コロナ後経済を占う:米国発インフレを「一時的」という人への忠告

日本で取り違えがちな「テーパリング」の意味
2021年08月11日 06:00
経済評論家、元参議院議員
  • 米国のインフレについて「一時的」とのFRBが見方に藤巻氏が再び異論
  • 原因は「供給不足でなく資産価格の高騰」(藤巻氏)
  • 「テーパリング」を巡る日本国内の誤解も懸念。株など売却など誘発も

FRBは「インフレは一時的だ」と繰り返し表明している。それを受けて、米長期金利は低位安定し、株価も順調だ。その一方、「インフレ不安に金融市場だけ無関心-FRB議長の『一時的』を過信も」(7月28日)や「インフレに無頓着な債券市場に要注意」(7月14日)というブルームバーグ記事のように「市場はインフレに関して楽観すぎる」と考えている投資家も多い。

FRBは現在のインフレは供給不足から起きていると分析している。そうであれば「インフレは一時的だ」との分析も納得できないことはない。しかし、私は、現在、米国で進んでいるインフレは資産価格の高騰が主因だと思っている。

alexsl/iStock

“史上最低”長期金利に合理性なし

バブル時(1985年〜90年)の日本経済が狂乱したのは、株や土地が急騰したために起きた資産効果(株や不動産価格が急騰し、それを保有していた人たちがお金持ちになったつもりになり、消費を増やした)のせいだが、CPIは低位で安定していた。そのせいで、CPIの動きに集中し資産価格の動きを注視していなかった日銀は、引き締めが遅れた。最後の最後になり、その問題に気がつき、急速に金融を引き締めたため、日本は「失われた30年」に陥ちいってしまったのだ。当時の澄田智日銀総裁が反省していたとおりだ。

関連拙稿:パウエル議長が繰り返す、バブル期の日銀総裁の過ち

当時、経済が狂乱したにもかかわらずCPIが上昇しなかったのは円が3年間で130円も急騰したからだ。この強烈なデフレ要因があったからこそ、狂乱経済にもかかわらずCPIは安定していた。そのデフレ要因が、今の米国には存在しない。私が、米国の物価上昇は決して一時的ではないと思っている理由だ。

またFRB の元副議長だったアラン・ブラインダー氏は7月20日の日経新聞で「住宅価格の上昇のように最終的に家賃に組み込まれ、インフレとして表れるものもある」と述べている。元副議長でさえ住宅価格はCPI を押し上げる一要因としかとらえていないのだ。これはバブル当時の日銀が私の指摘に対し「家賃高騰は帰属家賃を通じて、いずれCPI に反映されるから、取り立てて注目しなくていい」と回答していたのとそっくり同じだ。資産価格の上昇自体が問題なのに危機意識が今の米国にもない。

しかも、今年4-6月の米国GDP上昇率は、昨年低迷のキャッチアップ要因があるとはいえ、6.5 %と極めて高い。それなのに米国政府はさらなる財政出動を考え、FRBは最大規模の金融緩和を継続しようとしている。このような状態において、米国株価が史上最高なのはわかるにしても、長期金利が史上最低レベルなのは合理性がないと私は思っている。特に、1980年に20%を超した米国長期金利(10年もの)の動きを目の当たりにした私は、だ。

「テーパリング」をめぐる誤解

FRBパウエル議長(FRBツイッターより)

マーケットを見る上で。もう一点、気がかりな点がある。日本だけかもしれないがテーパリングの意味を取り違えている点だ。マスコミがテーパリングを「金融緩和の縮小」と訳しているせいであろうが、「テーパリングの開始」とは「量的緩和加速度の減速」に過ぎない。テーパリングを開始しても「量的緩和は拡大し続ける」のだ。

FRBのバランス規模で考えるとわかりやすい。量的緩和とは「中央銀行のバランスシート規模の拡大(=当然、負債であるお金をばらまくことになる)」だ。

現在FRBは毎月米国債を月800億ドル、MBSを同400億ドルのペースで買い入れているが、「テーパリングを開始」し購入量を減らしても、購入額が満期になる国債額より多ければ、FRB のバランスシートは拡大を続ける。バランスシートが縮小を始めるのはテーパリングが開始され、毎月の購入量をかなり減らし、購入量が満期国債額と同額になった以降だ。そこで初めて「量的緩和の縮小(=バランスシートの縮小)」が始まる。そして最終的に、量的緩和前のバランスシート規模に戻って初めて「量的緩和の終了」となる。

「テーパリングの開始」を「量的緩和の縮小開始」と誤解している人は、「テーパリングの開始」と聞いて、あわてて株も長期債も売却する可能性がある。

長期債が売られるのは合理的としても、株禍の下落が続くかどうかはわからない。「異次元緩和の拡大」が続くからだ。お金がより多くマーケットに供給され続けている以上、余ったお金は株式市場に流入し続ける可能性はある。その結果、バブルは續き、経済は狂乱する。(もっとも、バランスシートが縮小、すなわち実際に金融縮小期に入れば株価は大きく調整する可能性があるとは思っている)「テーパリングの開始」の意味をはき違えているとそのシナリオが読めなくなる。

最後にFRB を信じ、「インフレは一時的」と思いこんでいる人に一言忠告したい。ブリークリー・ファイナンシャル・グループCIOのピーター・ブックバー氏が7月28日のブルームバーグニュースで述べた「大部分の人々はそれが一時的か、少なくとも米連邦準備制度が全てを把握しているのではと思っているようだが、私の考えではどちらも間違いだ」というコメントには注意した方がいい。7月5日の日経新聞に引用された稲葉延雄元日銀理事の「中央銀行の経済予測能力は、よく言って民間エコノミストと同程度であり、それを大きく上回ることはないと思う」との講演での発言も、だ。20数年間にわたり最前線でマーケットで戦ってきた私は、とても納得できる言葉である。

以上のような米国の情勢を踏まえて上で、それが日本経済にどういう影響を与えるのか、どういうポートフォリオを私がお勧めするのかは、8月26日夜のウェブセミナーで開示させていただきたい。

【編集部からおしらせ】8/26 19時〜。ウェブセミナー「藤巻健史さんに聞く!コロナ後の経済どうなる?個人の資産どうなる?」を開催します。参加費無料です。

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経済評論家、元参議院議員

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