『おさかな天国』誕生秘話 〜 仕掛け人が語るチャンスの作り方
田村重信『政策現場発:型破りサラリーマン道』第1回- ヒット曲「おさかな天国」を仕掛けた元自民党職員、田村重信氏が振り返る
- きっかけは水産業の大ピンチ。食卓から「魚離れ」が続く中で200海里問題も
- 従来の発想の延長にはない広報作戦を展開。組織人でも挑戦するためには?
「サカナ サカナ サカナ~ サカナをたべーると~♪アタマ アタマ アタマ~ アタマがよくなる~♪」
みなさんも一度は聞いたことがあるかもしれません。「おさかな天国」――スーパーでよく流れているこの曲は、今から約30年前に私がプロデュースして生まれた曲なのです。
私は宏池会(大平正芳事務所)から、自民党本部の職員となり、約45年もの間、永田町で計16人の総理に仕えてきました。最初は、全国組織委員会、その後は政務調査会で、農林水産・外交・国防・憲法・安全保障の調査役、審議役を歴任する傍ら、自ら本を出版し今までに合計50冊以上の本を書いてきました。
みなさん疑問に思うかもしれません。なぜ議員でもない、いち党本部職員がこれほどたくさんの本を書き、曲までプロデュースができるのか--?
もちろん、誰かに頼まれたわけでもありません。世の中で必要とされている課題に合わせて、自分が出来る行動を起こしていっただけなのです。
漁業の大ピンチがきっかけ
最初に手掛けた本は『魚を食べると頭が良くなる』(KKベストセラーズ)というものです。当時私は、政務調査会で農林部会と水産部会に配属され、漁業の振興策を探っていました。そこで、魚の消費拡大が必要とのことから、魚の頭が良くなる成分、DHA(ドコサヘキサエン酸)という不飽和脂肪酸の効果に注目し、広報活動を試みたのです。
本やポスター、曲を作り、これらが新聞やテレビで取り上げられ大反響となったことで、空前のDHAブームが到来しました。それとともに魚の消費量をアップさせる本来の目的の達成に成功したのです。
きっかけは、1977年に起こった200海里問題に端を発します。当時の漁業は「日本一の不況産業」といえるほどの大ピンチでした。「魚離れ」が進む状況の中でアメリカとソ連が200海里専管水域を設定し「魚を取りに来るな」と締め出しをかけてきたのです。漁獲量の半分近くを遠洋漁業から得ていた日本の漁業は壊滅的な打撃を受けました。漁船はスクラップとなり、職を失う人も溢れました。
「水産業界を取り巻く状況は大変厳しいものがある」
農水大臣や水産庁長官の漁業関係者の会合での挨拶の枕詞のような状態になっていました。水産庁の水産流通課長だった石原葵は「水産予算を増やすべきだ」と主張しましたが、私は「大切なのはお金だけじゃない、もっと頭を使えばなんとかなる。みんなで協力して、消費拡大イベントをしたらどうか?」と提案したのです。大ピンチを乗り切るには、パッとしない従来の政策の延長線では駄目なのが目に見えていたからです。
まずは漁協団体に少しずつ拠出してもらい、キャンペーンを行うことにしました。「おいしいお魚健康ライフ」というキャッチコピーのリーフレットを有楽町マリオンの前で配布したのですが、この試みは失敗に終わります。いま思えば理由は簡単。「健康だ」と訴えるだけでは消費者には刺さりません。そして、PRにいくらお金をかけていたとしても、事前にメディアとコミュニケーションが取れなければ、効果は期待できないのです。そもそも、マスコミが興味を引く内容でなければ、見向きすらしてくれない。それが初のイベントで得た教訓でした。
転機となった英国の学者本
ガッカリしていた頃に、石原課長から「田村さん、これ面白いよ!」とある記事を渡されました。なんでも魚食関連の研究をしている英国のマイケル・クロフォードという栄養学者が新刊『原動力』を出したとのことで、早速とり寄せ翻訳してみると興味深いことが書いてあるではありませんか。
「日本人が欧米人よりもIQが高いのは、魚食中心の生活だから」「DHAが脳の健康にいい」――。
これは魚の消費拡大に使えるのではないか?と閃いた私と石原氏は、クロフォード氏を日本に招聘し、世界初となる「DHAシンポジウム」を開いたのです。その模様は、夜9時のNHKニュースでも大きく取り上げられ、またたく間に日本で話題となったのです。
シンポジウムが注目されたことで、出版要請が殺到しました。そこで医学博士の鈴木平光氏を著者に立て『魚を食べると頭が良くなる:科学が突き止めたこの新事実』(1991年、ベストセラーズ)を出版したのです。発売たちまち10万部を超えるヒットを記録しました。同著は日本だけでなく、海外でも翻訳されたのです。
またこの時、ポスターも作りました。当時人気だったアイドル、のりピーこと酒井法子氏に漫画を描いてもらったのです。子どもたちにも広く興味を持ってもらいたかったからです。
ところが海外出張から帰ってきた石原氏が残念そうにいったのです。「ジュネーブの大使館では、誰も知らなかった。もっと色んな人に知ってもらいたい。歌を作れないものでしょうか?」帰りの飛行機で音楽を聞きながら閃(ひらめ)いたのだそうです。
私は早速、のりピーの所属するサンミュージックの相澤秀禎社長(当時)に依頼しました。いくつか曲が完成した後に、どれがいいか水産庁の若手に選んでもらいました。こうして、あの『おさかな天国』が生まれたのです。この曲はご存知のとおり人気を博し、今もなおスーパーの魚売り場でときおり聞くことができる、あの身近な曲となったのです。
組織内で挑戦するためのコツ
組織の中にいて、挑戦することにリスクはつきものです。でも、何事も初めてみなければわかりません。失敗を恐れていては何も始まらないのです。「困難だから始めないのではない、始めないから困難なのだ」とは、古代ローマの賢人セネカの言葉ですが、組織にいると、自分のやりたいことが出来ないと悩みを抱えている人は、多いかもしれませんね。
しかし、どんな場所にいても、どんな組織にいてもやりたいことは出来るはずです。もちろんなにかやれば、誰かからやっかみも言われる。それが組織というものです。上手くやっていくには、いくつかコツがあります。その一つは、たくさんの人を巻き込んで、味方を増やしていくことです。
組織なんてものは脆(もろ)いものです。特にこれからの時代はどんなに盤石な組織であってもいつ壊れるかなど予測が付きません。もし、あなたのいる組織になにか起こった時に、最も頼りになるのは何でしょうか。それは、あなた自身の個人の力なのです。
だから、あなたが今どんな組織にいたとしても、失敗を恐れずに自分の力を絶えず磨いてチャレンジしていく必要があるのです。この連載では、今の時代を生き抜く貴方のために、いくつかのヒントを提示していきたいと思っています。
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