初の量産EVがリコール…トヨタが突きつけられた「ものづくりの死角」
発表1か月も原因不明。競合も他人事ではない事情- トヨタが同社初の量産EV「bZ4X」発売直後にリコール、工場停止の異常事態
- 「リコール発表から約1か月経過も原因不明」(関係者)他社の技術者の見立ては?
- 競合他社も他人事ではないトラブル。ものづくりの「死角」とは?
トヨタ自動車が7月19日に発表した8月の生産計画によると、国内主力生産拠点の一つである元町工場(愛知県豊田市)の第一ラインが全日稼働停止する異常事態に追い込まれている。
急発進で脱輪リスクも
新型コロナウイルス拡大による部品供給の遅れや半導体不足だけがその理由ではなく、深刻な課題を抱えている。第一ラインでは、トヨタとSUBARUが共同開発したEVの「bZ4X」(トヨタブランド)「ソルテラ」(SUBARUブランド)と、燃料電池車の「MIRAI」を製造している。しかし、そのEVで深刻な品質不良が起こったうえに原因が完全に特定できないため、ずっと生産を止めているのだ。

トヨタは今年5月12日に同社初の量産EV「bZ4X」を発売してから1か月余経過した6月23日、ホイールを連結するハブボルトに不具合があるとしてリコールを発表した。急発進や急旋回すると、ボルトが緩み、タイヤが外れる可能性があるという。
トヨタは今、その原因が「設計にあるのか、工法にあるのか、部品にあるのか調べているが、リコール発表から約1か月経過しても原因がつかめない状況にある」(関係者)という。こうした事態を受け、系列部品メーカー役員は「bZ4Xに続く新たなEVプロジェクトも全面停止に追い込まれている」と語る。
トヨタの新型EVの不具合は、競合他社も注目している。筆者が取材した他社の技術者は「ボルトを締める新たな工法を入れたものの、その検証が甘かった可能性もあるのではないか」と見ている。
別の関係者は「EVは加速が良いことが特長。加えて電池を載せているので、車体重量が重くなる傾向にある。こうした要素が複雑に絡み合って車体に予期せぬ力が働いて不具合が生じた可能性もある」と見る。
「現地現物を大事に」のはずが…
トヨタが直面するこの現状に実は、ものづくりの「死角」がある。クルマのように多くの部品を使って組み立てる産業は、実際に実物を生産ラインで流してみて初めて課題が掴めることがある。

このため、トヨタでは、設計して、社内用語で「号試」と呼ばれる試作をし、設計図通りのクルマができるかを確認したうえで量産に入る。設計図の寸法では、生産ラインの構造上の制約を受けて造りにくい場合などは設計自体を見直すことすらある。こうしたプロセスからも分かるように、ものづくりの力は、デジタルの設計情報をいかにハードに効率的に転写していくかが問われるのである。
トヨタが「現地現物を大事にせよ」と社員らを教育するのは、ものづくりは実際にやってみないと分からないことが多いため、動きながら解を見出していけ、という意味合いが含まれる。
近年は、クルマがソフトウエアの固まりになって構造が複雑化し、さらに新たな部品も開発され、最新の機械を使って新しい工法も生まれている。このため、ソフトウエアとハード(機械)をうまく一体化できる能力、すなわち「機電一体」のさらなる高度なノウハウが求められる。
2014年にホンダでは小型車「フイット」で5度の連続大規模リコールを起こしたが、新たに導入した「デュアルクラッチシステム」に不具合があることまでは分かったものの、その不具合の原因が何かを特定するのに時間を要した。ホンダではこの大規模リコールの責任を取る形で、当時の伊東孝紳社長が事実上の引責辞任に追い込まれた。
EV時代に要求されるノウハウ
自動車産業の実態をあまり知らない経済評論家系の有識者がよく「EVの時代になるとクルマの構造がパソコンのようにシンプルになり、コモディティ化が進み、製造が簡単になる」といったようなことを言っている。しかし、これは半分正解で、半分間違っている。

確かにEVの構造はガソリン車よりもシンプルになるが、「機電一体」のより高度なノウハウも求められるのである。たとえば、電池と並ぶEVの心臓部である「トランクションモーター」は、車を動かすためのモーターと、減速機(歯車)と、パワー半導体が一体化したものだ。
加速がいいEVは急激に歯車に力がかかり、急減速時のギアへの負担が大きいため、優れた歯車を造る技術が、EVの信頼性を左右する要因の一つとなる。このため、EVの時代が来れば、電池だけではなく、優れた歯車の争奪戦が起こると言われている。たとえばモーター大手の日本電産が立て続けに工作機械メーカー2社を買収したのは、歯車を自社で作る能力を高めるためである。
こうしてトヨタがEVでもたついている間に衝撃的なニュースが流れてきた。7月21日、中国のEV大手、BYDが23年から日本市場にEVを3車種投入すると発表。さらに韓国の現代自動車がEV「アイオニック」を今年8月に京都のMKタクシーに50台納入すると発表した。まずはBYDも現代もニッチな市場から攻めてきている。
中国製EVは21年、欧州を中心に前年比で5.4倍となる約26万8000台が輸出された。かつて日本車も輸出で世界の主要市場を席巻した。歴史は繰り返す。うかうかしていると完全に足下をすくわれるだろう。
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【おしらせ】100年に1度の自動車革命の実相をリポートした井上久男さんの著書「自動車会社が消える日」(文春新書、2017年)はこちらです。
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