光触媒が「三次喫煙」問題の救世主になる !?
坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第5回- イオンが従業員に出勤45分前からの喫煙禁止で話題の「三次喫煙」について
- 「三次喫煙」はタバコを消した後の残留物から発生。乳幼児やペットが被害
- 対策が困難だったが、近年、光触媒が有効な可能性を示す研究結果も
みなさんは「三次喫煙」という言葉をご存知ですか。今年1月、「イオン従業員 出勤45分前から喫煙禁止に」(日テレニュース24時)というニュースで初めて耳にした方も多かったと思います。以前から、一部病院や役所では三次喫煙対策が取り入れられていましたが、イオン・グループは誰もが知っている企業であったこと、そして対象となる社員が45万人と桁外れに多かったことでインパクトがあり、三次喫煙という言葉が一気に知られることとなりました。
このような喫煙に関する問題は喫煙者を排除するかたちになりがちですが、光触媒のチカラで喫煙者と非喫煙者が快適に過ごす日が来るかもしれません!先週の前編に続き、後編は光触媒の最先端の研究にせまります。

「出勤45分前から喫煙禁止」だけでは防げない!?
喫煙には3つのかたちがあります。まず、喫煙者本人がフィルターを通じて煙を吸い込む「一次喫煙」。喫煙者の周りにいる人がフィルターを通さず煙を吸い込む「二次喫煙」。いわゆる「受動喫煙」ですね。そして、タバコを消した後の残留物から有害物質を吸収する「三次喫煙」です。たばこの煙は家具に付着したり、カーテンや壁紙に染み込んでおり、それを直接触ったり、揮発して空気中に浮遊しているものを吸い込むことで有害物質を体内に取り込んでしまいます。タクシーに乗ったり、カラオケボックスに入った瞬間「たばこ臭いな」と感じたことはありませんか?それがまさに三次喫煙です。
この三次喫煙の問題点は「一番の被害者が乳幼児やペットであること」です。「三次喫煙」という言葉を作った米国立がん研究センターによると、「乳幼児は大人より呼吸数が多く、有害物質を吸い込みやすい」とあります。また、壁や床を触り、その手を口に持っていくことも多いため「乳幼児の原因不明の突然死は三次喫煙が原因ではないか」という指摘も仮説としてあるくらいなのです。
そして、さらなる問題は三次喫煙への対策がほとんどないことです。二次喫煙は「人のいないところで喫煙する」「優秀な空気清浄機を使用する(ちなみに、新幹線の喫煙所には光触媒の空気清浄機が設置されています)」など対策がありますが、三次喫煙への対策は、今のところイオン・グループのように「出社45分前から禁煙」くらいしかありません。これは、喫煙後45分間は呼気に有害物質が含まれているためです。しかし、45分経っても髪の毛や服についている有害物質は消えていないため、根本的な解決にはなりません。「喫煙をやめても、数ヶ月は部屋に有害物質が残る」といわれるほど、通常のお掃除程度で有害物質を完全に取り除くことは難しいのです。

「光触媒でにおいやヤニ分解」
このように問題を抱えた三次喫煙ですが、2020年、落合剛博士により「繊維に光触媒を付着させた不織布や光触媒でコーティングした壁紙に、たばこの煙を十分に吸収させた後、光を照射すると、吸収された煙の『におい』や『ヤニ』が分解された」という研究結果が発表されました。紫外線を24時間照射した後は、ほぼ完全に分解されていたとか。さすが、光触媒の分解力ですね。
だだしこれは、最初から光触媒をつけた布や壁紙での実験なので「あとからコーティングしても有効なのか」「もっと短時間で分解できないか」といった課題を抱えています。それらが解消され、壁紙や服などに利用されれば「喫煙者と非喫煙者がともに快適に過ごす世界」も夢ではありません。
「脱炭素」達成の救世主にも?
光触媒の活躍は、これで終わりではありません。「エネルギー問題や環境問題において光触媒が救世主になるかもしれない」とさらなる期待が寄せられているのです。その理由は、光触媒によって水が分解されると「酸素」と共に「水素」が発生するからです。そうです!「水素エネルギー」です!!次世代エネルギーである水素は、今、「脱炭素」に向けた動きのなかで注目されています。水素を使った燃料電池車も街で見かける機会が増えましたね。
そして、日本が掲げる「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を可能にするのでは、と期待されている技術が「人工光合成」です。植物の光合成は、葉緑素が光触媒として働き「二酸化炭素と水から、糖(有機物)と酸素を作る」というものでしたね。この植物の光合成を、人工的に起こすのが人工光合成で、「化石燃料の利用により排出される二酸化炭素と水から、メタン(有機物)などの有用物質と酸素を合成」します。もちろん、この過程で活躍するのが光触媒です。
経産省によると、光触媒における太陽エネルギー交換効率(太陽エネルギーを使ってどのくらい水から水素を作り出せるか)は、開発当初、植物の光合成と同じくらいの0.2〜0.3%だったのに対し、2021年現在は7.0%まで上昇。2021年度の最終目標である10%まで、あと少しとのこと。人類の抱える問題を解決すべく、研究は確実に進んでいます。
深刻化する様々な問題に対し、残念ながら、わたしたちは便利な生活を手放してまで取り組もうとはしません。便利な生活はそのままに、それら問題を解決してくれるのは科学技術のチカラしかないのです。日本発の光触媒が、そうした大きなチカラになる日がやってくるかもしれません。
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