学歴で飯を食う気なら部活をやっている余裕はない
【後編】部活全廃で学力格差を打倒せよ- 部活廃止と学力格差の相関、後編は学力格差はいつから開く?から
- 学業のお稽古事化ではじまる学力格差。過熱する中学受験
- 「学業で遅れをとりかけている中学非受験組に引導を…」と村山氏
(前編はこちら)
学力格差はいつどこで発生するのでしょうか。
もう30年以上前の話ですが、ある中学受験組の6年生が学校の授業で、分母の異なる分数の計算問題(たとえば、1/3+2/5 のような問題)で、途中式を書かずに一発で答え(11/15)を書いたところところ、採点をしていた教師は「これはね。いきなり足したってダメなの。こうやって通分をしないと……あれ、あってるわね。でも偶然でしょ……」と絶句していました。このレベルの計算を暗算でこなす小学生を想定できなかったのです。

学業のお稽古事化ではじまる学力格差
別の都会の小学校、授業中に塾の宿題をしている生徒がいました。担任が注意したところ、素朴に「先生この算数の問題解ける」と言われ、「そら出来るさ」と安請け合いして、その場で解き始めました。
ご存じの方も多いと思いますが、中学入試の問題はトリッキーなパズルが多く、慣れていないと数学者でも苦戦することがあります。受験勉強はある意味お稽古事と同じなのですから、ピアノで音大を目指す子の課題曲が弾けなかったり、少年野球のエースの投球を打てないのと同様、中学入試の問題が解けなくても小学校教員が恥じる必要は全くないのですが、この純真な先生は、意地になって生徒の前で悪戦苦闘したあげく降参してしまいました。その間、入試組の何人かは、ひと目でその問題を解き終わっていたそうです。
翌日から担任に対する壮絶ないじめが始まりました。入試組は平気で内職三昧です。塾の教科書を開いていいのですから、授業中に漫画を読み始める子もでました。なにしろ、小学生用の問題に手も足も出なかったオッチャンが教壇に立っているのですから、真面目に話を聞くやつはいません。こういうとき子供は残酷です。
数日後、保護者からの通報で教室に駆けつけた教頭先生が、よせばいいのに「きみたちのやっていることはイジメです」などと言ってしまいました。効果的な燃料の再投入。どんなに真面目な生徒でも、いじめられっ子を師と仰ぐのは無理な話です。
今ほどSNSが発達していない時代でしたが、瞬く間にこのエピソードは各家庭から、近隣の塾、お稽古事などを通じて地域全体で共有され、学校というもの自体の権威を大きく傷つけてしまいました。受験組は公立学校の無意味さ(あくまで学力についてですが)をあらためて確認し、非受験組も、「自分たちとは別次元の教育を受けているクラスメートがいて、そのレベルは担任よりもかなり上である。この人たちに学んでいる限り、受験組には勝てない」ということを思い知ったわけです。
これは中学受験が過熱する前の牧歌的な時代の話で、今では塾の問題を「素人」である担任に解かせる野暮な子供はいないでしょう。教員の方も「俺にわかるわけないだろ」と相手にしません。プロの小学生とアマの小学生がいて、公立小学校の教員はアマチュア用のコーチという構図が都市部では確定しています。
苦労を買ってもらえる幸せな子供
考えてみれば、スポーツ選手や音楽家が、幼児期から特別な教育を受けていたという話は昔からいくらでもありました。戦後一貫して続いた上位層での受験競争の過熱は、小学校入学前から公文式などの早期教育で基礎を作り、東京では昨今早ければ小1から受験用の大手塾に通うのが当たり前になっています。“学業のお稽古事化”といえるでしょう。

飯を食えるレベルまで学業を極められるのは、野球やバイオリンでプロを目指すのと同様に、親が投資した場合だけという構図が少しずつ確立しています。「若いときの苦労は金で買ってでもしろ」という言葉がありますが、学力格差問題とは良質の苦労を親に買ってもらえるかどうかの問題だと思います。
もちろん例外はあります。一番多いのは、せっかく親が買ってくれた苦労をドブに捨てるドラ息子・ドラ娘たちです。また、気の毒なことに苦労の質・量・強度・タイミングが合わず、親の好意が裏目に出てしまうこともあります。もちろん、親が受験に無関心(主義として公立学校に任せる親を含む)というのもいます。
お受験エリートはこういう例を横目で見ながら、遊びたい盛りに趣味やスポーツも恋愛もほどほどにして、壮絶な競争を勝ち上がって来るわけです。チャンスを与えてくれた親に感謝することはあれ、社会に対しては自己責任論的になるのも無理はありません。
逆方向の例外として、地方など普通の公立学校の授業だけでヒョイヒョイ難関大学に受かる本物の秀才が少数はいます。けれどもこれはシンデレラストーリーとかジャパニーズドリームとかいうレベルの話です。
公立の小中・中高一貫校など、受験界での公立学校の躍進が言われていますが、それを支えているのは、中学受験惜敗組など従来型受験エリートの変異株でしかありません。新しいタイプの入試ができると、即座に受験産業に対応コースができ対応して、下手をすれば中堅どころの普通の受験よりも大変だったりします。どっちにしろ「受験エリート型の人生を歩めるのは、親が投資が前提条件」という学力格差の階級化がすでにできあがっています。
格差再生装置としての部活

こうしたことを念頭に置いて、中高の部活というものを見ていきましょう。将来、学歴で飯を食う気なら、中学非受験組は少なくとも受験組と同じかそれ以上の勉強をしなければならないはずです。もともと、あまり部活をやっている余裕はないのです。週に1~2回、数時間ぐらいが限界でしょう。
教える方にしても、授業準備すら満足にできないブラック公立校の教員が、受験に特化した進学校のカリキュラムや、生存競争を勝ち抜いた予備校教師を相手に、授業の質で勝てるはずがありません。教員人気が最悪になり、今後は少なくとも基礎学力という意味で、教員の質の低下が避けられないことまで考えると、学力格差の階級化を少しでも緩和するには、部活などやっている場合ではないのです。
確かに、高度経済成長のころから学力格差はありました。でも逆転するチャンスが今より豊富でした。公立の中高時代に勉強のスタートを切って難関大に入るコースも現実的なものでした。一方、部活一本の青春を過ごし、中高卒で企業に入り叩き上げで中間管理職や役員にまで出世した人も少なくありません。与えられたことだけを的確に処理し、理不尽にも文句を言わない従順性、こうした日本人の日本人による日本人のための能力が、運動部などの部活で養われることは確かでしょう。
けれども、バブル以降、そういうタイプの人材は不要になってきています。経理を含む事務仕事全般にIT化が進み、電気忖度機とも言えるAIまで導入されつつあります。またレジ対応などの単純は接客業務には外国人のバイトがいます。いや、わざわざ外国人などと差別的なことを言わなくても、非正規でいくらでも安い日本人を雇えます。言い換えれば、部活で身につける忍耐力・組織性・従順さなどの市場価格が、今世紀に入ったころから暴落しているということなのでしょう。
現状の公立中高の部活は、「学業では遅れをとりかけている中学非受験組に引導を渡して健康で従順な非正規労働者に育て上げるシステム」に、なりかねません。もちろん、多くの非正規労働者の収入では、自分の子供に良い苦労を買ってあげることなどできません。世代間学力格差再生装置……そんなもののために日本の教員は、プライベートをまで犠牲にして奉仕しなければならないのでしょうか。やはり部活などやっている場合ではないのです。
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