水素社会は本当に来るの?次世代エネルギーで注目される3つの理由
坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第18回- 次世代エネルギーとして注目される「水素」について解説
- なぜ日本は水素社会の実現に向けて動き始めたのか?
- そもそもなぜ水素なのか?3つの理由のうち前編で2つご紹介
福島県浪江町に「定置式水素ステーション」が整備されることが発表されました。今年の12月完成を目指しているとのこと。世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」のある福島で、水素社会の実現に向け、また一歩動き始めました。
水素社会は本当に来るのでしょうか。そもそもなぜ、水素なのでしょうか。今回は前編をお送りします。

水素は日本を救う?
日本は、世界中が注目する東京2020五輪を「困難をきわめていた水素エネルギーの普及を前進させる大きなチャンス」と捉え、着々と進めてきました。2017年、「水素基本戦略」を決定。同年、東京都内を燃料電池バスが走り始めました。そして「オリンピック開催までに燃料電池バス100台、燃料電池車6000台の普及」という目標をインフラ面から後押しするため、東京ガスは2020年1月、豊洲に「東京ガス豊洲水素ステーション」を開所。
また、東京都は「選手村地区エネルギー整備計画」を策定。五輪の選手村に供給するエネルギーは、福島県で再生可能エネルギーから製造された水素を使用し、大会終了後には水素を活用した街にすること。そして開会式で聖火をともす燃料に五輪史上初の水素を利用することなどを決定しました。
しかしなぜ、日本は水素社会の実現に向けて動き始めたのでしょうか。
その理由として、日本は1次エネルギーの90%以上を海外から輸入する化石燃料に頼っており、エネルギーを安定的に確保することが大きな課題であること。それに加え、次世代のエネルギーは「二酸化炭素をできるだけ出さないエネルギー」であることが必要です。
「エネルギー安全保障の確保」と「二酸化炭素の削減」。これらを共に解消できる、日本にとって究極のエネルギーは一体何なのか…。その答えが「水素エネルギー」だったのです。
なぜ水素なのか
水素の元素記号は「H」。自然界には水(化学式H2O)やメタンガス(化学式CH4)など、違う元素と結合した形でたくさん存在しており、宇宙の質量の4分の3を占めると言われるくらいに豊富な元素です。
しかし、水素エネルギーに使う水素は、水素原子が2つ結合した化学式H2で表される地球上で最も軽い気体で、自然界にはほとんど存在しておらず、空気中にはたった0.00005%!しかありません。

ではなぜ、自然界にほとんど存在しない水素H2が、次世代エネルギーとして注目されたのでしょうか。これには大きな理由が3つあります。
まず1つ目は「燃料にしても二酸化炭素が発生しない」です。燃焼させて二酸化炭素が発生するのは、化学式の中に炭素(元素記号C)が入っている物質です。先ほどのメタン(CH4)がその例です。
それに対して、水素H2には炭素原子が含まれていないため、燃焼させてエネルギーを取り出す過程で二酸化炭素が発生しません。なんと、生成するのは水だけ!水素の製造法によっては、その過程で二酸化炭素が発生してしまいますが、それを解決できれば、水素H2はこれ以上ないクリーンなエネルギーなのです。
いくつ言える?水素の製法
水素H2が注目された2つ目の理由は「様々な資源から作ることができる」です。先述の通り水素H2は「違う元素と結合した形で自然界にたくさん存在する」ため、水(H2O)やメタン(CH4)などの水素原子を含む様々な物質から作ることが可能なのです。
例えば、水(H2O)の電気分解。水を電気分解すると、陽極から酸素、陰極から水素H2が発生します。この方法は、実際に相模原水素ステーションなどで利用されています。

しかし、この水の電気分解。電気分解というだけあって、電気を使用します。この電気を、化石燃料由来から再生可能エネルギー由来(太陽光や風力)のものに変えていく取り組みが進んでいます。例えば冒頭で登場した福島県のFH2Rでは太陽光発電の電力を用いて水素H2を製造し、貯蔵、供給しています。
電気分解以外にも、副生水素の利用があります。副生水素とは、工業プロセスの副産物として生成する水素H2のことです。例えば苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の製造過程で発生する水素H2は純度が高く、液体水素や圧縮水素として、すでに外販されています。
また、製鉄所からの副生水素も利用されています。例えば北九州水素タウンでは、新日本製鉄八幡製鉄所で発生する副生水素を利用し、水素ステーションや住宅などに供給する実証実験が行われています。

これら副生水素の利用は、本来の目的となる製品(苛性ソーダや鉄)の生産量に左右されるため供給量が安定とは言えませんが、副産物を活用するため、何と言っても経済的!使わない理由はないですよね。
そして次に、「化石燃料からの製造」です。これにはいくつかの方法がありますが、天然ガスやナフサなどの化石燃料(全て化学式にHが含まれます)を高温下で水蒸気と反応させる方法が現在の主流です。この方法は、短時間に大量かつ低コストで製造可能。さらにエネルギー効率も高く、工業的に確立しているため、技術的な課題はほとんどありません。実際に千住水素ステーションや羽田水素ステーションなどで利用されています。
しかし、この方法は、枯渇していく化石燃料を使っていること。そして製造過程で二酸化炭素が排出されてしまうことから、本来の水素社会の目的には合いません。排出される二酸化炭素を回収・貯留する技術なども進んでいますが、化石燃料を使うことには変わりはなく、別のクリーンな方法が確立されるまでの「つなぎ」の方法となるでしょう。
これ以外にも、「メタノールやエタノールなどのアルコールから作る方法」「下水汚泥を利用する方法」「廃プラスチックを利用する方法」など様々な方法の研究が進んでいます。
後編はこちらです。
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【編集部からおしらせ】坂田薫さんのサキシルでの本連載が書籍化されました。連載記事も大幅に加筆、書籍オリジナル記事も多数収録しています。
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