福原愛さんの親権トラブルは、安倍さんを草葉の陰で悲しませるのではないか

生前、自民党大会に招く親交も
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 福原愛さんと江宏傑さんとの間で親権トラブルが表面化
  • 国境を越えた養育・親権トラブルは日本人が思う以上に深刻
  • 日台関係が重要な時期、安倍さんが悲しむであろう2つの理由

元卓球日本代表のメダリスト、福原愛さんが、前夫で元卓球台湾代表の江宏傑さんとの間で親権トラブルが表面化した。著名人の事案だけに、日本の共同親権を巡る問題に社会的関心が高まる一方、今後の成り行きによっては日本と台湾の国際問題として深刻化する恐れもある。

福原愛さんと江宏傑さん

泥沼化するトラブル

福原さんと江さんは2016年に結婚したが、21年に離婚。単独親権の日本と異なり、台湾は1996年から共同親権を導入している。2人いる子どもの親権は双方が持ち、子どもたちの拠点は台湾に置く形で、日頃の養育は江さんがしていた。昨年7月、面会交流の一環で、福原さんが長男だけを日本に連れ帰ったが、江さん側は夏休みの期間限定のつもりが、連絡が取れなくなったと主張している。

江さんは長男の引き渡しを求め、台湾と日本の家庭裁判所で係争になった。記者会見で、江さん側の代理人、大渕愛子弁護士は、東京家裁が今月20日付で福原さんに対し、長男の引き渡しを命じる保全命令を出し、江さんは強制執行の申し立ても行った。未成年者略取容疑での刑事告訴も視野に入れている。

福原さんが引き渡しに応じず、記者会見での公表に踏み切ったが、福原さん側は猛反発。代理人の声明文では会見前にも「家事事件の内容を公にしないように」とけん制し、会見後には「日本の審判はあくまで一審の裁判であり、事実関係について最終的な判断はされていない」との見解を示し、その上で、

公衆の面前で国際記者会見を開くことは、高度な紛争を引き起こすだけでなく、意図的に両親と子どもの関係を引き裂き、子どもに悲しい思いをさせ、別離を引き起こすものであり、子どもに対する家庭内暴力の一種」とかなり激しい口調で、江さんを非難した。

ただ、保全命令は裁判所の判断が確定する前にも権利を守るもので、福原さん側の物言いに疑問も出ている。

また、子どもの連れ去り事案で保全命令が出たとしても、別居親からは、単独親権制の日本では守られないケースも一般的に少なくないとの指摘が絶えない。さらに台湾はいわゆるハーグ条約(国際的な子どもの奪取についての民事上の側面に関する条約)を批准できておらず、台湾が共同親権を採っていても、単独親権の日本に連れ帰ってしまうと引き渡しが難航する構造にある。

NiseriN/iStock

日本人が思う以上に深刻な国際問題

国境を越えた子どもの養育や親権を巡るトラブルは、日本国内で思われている以上に国際問題として深刻だ。やや古い話だが、2000年代後半には、フランス人の父親とロシア人の母親の間が3歳の娘を互いの国に連れ去ったことで双方に逮捕状が出て外交問題になったこともある。

日本人女性が子どもを連れ去る事案についても国際社会の反発が強い。EU議会が日本に対し「子の連れ去りに関する国際的なルールを遵守していないように見受けられる」と非難決議をし、現地で日本を大々的にバッシングする報道もあった。今年3月には駐日オーストラリア大使が斎藤法相を訪れ、単独親権の家族法の改正を要請した(関連記事)。

いずれにせよ、福原さんと江さんの対立が長引いた場合、特に子どもを連れ去られた江さんの“母国”台湾側の国民感情が悪化する可能性が高い。台湾の大手メディア「自由時報」のサイトを検索すると、福原さんを辛辣に批判した論調の記事がすでにいくつも表示されている。

安倍さんが悲しむ2つの理由

福原さんや江さんたちは政治問題化を避けたいはずだが、日本と台湾は極めて重要な時期になっている。言うまでもなく中国側の軍事的圧力が強まっており、アメリカのペロシ下院議長(当時)が訪台した昨年8月には、中国側が報復措置として台湾周辺海域に弾道ミサイルを多数発射した。日本と台湾の間で心理的な距離が離れれば離れるほど、当然中国の思うツボだ。

2016年10月、リオ五輪選手団らへの感謝状授与式で交流する安倍さんと福原さん(官邸サイト)

ペロシ氏の訪台直前、日本で凶弾にたおれたのが安倍晋三元首相だった。晩年は「台湾有事は日本有事」と公言し、台湾情勢の緊迫化と日本がそこに巻き込まれるリスクを強く懸念していた。あまり亡くなった方の名前を持ち出すのは望ましくはないが、安倍さんが存命であれば、福原さんと江さんの問題にも憂慮したであろう。首相時代だった2017年3月、自民党大会に福原さんをゲストとして招くなど親交もあった。

SAKISIRUの読者にはおなじみだが、安倍さんは共同親権の問題にも強い関心を寄せていたことが取材で明らかになっている。台湾有事と共同親権の問題が今回のような形でクロスオーバーしたことに、安倍さんも草葉の陰で悲しんでいるのではないか。何より、2人の子どもたちのためにも、なんとか良い形で折り合うことを祈っている。

(関連記事と動画)

共同親権、安倍元首相が急死の3週間前に語っていた「問題の本質」

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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