緊急事態宣言解除へ 「出口戦略」はどうなる?
「ワクチン・検査パッケージ」と「第6波」への備え- 緊急事態宣言解除へ、政府の分科会が考える「出口戦略」とは?
- ワクチン接種、検査の陰性を証明する「ワクチン・検査パッケージ」とは
- 飲食店対策は?第6波への備えは?浮き彫りの課題にどう臨む
政府は27日、全地域の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を30日で全解除する方針を固め、28日の分科会に諮って正式決定した。分科会は、「基本的な感染対策の継続」「学校や職場のワクチン接種率を上げる」「慎重で段階的な宣言解除」「医療提供体制の強化」「感染拡大の予兆があれば機動的に対策」を条件に解除を了承した 。
全国で感染者数は急激に減少し、重症者も減少傾向にある。第5波では、感染者数の上昇が著明で、重症者数の上昇で医療逼迫が問題になった一方で、死者は第3、4波よりも少なく抑えられた(下記グラフ参照)。解除により、飲食店は酒類提供が可能になり、大規模イベントにも1か月の経過期間をおいて収容定員の50%まで、最大1万人までの開催が可能になった。

「ワクチン・検査パッケージ」尾身会長がインスタライブ
医療逼迫の状況を重視してきた尾身会長は、出口戦略に対する議論を、若者を含めた国民が広く議論するため、 9月18日に、自身の開設したインスタグラムで、インスタライブを開いた(動画は下記)。
ワクチンの接種証明や、検査の陰性証明で、大規模イベントや県をまたいだ移動などを許可しようとする案に関して、広く意見を募った。「ワクチン・検査パッケージ」は、「ワクチンパスポート」の名前で呼ばれたこともあったが、分科会は「ワクチンパスポート」の名称は、差別や分断を引き起こす可能性があるので使用すべきではないとしているとのことだ。
では、分科会は、ワクチン・検査パッケージ活用をどのように考えているのだろうか。9月3日の分科会の資料によると、基本的な考え方としては、
「ワクチン・検査パッケージを適用するとしても、マスク着用などの基本的対策は続行する必要がある」
「感染リスクが高い場面・活動や、クラスターが発生した際のインパクトが大きい場面に適応すべき」
としている。
同資料では、インパクトの大きい例として、
「医療施設や高齢者施設、障害者施設への入院・入所および入院患者・施設利用者との面会」
「医療や介護、福祉関係等の職場への出勤」「県境を越える出張や旅行」
「全国から人が集まるような大規模イベント」
「感染拡大時に自粛してきた大学の対面授業」
などをあげている。
また、尾身会長のインスタライブで示された、活用を検討できる場面や、使用すべきでない場面は以下の通りだ。
【活用できそうな場面の例】
- 県境を超える出張や旅行
- 全国から人が集まるような大規模イベント など
【活用すべきでない場面】
- 修学旅行や入学試験
- 選挙、投票
- リスクが低い場所で、提示した者に限った入場、提示しない者への法外な料金請求
また、尾身会長は、同ライブの中で、こういった措置に対しては「民間主導が望ましい」としている。早速、プロ野球やJリーグが取り組む意思を示している。
飲食店はどうなる?現状は「正直者がバカを見る」
一般の方の日常的な活動として、もっとも気になるもののひとつに飲食店があるだろう。飲食店は、緊急事態宣言の間に、営業時間短縮や酒類提供の禁止など、長期にわたり経営にダメージを受け、売り上げが9割減ったという店も少なくはない。

なお、尾身会長は、9月8日の分科会の会見にて、「飲食店に関してはどうするのか」という記者の質問に、「ワクチン・検査パッケージの活用や、感染対策をしっかりやっている店の認証システム」という案を挙げたが(参考:ANNニュース)、28日に政府は、緊急事態宣言を解除するに当たって、認証を受けた店は酒類提供が可能で、午後9時までの営業(認証を受けていない店は午後8時までの営業)を基本とする方針を示した(詳細および運用は各自治体に任される)。
長期にわたって自粛を強いられているのは、飲食店ばかりではなく国民も同じだ。最近では、自粛疲れをした国民が、街に出かけて人流が増えているとともに、酒類を提供したり自粛を守っていない飲食店が混み合い、過去最高益を記録するなどしている。
現状では、自粛を守っている店が倒産の危機に瀕し、そうではない店が最高益をあげている、「正直者がバカを見る」状態にあり、長期的に、一部の人にしわ寄せがいっている。これから第6波を迎える可能性があることを考えれば、こういった不公平な状態は是正されるべきであろう。公平に責任を分かち合うひとつの方法として、ワクチンや検査の証明は活用できるのではないかと筆者は考える。ただ、あまり迅速に導入されないようであれば、導入前に国民の活動が活発になり、タイミングを逃す可能性もあり、また、第6波が到来したときに、経済活動と両立する手段としての導入が図られるかもしれない。
また、政府は、検査キットとしては、PCR検査のほか、15分程度で結果が出る抗原検査も活用する方針のようだ。抗原検査キットに関しては、だれが判定するのかや、判定の精度にも課題があるが、厚労省は、27日付で、自治体に対し、特例で薬局での販売を認める通知を出した。
「ワクチン・検査パッケージ」適用でも感染対策は必要
そもそも、「ワクチン・検査パッケージ」は、「医学的に感染していない」ことを示すものではないということに注意が必要だ。医学的な意味では、100%の感度があるわけではないPCR検査や抗原検査で、「感染の否定」は困難だ。ワクチンに関しても、2回接種完了後の感染、いわゆるブレイクスルー感染が報告されている(なお、これに関しては、政府は3回目の接種を行う方針を出している)。あくまで、社会生活を行う上で、感染者を少なくコントロールしていくという趣旨のものである。
昨年の4月、国内流行が始まった初期に、コロナ専門家有志の会は、「新型コロナの陰性証明はできません!」という声明をnoteで出しているが、これは、検査・隔離体制の十分になかった頃の日本で、医学的な感染予防の観点から出されたものであり、ワクチンも普及し、検査体制の拡充された現在、経済・社会活動の両立を目的として行われるワクチン証明・検査陰性証明とは性質が異なっている。
「ワクチン・検査パッケージ」が適用されたら、それでマスクや手指消毒などが必要なくなるわけではなく、引き続き行うことで、個々の感染リスクを減らす必要がある。今後、どんな変異株が流行するかもまだ未知であり、今はまだ油断ができない状況といえる。

第6波に備えて
第5波が収束し、第6波が来るかはまだわからないが、通常、呼吸器感染症は冬に感染性が高まり、流行するため、可能性は十分にあるといえるだろう。また、一般的に心筋梗塞や脳梗塞などの急性期疾患は冬に多く、コロナがなくても、冬は病院の繁忙期であり、これにコロナの流行が加わると、再び医療逼迫が起こる可能性がある。
「日本はなぜ患者が欧米に比べ少ないのに医療逼迫するのか」という声もあるが、欧米でも全ての患者が入院治療を受けられているわけでは全くなく、そもそも平時の医療体制が日本ほどは手厚くはない。非常時においても「安く、いつでも」医療が受けられるのは、非常に驚異的なことなのだが、日本の医療に慣れた国民の理解はなかなか得られそうもない。
ただ、ひとつ課題があるといえるのは、日本の医療は集約型ではなく、中小病院に病床や人員が分散していることで、これはコロナ禍の診療において非効率であるということだ。
例えば、補助金が問題になった、尾身会長が理事長をつとめるJCHO(地域医療機能推進機構)の病院でも、300床程度の中規模病院が多く、現代の高度に専門家された医療は難しい上に、夜勤や当直の面でも人員確保が問題となる。古い施設も多く、感染症治療には、動線の面で問題があることも多い。
そういった意味で、中規模病院での人員確保ではなく、大きな病院をコロナ専門にしたり、プレハブ病院など、野戦病院的な施設に多くの患者を集約することが効率的ではないだろうか。
また、第6波に備えて個人にできることは、ワクチンを接種し、マスクや手洗いなどの基本的な感染対策を続けることだろう。また、接種証明にマイナンバーカードが必要とされる方針でもあるので、マイナンバーカードがない人は作っておくとよいかもしれない。
■
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