リンゴ日報の記者の手記「心を込めて書いた記事は、世の中を変える」
“香港の東スポ”廃刊時に浮かんだハリウッド映画のワンシーン- 廃刊したリンゴ日報の元記者による手記を紹介。入社前の印象はよくなかった
- 司法担当として印象に残った事件を機に、「世の中を変える可能性もある」と実感
- 廃刊を迎えて思い浮かべるある映画のセリフ。今後も水面下で戦い続けると決意
きょう2021年7月1日は中国共産党の創立百周年であると同時に、香港の中国返還から24年を迎えた日でもある。そんな記念すべき日を迎えることができなかったのが香港紙リンゴ日報(蘋果日報)。中国政府や香港当局への批判的な論調から、国家安全維持法(国安法)違反を理由に経営者や編集幹部が続々と逮捕され、資産も凍結。ついに先週6月24日に最終号を発行して廃刊に追い込まれた。しかし、現場の記者たちにはその「魂」は引き継がれている。他のネット媒体で手記を発表する記者もいた。その一部を紹介したい。
入社前「イメージよくなかった」
手記を記した匿名の司法記者は、7カ月前にリンゴ日報に転職してきたという。
実をいうと、『リンゴ日報』へのイメージはあまり良くなかった。大学時代には、リンゴ日報みたいなメディアは大衆迎合で情緒的で、記事に深さがないと、そんな議論をよく仲間としていました。
もともと芸能ゴシップに強いリンゴ日報は、紙面のレイアウトも比較的派手で、いわば“香港の東スポ”のような存在。新聞社とはいえ、決して高尚な存在ではなかったようだ。
何のために記者をやるかと考えたとき、「社会正義の実現」や「民衆の代弁者になる」といった想いは特になかったという。
社会正義も意識はするけど、記者という仕事が、僕の本能と同じだったことのほうが大きい。世の中を観察し、人の話を聞き、ストーリーを記録する。こういうことが好きだったんです。
「タブーなしの自由」
リンゴ日報では、香港デモに関する裁判は細かく取材していたという。そのなかで印象に残った事件があった。耳に障害を持つ少年が警察署の襲撃に参加し、逮捕された事案。補聴器を付け、介護者が手伝いながら裁判は進んだが、重要な場面で少年は否定と肯定を取り違えて回答してしまった。休庭中、泣きながら悔やんでいた。
記者は閉廷後に少年から話を聞き、聴覚障害者が裁判を受ける際の困難を知った。当時はまだ、記者生活を始めてたった1か月だった。
司法記者の仕事の範囲外かもしれないし、こういう記事はリンゴ日報のカラーに合わないかもしれないと思った。でも、先輩記者はこう言った。「試すこともしないで、どうして無理って言えるの?」。
ジミー・ライ社長は賛成し、記者は記事に発表。その後、裁判所では聴覚障害者向けに音声を文字で伝えるサービスが始まり、世の中でも大きな反響があったという。
リンゴ日報の報道が影響したかどうかは、分からない。でも、心を込めて書いた記事には、世の中を変える可能性があると信じている。リンゴ日報にはタブーなしの自由があり、記者の創造力を受け入れる自由があった。完璧はないし、プロフェッショナルではないかもしれない。恐いときもある。それでも、最後まで同僚たちとこの自由を守りたいと思う。
「陰の下で戦う」
入社時の面接では、ジミー・ライ社長から「こんな時期に、なぜ入社しようと思ったんだ?」と聞かれた。この記者は香港デモの景色が脳裏に浮かんだが、何と答えたかは覚えていないという。
廃刊を迎えて思い浮かべるのは、『300(スリーハンドレッド)』というハリウッド映画の一場面だという。ギリシア時代のペルシアとスパルタの間の戦いを描いだ作品で、右手を切られたペルシア軍の使徒が「我らの放つ矢は太陽をも隠す」と訴えると、スパルタの戦士は「ならば我々は影の下で戦う」と答えたという。
今なら入社理由について、こう答える。戦いたくて仕方がない。自分たちのやり方で、最後の瞬間まで戦いたい。報道の自由とは何であるか、あなたは身をもって教えてくれたのだ。
国安法によって従来のような活動が厳しく制限された現在、民主派(反体制派)の多くは、国外やネット上など、水面下での抵抗を続けると表明している。映画のセリフに共感したのは、“影の下で戦う”という部分だろう。
手記を読むと、リンゴ日報は紙面のみならず記者の性向や社風もかなり“雑誌的”であったことが感じられる。新聞記者は時代の観察者として冷静さが求められるだけに、あまり情緒的になることには少々心配になる面もあるが、今回の強制的な廃刊によって多様な言論の一つが失われたのは確かなことだ。香港の今後の社会がどう変化していくのか、注目したい。
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