対コロナ戦争、医療専門家の見解をどのように扱うべきか(前編)
文民統制の理論から見た医療専門家と政治の関係- 政府のコロナ対策で医療専門家の発言をめぐり、肯定派、否定派で混乱
- 政軍関係論を応用、専門家を軍人に当てはめ専門性の取り扱いなどを議論
- 近年はクーデター防止から政策決定に軍の影響力をどう適切化するかが論点
(編集部より)政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、オリンピック開催について「こういうパンデミック(世界的大流行)でやるのが普通ではない」などと意見を述べたことが波紋を呼び、菅政権との溝が深まっていることが取り沙汰されています。そもそも、こうした有事の際の医療専門家の意見を政治の意思決定にどう反映すべきなのか。安全保障アナリストの部谷直亮氏が、いわゆる「文民統制」の理論から提起します。

医療専門家の発言に対する評価が混乱している。例えば肯定的な向きは、極端な場合、政府専門家委員会のメンバーの発言を首相のそれより重視する。
他方で、否定的な向きは、政府の専門家委員会や医師会を批判する。無論、医師会を批判し政府専門家委員会を肯定する場合や、在野の医師を評価する場合も多い。
しかもこれが時と場合により入り乱れさえもする。
しかし筆者はそれらに対する評価に立ち入る前に、そもそも医療専門家の発言をどのように位置づけ、政策にどのように関与させ、どのようにその助言の責任を担保するかをこそ、議論すべきであると考える。
ここで筆者が援用するのは、最も専門性が高く、他方で人命をもっとも握る「政軍関係論」の理論である。政軍関係の知見を使えば、医療専門家を軍人に当てはめて、有効な議論できると考える。
結論から言えば、文民統制の理論上は、選挙によって責任を取らされる政治だけが“失敗”する権利を有しているのであって、専門家にはその権利はない。その意味で責任が取れない政府内の専門家の言説には一定の枷があるべきなのだ。
同時に、責任とは責任をとるべき政治家にあるのであって、専門家の責任は問われるべきではないし、批判されるべきではない。最終的に政治が助言を下に決断し、すべての責任を取るべきである。
今、コロナウイルスの猖獗はおさまらず、世界で最も勤勉で素直な国民であるはずの日本国民の戦意が危機に瀕している今こそ、医療専門家の専門性をどのように取り扱い、誰がその責任を取るのかを明確にし、巻き返すべきだ。
文民統制とその論点は?

そも文民統制とは政策用語である為に評価の難しい用語であるが、少なくとも先進国ではクーデターの防止というよりも、クーデターを起こさないながらも文民と利害対立する軍をどのように運用する概念になっている。
これは議論される文民統制の課題というのも、もはやクーデター防止ではなくなっているからだ。
例えばボストン大学教授のアンドリュー・ベースビッチは、「現代における実際の政軍関係の問題は、軍部というものが、自動車メーカー、労働組合、映画産業、環境保護団体、宗教組織、マイノリティ団体、イスラエルロビー等と、自らの信念に基づいた自分たちの政策を進展しようと画策するという意味では何ら変わりがない」と指摘する。
つまり、これは自衛隊も含めて米軍や英軍やフランス軍のようなG7諸国の軍隊が官庁街に出現し、クーデターを敢行するとは考えにくい。むしろ、利益団体のようにロビー活動やリークによって、防衛政策や調達の変更を迫ることこそ問題だというわけである。
実際、ベースビッチは、「軍人たちは、これらの団体と同様に――しかも彼らは軍事力という強大な力を持っていることで他の団体とは一線を画している――自らが必要とする装備品の調達等を大統領や国防長官が潰した際に、国会議員やメディアに公然・非公然の区別すらなく働きかけ、リークすら行うことで自らの主張を通そうとする。まだなされていない決定に対しても先制攻撃として行われる場合もある」と指摘する。
このように近年の政軍関係研究はクーデターの防止というテーゼを乗り越えて、政策決定における軍の影響力をどう評価し、どのように適切なものにするかが論点になっているのである。
医療専門家の関与や発言に対し、文民統制はどのような知見を与えてくれるのだろうか?次回は、ハンチントンやクラウゼヴィッツの理論から考えてみよう。(後編に続く)
※
(筆者よりおしらせ)渡瀬裕哉さん率いる一国民の会のコンテンツに参加していますので、ご興味のある方は是非。
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