「光触媒」がコロナ禍で活躍しているワケ:そもそも光触媒って?

坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第4回
化学講師
  • コロナ禍で脚光を浴びる日本発の技術「光触媒」とは一体どんなものか?
  • 日本人博士が発見した「酸化チタン」。水やウイルス、細菌も分解する
  • 酸化チタンをコーティングした屋根はなぜ「お掃除不要」なのか?
angelacolac/iStock

『光触媒コーティング済』。みなさんはコロナ禍、この文字を何度も見かけたのではないでしょうか。仕事帰りのタクシーの中で、行きつけの美容院で、はたまた家族で出かけたレストランで。

このように、みなさんの周りですでに大活躍の光触媒ですが、「三次喫煙」や「人類が抱えている諸問題」を解決できる救世主かもしれない!と、さらなる研究が進められています。そんな大きな可能性を秘めている日本発の技術「光触媒」。一体それはどんなものなのか。一緒にその世界を覗いてみましょう。

(前後編2回。前編は光触媒の基本を学びます)

光触媒と酸化チタン

化学反応には「進みやすい反応」と「進みにくい反応」があります。進みにくい反応を促進させるには、通常、加熱したり、「触媒」とよばれる物質を加えたりします。触媒とは「反応を進めるお手伝いをしてくれる物質」です。

Dr_Microbe/iStock

そして触媒の中には、光が当たったときだけ働くものがあります。それが「光触媒」です。最も有名な光触媒の反応は、小学校で学ぶ「植物の光合成」。光合成は「水と二酸化炭素から、糖(ブドウ糖)と酸素ができる」という反応ですが、これは進行しにくい反応です。しかし、日光が当たることで植物の葉緑素が触媒として働き、光合成が進行します。葉緑素は天然の光触媒なのです。

この葉緑素と同じように光触媒として働く物質が、1967年(昭和42年)、藤嶋昭博士により発見されました。その名も「酸化チタン」。みなさんは聞いたことありますか?あまり、聞き覚えのない名前かもしれませんね。しかし、この酸化チタン。みなさんの身近なところで、様々な用途で利用されています。

たとえば、「白い」ので絵の具。「硬い」ので歯磨き粉や人工宝石。「無毒」なのでホワイトチョコやケーキなどの食品添加剤。「紫外線を吸収する」ので日焼け止めなどです。日本では、一人当たり年間2kgの酸化チタンを消費しているのだとか。知らないうちにお世話になっている物質だったのですね。

光触媒がウイルスをやっつける!?

酸化チタンに光触媒の働きがあることが発見されたのは「酸化チタンを水の中に入れて紫外線(UV) を当てると、水が分解されて酸素が発生した」ことがきっかけでした。水の分解は進みにくい反応で、自発的に進行するものではありません(通常は電気分解をおこないます)。酸化チタンの光触媒としての働きによって、水が分解されたのです。

そして、酸化チタンが分解するのは水だけではありません。ウイルスや細菌だって分解するのです!コロナ禍で活躍している理由が見えてきましたね。

Viorika/iStock

「そうは言っても、UVが当たらないとダメなら、感染リスクの高い屋内では使えないじゃん!」と思った人はいませんか?どうかご安心を。すでに蛍光灯やLEDの光にも反応する光触媒の研究が進み、実用化されています。病院や空港などで検証試験がおこなわれ、その効果ももちろん確認済み!新型コロナウイルスへの有効性も報告あり!それゆえ『光触媒コーティング済』だったのですね。飲食店のテーブルや椅子、トイレなどを光触媒でコーティングしておけば、室内光が当たることでウイルスをやっつけてくれるのです。

そして先月下旬、東京大学の研究チームにより「新型コロナウイルスを浮遊させた箱の中の空気を、光触媒を使った空気清浄機で20分間、循環させたところ、感染力が99.9%減少した」と発表がありました。これは、「空気中で」ウイルスが不活化されるわけではなく、フィルターが光触媒で「フィルター上」でウイルスが不活化し、その結果、空気中が浄化されるというものです。適切に使えば、頼りになりそうですね。

光触媒のおかげでお掃除不要?

光触媒には、もう一つ、大切な性質があります。それが「超親水性」です。

たとえば、フッ素コーティングされたフライパンの上に水滴を落とすと、水滴は丸く盛り上がってフライパンの上を転がります(撥水性)。それに対し、綺麗に磨かれたガラスの上に水滴を落とすと、水滴は平らに広がっていきます(親水性)。同様に酸化チタンに水滴を落として光を当てると、水滴は非常に薄い膜となって表面に広がっていきます。これが「超親水性」です。

Green Planet/写真AC

東京駅八重洲口にあるグランルーフ。みなさんは見上げたことがありますか?とっても大きくて、真っ白な屋根です。「いつ見ても白いけど、お掃除大変だろうなあ」と余計な心配をしてしまいそうですが、基本的にお掃除は必要ありません。

酸化チタンをコーティングしておくと、太陽光(UV)により「超親水性」になり、空気中の水分が薄い膜となって広がります。そしてその膜に、汚れや菌が付着。汚れの多くは雨が降るだけでも容易に洗い流されますが、酸化チタンには「分解力」もあるため、膜状の汚れや菌を分解してくれるのです。これを「セルフクリーニング効果」といいます。これを活かし、お家の外壁やガラス、標識など広い範囲で利用されています。かなり効果が高いので、一軒家にお住まい方は、外壁の光触媒コーティングを検討されてはいかがでしょうか。きっとお掃除がラクになりますよ。

(次回は光触媒の最先端の研究をお伝えします。お楽しみに!)

 

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