外国で公務員に賄賂を要求されたら?スマートな対処術教えます
入国審査官があなたに賄賂を...ケースで学ぶ- 空港の入国審査が長蛇の列。空港職員から賄賂の要求…今回は具体的な対処法
- まず、やることは“断る”こと。それでも入国許可を出させるには
- いかに相手に「面倒になる」と感じさせるか。その他、具体的なアドバイス
前回は国際ビジネスにおいて、少額賄賂(ファシリテーション・ペイメント、グリース・ペイメントなどと呼ばれる)の要求を断った場合、何が起きるのかについてご紹介しました(記事はこちら)。断れば、わざと手続きを30~45日間遅らされたり、通常とは違う官僚主義的な対応を受けるものの、大抵の場合、その後時間がたてば通常の対応に戻るものです。
では、そんなに待っていられない状況ならどうすればよいのでしょうか。
実際に入国審査官に賄賂を要求されたら?
まず、断ること、次に断りながら、さまざまな方面に相談しつつ、相手側に手続きを進めるよう督促すること、相手側の上司や相手国の腐敗防止機関に通報・相談することです。
事例で考えてみましょう。
あなたはエンジニアで初めての出張をしました。空港の入国審査の列が長蛇の列になっている中、空港職員があなたを脇に呼んでこういいました。
審査官「ようこそ。50ドルくれれば入国審査を進める。これは、キャッシュで払え」
あなた「それは、何の代金ですか?」
審査官「入国料だ」
あなた「どこに書いてありますか?」
審査官「今日は掲示してない」
あなた「なら、払えません」
審査官「何が問題だ?みんな払っているぞ」
あなた「わたしの会社で認めてもらえないのです。違法となって起訴されてしまいます」
審査官「でも入国したいのなら、払え」
あなた「あなたの上司と話したいです」
審査官「それはできない。上司は VIP としか会わない。どのみち、払わなければ入国できないぞ」
あなた「では、領収書をもらえますか?」
審査官「なに?どんな支払いにも領収書なんて出してない」
あなた「領収書をくれるなら払います」
審査官「…もう、話しても無駄だ。お前は入国させない」
こうしたやり取りは、部品の通関や車両や船舶航空の検査、警察の取り締まり、国境でのパスポートチェックの場などでよくあることです。こんな時、あなたどうすべきでしょうか?
賄賂を断っても入国許可を出させるには
まず、あなたがやることは“断る”こと。
次に、手続きを進めるために賄賂以外でできる措置を考えます。まずは、通関書類や申請書類をチェックして漏れのないようにして、つけいられる隙をなくします。
その上で税関での手続きを早く進めるにあたって、公式の手続きがないかを調べます。事務所に公示されている「“お急ぎ料金”ならば払える」といいましょう。「請求書や領収書のもらえる手数料なら、払うことも可能だ」といいましょう。
もし通関手続きにそのような予め定められた手続きが無い場合、ワイロ要求にはどう対応すればよいのでしょうか?
現地の警察に通報するのもよいのですが、国によっては警察も腐敗していて、逆にあなたが命や体の危険すら感じてしまうことがあるかもしれません。その場合は「社に戻って相談する」といって、いったんその場を離れましょう。
少額現金なら、払ってその場をやり過ごすという選択肢もあります。ただし、ワイロを要求した公務員の所属と名前は記録しておきましょう。それが難しければ、入国審査ブースの番号、贈賄要求をされた時刻と詳細を記録しておくのをおすすめします。今は払っておいて、すぐに上司と法務部に報告して、この件を後から処理します。
以上のどれか一つをやるだけでも、贈賄要求をした公務員は「これがせいぜいだろう」と思い、あなたに入国許可を出すでしょう。
相手に「面倒になる」と感じさせる
では、電気や水道、電話の開設や許認可申請など、数日かかる手続きを、進めてもらえない場合はどうでしょう。
通関での遅れが会社の事業に影響するなら、その事業の発注者やドナー、現地のビジネスパートナーに状況を説明し、一緒に対応をしてもらいましょう。
最低でも、一人の目撃者に(管理部門、アドバイザー、銀行の担当者など)伴ってもらいましょう。そして再度、役所を訪れて賄賂を要求した人と会って、手続きを進めてくれるように求めます。遅れている場合は、理由を聞き出します。毎日確認して、督促もしましょう。
それでもダメなら、なるべく記録と証拠を集め、その国の腐敗防止委員会、公正取引委員会、オンブズマンに相談しましょう。また、同時に、現地の日本大使館、現地の日本商工会議所、税関案件なら日本の国税庁の国際部門に相談しましょう。
ここまでやれば、収賄要求をした公務員も、これ以上要求すると「面倒になる」と感じるでしょう。
ただし第三者の現地コンサルタントなどに、有料で依頼するのは要注意です。コンサルタントへの支払い自体が、賄賂の迂回行為と見なされる場合があるからです。
日本の国内では、経済産業省に外国公務員贈賄防止総合窓口があり、海外では、現地の日本大使館・領事館に外国公務員贈賄防止担当官がいます。日本貿易振興機構(JETRO)でも個別の相談に応じ、助言をしています。ODA案件なら、国際協力事業団(JICA)に贈賄防止専門の相談窓口があります。
1人で対応しないこと
ただし、一つの相談先で満足な回答が得られるとは限りません。こうした行政の贈賄防止対策は、まだ新しい分野だからです。会社の法務部門や弁護士と相談しながら、いくつかあたってみましょう。御社がかけている貿易保険、御社の株式や社債管理会社にも相談してみることをおすすめします。
いずれにしろ第一に大切なのは、1人で対応しようとしないことです。上司と社内の法務コンプライアンス部門に相談することが重要です。これは、各社の法務コンプライアンス部門から、社員に要請されていることでもあります。
粘り強い努力で少額賄賂を、正当な手数料にして払うことにしたA社の例をご紹介します。 A社は腐敗度が高く、治安の悪い国で操業していました。施設の防犯の必要がありましたが、警備員に銃の所持は許されていなかったため、非公式に警察に金を払って警備をしてもらっていました。支払いは警官の口座に現金小切手で入金するという形でした。会社は重役を派遣してこの状況を調査し、警察と公式な契約を交わして、代金を警察の口座に入金するように変えました。
ただし「賄賂は要求されてしまうと、どのみち困難」(商社マン)なので、要求されないようにするのが一番です。次回は、賄賂を要求されないようにするコツをお教えしましょう。
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