岸田首相に“日本再設計”直言!猪瀬直樹氏、松田公太氏ら「民間臨調」発足の狙いは?
「環境を成長のバネに」記者会見どう見たか作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏、タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏らの有識者が22日、規制改革や気候変動シフト、DXなどを政策提言する民間臨調「モデルチェンジ日本」を設立したことを明らかにした。同日には岸田首相と会談し、気候変動対策担当の首相補佐官を設置することを提言した。
会談後に記者会見した猪瀬氏は「政府にはたくさんの会議があるが故に、既得権益者がたくさん入っている」と指摘。「我々国民レベルで叡智を結集して民間臨調として新しい解決策、民間の活力、知力、新しい道筋を示して行きたい」と抱負を語り、在野から提言を行う狙いを語った。臨調が改革の「一丁目一番地」に据えるのが「脱炭素」。「日本は環境がコストだと思っているが、これは成長のバネだ」と強調。松田氏も、自動車業界で米テスラなどEV勢の時価総額が既存プレイヤーを凌駕していることを挙げ、「時価総額が全てではないが、マーケットは正しい方向に転がっていく。日本は全ての世界で遅れをとっている」と危機感をあらわにした。
この日、岸田首相にも申し入れた提言は、先に閉幕したCOP26(第26回気候変動枠組み条約締約国会議)を受けての政策課題に位置づけたもので、「気候変動への政策対応をバージョンアップし、日本の立ち位置を変える」「これまでの対応の延長戦では、日本のさらなる衰退を招きかねない」などと主張した上で、英政府が2008年に諮問機関として設置した気候変動委員会の日本版創設による戦略策定や、脱炭素に対して「時間稼ぎ」ではなく世界をリードする側へのシフト、再生可能エネルギー推進に必要な各種の規制改革などを必要な施策として挙げた。
記者会見には猪瀬氏、松田氏のほかに、慶應大学の中室牧子、安宅和人両教授、村上誠典シニフィアン共同代表、瀬尾傑スマートニュースメディア研究所所長、羽生田慶介・オウルズコンサルティンググループCEOが参加。事務局として原英史・政策工房社長が出席した。
【視点】多角的に国益追求を
奇しくも今春、サキシル創刊記念特集で筆者とそれぞれ対談した猪瀬氏、松田氏が記者会見で席を並べる形になったが、この民間臨調はもし現在も菅政権が続いていれば発足することはなかったはずだ。岸田政権が、菅政権ほど行政改革、規制改革、脱炭素に熱心ではないとの疑念がつきまとう中で、猪瀬氏ら関係者の危機感を募らせるあまり動き出したようだ。
この日の会見に急きょ参加できなかったが、猪瀬氏がコメントを代読した冨山和彦・経営共創基盤グループ会長が「GXとDXを相乗的に、中核的課題に位置付けていただきたい」と述べたことが臨調の特徴を物語っている。GX(グリーントランスフォーメーション)とは「環境に配慮した先端技術を使い、産業構造を変革する取り組み」(臨調提言資料)。猪瀬氏も「環境を一点突破、全面展開にする」と述べたように、気候変動対応を主眼に規制改革もDXも一気に進めてしまう腹づもりだ。洋上風力発電推進の足枷となっている漁業権の調整や、送電網整備などを求めているあたりポジションが明確と言える。
一方で、原発については「廃棄物処理や廃炉などの課題を先送りせず、解決のための制度整備と決断を行うべき」としている。露骨に反原発的な文脈ではないものの、メンバーには以前から「脱原発」を公言する人も多いので基本的な方向性としては固まっていると推察できる(※追記あり)。規制改革路線からの後退懸念は筆者も強く共有するものだが、直近では電気料金の高騰や電力供給の不安定化への懸念が現実的に根強い。それらは個人の家計だけでなく産業基盤にも直撃する話だ。
原発は原発で次世代の小型炉開発などのイノベーションが世界的に進んでおり、フランスではむしろ脱炭素の切り札としてマクロン大統領が今月に入り、原発建設の再開を表明した。翻って日本では、すでに10年以上、原発をほとんど動かしていない。現場では「20代の技術者は本番での運転を経験したことがない」(電力会社関係者)と、技術の継承への不安すら濃くなっている。これも全て原発から逃げてきた安倍政権の責任が重大だが、筆者個人としては再エネも原発も総合的に新しい取り組みをやっていくことこそ、日本の国情に適していると考える。
とはいえ、日本が世界的にはGXの潮流に対してガラパゴス路線で対抗できない現実も厳然とある。日本経済「最後の砦」となる自動車産業では、すでにEVシフトがめざましく、日本国内で科学的にそれが正しいかどうかを論争している間に、世界のマーケットを他国に席巻されてしまえば、その時こそ日本経済はゲームセットを迎える。この手の政治的な議論に当たっては、少なくとも「脱原発は左翼の主張」という一昔前のバイアスから脱却する段階ではあろう。世界のあらゆる動きに目を光らせながら、日本のモデルチェンジと国益を多角的に追求する方向性につなげていただきたい。
【追記:9:30】事務局の原英史氏から筆者の視点部分で指摘した原発について、民間臨調では「『反原発』は全く含意していません。逆に「原発推進」を含意してもいません」との申し入れがあったので追記します。
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