した中国に対する軍事的けん制がいかに効果的であるかということが証明された。間違っても、わが国の政治家は、このような中国軍による示威行動に腰が引けることがないよう、さらに多国間との軍事的連携を強化させることこそが、中国の武断的手法による領土拡大という野心を挫き、東アジア地域の平和と安定につながるのだということを肝に銘じていただきたい。

 

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