ジョセフ・ナイの対中戦略 致命的な3つの欠陥(後編)
日本も「最悪のシナリオ」考えるべき- ジョセフ・ナイ氏の対中戦略の欠陥を引き続き検証
- 「覇権国・中国」の横暴の想定や、米側の混乱の考慮がない
- 米国の対中戦略が定まらぬ中、日本は「最悪のシナリオ」も想定せよ
「ソフトパワー」を提唱したことで知られるジョセフ・ナイがこの夏、発表した「対中政策」。その3つの欠陥を、エドワード・ルトワックの「パラドキシカル・ロジック」から読み解く(前編はこちら)。
第2の欠陥:「覇権国・中国」の横暴を想定せず
第2も、中国側の行動に関することだ。それは、中国がナンバーワンになったときに、どのような行動をするのかが考慮されていないというものだ。
たしかにナイは記事の中で「中国も多数の問題を抱えている」と指摘してはいるが、世界のトップに立った中国が傍若無人に権力を振りかざすようになる可能性を想定していない。
ところが世界保健機関(WHO)や国連安保理など、すでに中国は国際機関における発言権を高めようとしたたかに動いており、15ある国連の専門機関のうち、国際電気通信連合(ITU)や国連食糧農業機関(FAO)など4機関のトップに自国の人間を送り込んで議題を自国に有利な状況へと動かそうとしている(参考:「中国、国際機関で存在感 4機関でトップ 米警戒強く」)。
第3の欠陥:アメリカ側の混乱を考慮していない
第3が、アメリカが中国にナンバーワンの座を奪われた時に、一体どのようなリアクションを起こすのかについて、まったく考慮がないことである。
アメリカというのは冷戦初期に、ソ連との国力が拮抗したと考えてパニックを起こしている。たとえば1950年代には「赤狩り」と称された共産党シンパを国内の役職から次々と追放するようなキャンペーンが行われ、本格的な冷戦体制の構築を強めた過去がある。
これは現在の中国に対しても起こり得ることであり、ナイのいう「国際的な管理」などと悠長なことを政府の上層部が考えていても、国民側からの突き上げによって、政策変更を迫られる可能性がある。
もちろんナイは「アメリカ国内の政策議論もなんとか戦争に向かわないようにうまく管理すべきだ」と考えているのかもしれないが、アメリカ国民の反中感情が政治面に及ぼす影響を軽視している、と指摘されても仕方がないといえよう。
ナイのような対中戦略の提言に、中国側のリアクションまで考慮したものを期待するのは無理だという意見もあるだろう。だが「アメリカを中心として管理できるはずだ」という楽観論は無責任であるという批判からは逃れられない。
日本が考えておくべき「最悪のシナリオ」
ではこのような対中戦略の定まらないアメリカに追従している日本はどうすべきなのか。
政府のエリートたちは最悪のシナリオを考えておかなければならない。具体的には中国が本当にアメリカを超えて世界のトップに立った場合にどのような選択肢があるのかを、少なくとも議論し、共有しておくべきだ。
実に悲観的な話をするようで申し訳ないが、アメリカの共和党が率先して陰謀論を元に国内分裂に導いて国力を削ぐような方向に行っている今、日本としては最悪のシナリオを考えることが、国を引っ張っていく人々の最低限の義務である。(終わり)
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