イスラエルとハマスの武力衝突、なぜ「情報網」と「国境の壁」が崩壊?深まる謎

トランプ氏「第三次大戦に近づいている」【追記あり】

パレスチナのイスラム組織ハマスが7日、イスラエルのガザ地区で大規模な武力攻撃を展開した。イスラエル国防省の7日午後(日本時間8日朝)の発表では、ハマスから3000発以上のロケット弾が発射され、イスラエル側で少なくとも200人以上が死亡、1,000 人を超えるけが人が出た。市街地にはハマスの戦闘員がイスラエル側の兵士や市民を多数拉致、人質に取られている。

ネタニヤフ首相は「我々は戦争状態にいる」との声明を発表。イスラエル側の報復により、パレスチナ側にも多数の死傷者が出ている。

ハマスのロケット弾攻撃で炎上する車両と市街地で展開する兵士(イスラエル国防省Xの動画より)

モサド元長官も「想定外」

SNSでも、現地の生々しい動画や画像が投稿され、日本でも多くの人がリアルタイムで事態の推移を見守り、中東情勢に詳しい専門家などが適宜解説や論評を加え、関心が高まっている。発生から1日、この間浮上した「謎」に注目が集まる。

1つ目はイスラエル側がハマスの「奇襲」を予期できなかった理由だ。この点はモサドに代表される情報機関を有していることから世界的にも関心が高く、BBCは安全保障担当特派員のフランク・ガードナー記者が早い段階で「イスラエル総保安庁や国内諜報機関、モサド、国防軍のいずれもハマスの来襲を予期できなかったのは驚くべきことだ」と指摘した(出典)。

ガードナー記者も指摘するように、イスラエルの情報機関は、パレスチナのテロリストグループ内に情報提供者やエージェントを潜り込ませている。暗殺対象者の車にエージェントがGPSを置いてドローン攻撃を行って作戦を遂行させるなど、綿密な情報網を張り巡らせてきた。

ところがモサドで1998年から4年間長官を務めたエフライム・ハレビ氏はCNNのインタビューに対し、「ハマスがこれほど大量のミサイルを持っているとは知らなかった。これほどの威力があるとも想定していなかった」と不意打ちだったことを明らかにし、日本でも衝撃が広がった。

イスラエルでは、ハマスによる爆弾テロ犯の侵入が相次いでいたことから、国防省が2018年にガザ地区との境に鉄筋コンクリートや有刺鉄線などによる「国境の壁」建設を本格化していた。しかし、BBCによると、ハマスの戦闘員らは有刺鉄線に穴を空け、海上やパラグライダー経由でいとも簡単に侵入するなど「壁」が機能しなかった。情報機関の機能不全と関係があるのかも注目される。

「黒幕」はイランなのか

2つ目の謎として焦点になりそうなのが、今回の事態の「黒幕」だ。前出のハレビ元長官が想定外というほど、イスラエル側の旧来の常識を破る戦法をハマス単独だけで整備したとは考えづらい。

すでに黒幕として名前が上がっているのはイランだ。アメリカ当局者はイラン黒幕説について「時期尚早」と話したと伝えられるが、最高指導者ハメネイ師の顧問や外務省報道官らがすでに現地メディアの取材に対してハマスの攻撃を支持。国際的にも疑心暗鬼が深まる。

BornaMir /iStock

SNSではハマス側がドローンを駆使してイスラエルの兵士を空爆する動画が出回っているが、イランはドローンの開発力が高く、ロシアがウクライナ戦線にイラン製のドローンを投入していることでも知られる。ハマスに対しても技術的支援があったのかも注目される。

もう一つ、イスラエルに対する全方位的なオペレーション体制が短期に敷かれたことも黒幕の存在を取り沙汰する要因になりそうだ。

ハマスがイスラエルの南部で攻勢に出た直後、北部からはレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」も多数の砲弾と誘導ミサイルで攻撃を展開した。さらにはアフガニスタンのタリバンも便乗してイランやヨルダン、イラクに対し、イスラエルへの自国兵士の派遣を許可するように求めたとも報じられた。こうした動きは偶然なのか、それとも黒幕が絵を描いていたのか…。

今後、イスラエルとイランが軍事的に直接報復し合うようなエスカレーションが進んだ場合、戦況次第で中東を広く巻き込みかねず、さらには核保有国でもあるイスラエルの対応いかんで世界情勢がこれまでにない緊迫を強いられる可能性がある。

アメリカのトランプ前大統領は7日、遊説先のアイオワで「我々はこれまでにないほど第三次世界大戦に近づいている」と演説した。

【追記:9日15:30】米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は8日、ハマスとヒズボラのそれぞれの幹部の話として、イランがハマスのイスラエル攻撃計画に関与していたと報じた。レバノンの首都ベイルートで数回会合が開催され、イラン革命防衛隊の幹部とイラン、ヒズボラなどの武装組織の幹部らが出席。イランのアブドラヒアン外相も少なくとも2回出席したとの情報を伝えている。WSJの報道が事実であれば、イラン黒幕説が的中し、ハマス・ヒズボラの組織的な動きを裏付けることになり、今後のイスラエルとの緊張が一層高まりそうだ。

【追記②9日22:00】WSJの報道について中東専門家の間で疑問視する声が上がりはじめた。英エコノミストの中東特派員、グレッグ・カールストローム記者はXで、イランが奇襲計画に協力したとするハマスとヒズボラの主張について「これまでのところ実証されていない物語を裏付けるに過ぎない」と皮肉った。

 

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