脱サラして“職人”として食べていくには?朝日新聞を40歳で辞めた筆者の体験的アドバイス

独立するか悩む30、40代へ、一歩踏み出すためのポイント
ジャーナリスト
  • 組織で働く30代や40代で独立するか悩む人へ筆者のアドバイス
  • 18年前、40歳で朝日新聞退社後、筆者はなぜ食いっぱぐれないか
  • 「報酬はカネだけではない」「独立の最終判断は家族に相談しない」など

企業や役所などの組織で働く30代や40代の若手中堅の中には、独立を考えているが、辞めても食っていけるかどうか分からないので決断できない人もいるだろう。

そこで、サラリーマンが独立して一人で職人的に生きていくために必要な考え方について語っていきたい。本稿のポイントは「若手中堅で、1人で職人的」という点と、「考え方」という点にある。

takasuu /iStock

最初に断っておくと、特段「芸」もないのにただ組織に不満があって辞めたいだけの人や、定年退職まで務めた後に生き生きとした余生を、と考えているような人には参考にならないかもしれない。また、業種によってハウツーは変わると思うので、共通すると見られる姿勢や考え方について述べる。

報酬はカネだけではない

筆者は18年前、40歳の時に朝日新聞社を退社し、どこにも雇われていないフリーの経済ジャーナリストに転じた。当時はまだ40代で大新聞を円満退社してフリーになること自体が非常に珍しい時代だったし、世間も「あの人はきっと後悔すると」という見方が支配的だった。それでも、これまで食いっぱぐれることなく、自分の専門性を生かした仕事による原稿料や講演料、出演料といった稼ぎだけでやっていくことができている。そうした経験を踏まえての論考である。

独立を考えている人、あるいは将来の独立を意識して専門性を磨こうとしている人に対し、まずアドバイスしたいことが、「報酬はカネだけではない」という点だ。仕事を通じて得た人とのつながり(人脈)や人としての成長も立派な「報酬」であるということを意識しておくべきだろう。

もちろんカネは糧として重要ではあるが、その糧を得ていくためにさらに重要なものが人脈人としての成長という意味である。

人脈から得られるものは、自分にない視点、その視点から導き出される知的な刺激などだ。それらが仕事につながるものだ。有効な人脈ほど、安易に参加できる勉強会などで得られるものではない。仕事にとって有意な人脈とは、仕事を通じた摩擦の中からしか生まれないと思っている。摩擦とは喧嘩ではなく、お互いが主張し合って、どう落としどころを付けていくかのプロセスだ。「真剣勝負」をした相手と言えるかもしれない。その相手は社外の顧客かもしれないし、社内の同僚や上司かもしれない。

そうしたプロセスを通じて初めて有意な人脈ができるのではないかと思う。だから独立したい人は、組織にいる間に、自分が傷ついてもいいから「真剣勝負」を多く経験しておいた方がいい

筆者の感覚では、有能な人ほど健全な摩擦や「真剣勝負」を好む傾向にある。そうした相手との「対決」を経験することで、相手の視点や技を学んでいくのである。同時にそれらを学ぶということは、相手の立場になって考えるということにもつながる。この積み重ねが人間性の進歩にもなる。

会社員時代から「真剣勝負」を!(bee32/iStock)

なぜ独立を家族に相談してはダメか

では独立後にこれまで培ってきた人脈が引き続き生かせるのかと言えば、答えはイエスでもあり、ノーでもある。組織の後ろ盾や肩書がなくなれば、これまで付き合ってくれて人は逃げていく、と考えておいた方がいいかもしれない。独立後に開拓するビジネスを通じた新たな摩擦と「真剣勝負」で新たな人脈を構築しておこうというくらいの覚悟が重要だろう。

筆者の場合は朝日新聞時代の人脈の多くは消えたが、残ったのは、記憶に残るような「真剣勝負」をした人たちだった。この点から言えることは、人脈とは単なる「お友達」ではないということだ。

続いて独立の前に重要なこととして、独立すべきかどうかの最終的な判断を親しい友人や妻や父母といった家族にも相談しない方がいい点が挙げられる。その理由は、決断と覚悟が鈍るからである。特に比較的待遇が良い大きな組織に勤務している場合にそのことが言える。

身近な人ほど安定した地位を捨てることに対しては、慎重になるべきとのアドバイスをくれる傾向があり、それによって判断が鈍るからだ。それと転身が成功するかどうかは、すべて自己責任であると覚悟する上でも、自分の心の声を素直に聞き、自分だけで判断するのがいい。

売上とキャッシュフローが重要

次に独立してから重要になる点だ。先述した「報酬はカネだけではない」という話と矛盾するではないかと受け止める人もいるだろうが、一番意識しておくことは売上とキャッシュフローだ。

多少の貯えがあっても、独立すると定期的に給料が入ってこないので、一気に目減りする。特に初年度は前年所得に対して税金と社会保険料を払わなければならないことは留意しておく必要がある。たとえば、会社員時代の健康保険料は労使折半だが、独立すると全額自己負担になるので、一気に2倍になる。

売上とキャッシュフローを確保するためには、まず営業活動を優先させたい。1人で独立する場合には、見栄えを意識して会社を作ることや事務所を借りることを優先的にやらなくてもいい。

CreativaImages /iStock

もちろん業種にもよるが、ジャーナリストやコンサルタントなど大きな設備投資がほとんど不要で、ベンチャーキャピタルなどから投資を受けないような職種では、まずは個人事業主として開業し、自宅の一部を仕事部屋にする程度でいいだろう。事務所の運営にかかる経費を節約できる点にメリットがある。

会社設立や事務所にかけるお金があるのであれば、それを顧客開拓のためのコストに用いた方がいい。仕事が順調に拡大し、人を雇ったり、スペースが足りなくなったりした時に、法人化や事務所の開設を行えばいい気がする。

ざっくりした言い方になるが、日本の税率などを鑑みて、個人事業主で売上高が3000万円を超えるくらいが法人にするかしないかの境界線ではないかと思われる。ただ、独立後に主要な取引先が法人にしないと取引しづらいと言ってくるケースもあるので、その場合は法人化をすべきだろう。

人生は自分の手でしか開けない

独立が成功するかどうかは、自助努力による自己責任が全てだと受け止め、独立後に自分の選んだ道を後悔しないことも重要だ。さらに言えば、他人の成功を妬んでもいけない。それはなぜかと言えば、そんなことをしていると自分の覚悟と志が揺れ、ビジネスに好影響を与えることは決してないからだ。

筆者が好きな本に『自助論』(三笠書房)がある。これは、英国人の著述家が書き、明治時代の初めに日本でも『西国立志編』と訳されて出版されたもので、当時、100万部のベストセラーになったと言われる。

その冒頭部分には「人生は自分の手でしか開けない」といったことが書かれている。そして、訳者の竹内均・東京大学名誉教授はこう解説している。

この本の原題ともなっている自助とは、勤勉に働いて、自分で自分の運命を切り拓くことである。つまり、他人や国を頼らないことである。これを現代流に言えば、自己実現ということになるだろう。

ただし私の理解では、自己実現とは①自分の好きなことをやって、②十分に食うことができ、③のみならずその結果が他人によって高く評価されることである。そしてその方法としては勤勉・正直・感謝以外にないというのが私の持論である。

当たり前の指摘のように見えて、実はこれが難しいのである。と同時に独立で成功して自己実現を達成するために安易なノウハウなどは存在しないと考えるべきなのかもしれない。

【編集部より】今回のテーマに関連し、井上久男さんが2016年に書き下ろした書籍です。

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