“世田谷自然左翼”な区長に伏兵襲来!自民・維新が区長選に29歳元財務官僚擁立

【前編】世田谷区長選「波乱」の兆し
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 世田谷区長選で保坂区長を脅かす「伏兵」が登場
  • 元財務官僚の29歳を自民と維新が異例のタッグで擁立
  • 記者会見では政策通ぶりを披露。一方、保坂氏はここにきて…

先日も書いたように、今春の統一地方選では、東京都の区長選がいくつか波乱含みの様相を呈している。保守分裂の江東区長選、全国の市区長で最高齢の現職に著名人らが挑む北区長選と並び、23区で最多の人口91万人が住む世田谷の区長選への注目度が大きく上がろうとしている。

その理由は、ここまで3期12年務めてきた元社民党国会議員の保坂展人氏に、自民党が推す候補者が全く歯が立たなかった中で、今回、自民と維新が擁立する「伏兵」が予想以上に評価を高めつつあるためだ。

保坂氏(左、地方創生図鑑)に挑む内藤氏(公式サイト)

財務省出身の「伏兵」

その「伏兵」とは、元財務官僚の内藤勇耶(ゆうや)氏(29)。世田谷生まれの生粋の地元育ちで、東大在学中にベンチャー企業の設立に参画。その経験を活かし、大学卒業後に財務省に入った後も財政投融資や産業投資を担当するなどしてきた。

最後は財務総合研究所に勤務。データ分析を専門に行なっていた。この2月にも日経が住宅面積と子育ての両立の難しさを取り上げた記事にも登場し、「若い子育て世帯など対象者を絞ったうえで、企業による賃貸住宅手当や持ち家手当の増額、都心部での社宅や公営住宅の整備が有効」と提言している。

その「伏兵」が19日、世田谷区の成城で記者会見を行い、ヴェールを脱いだ。内藤氏は生まれ育った世田谷について「力がなくなっている。輝きがなくなっている。数字にも表れている」と述べ、土地価格の下落率が全国ワーストだったことや、区の人口が今年から初めて減少に転じたことなど、得意のデータを次々に挙げながら危機感を示した。そして、「地元生まれ、地元育ちの人間として、こんな世田谷をチェンジしたい」と意気込んだ。

記者会見で抱負を語る内藤氏(編集部撮影)

世田谷区長選は過去2回の選挙で、与野党真っ向勝負の構図だった。社民党の国会議員時代から知名度もあった保坂氏は、保守層から“世田谷自然左翼”とも揶揄されるほど、リベラル色の強い政治風土を足場に強固な地盤を築いてきた。保坂氏の2度目の区長選となった2015年は、7割近い得票で自公の推す元会社社長に圧勝。19年は、自公が元自民の女性区議を擁立するも、18万票対12万票で難なく圧倒した。

そうした中、自民は「勝てる候補者」探しに奔走。昨年2月から10回に渡る候補者選考委員会を開催してきた中で、知人の紹介で財務省に勤務していた内藤氏と接触。都連の萩生田光一会長らとも数回面談した末、1月下旬に候補者として擁立することが決まったという。

政策通ぶりをアピール

内藤氏の擁立が明らかになった当初、ツイッターでは保守層からも「財務省に勤務していたと言っても、29歳は若すぎるのではないか」と疑問が噴出した。実は筆者もそう感じなくもなかったが、記者会見では政策通ぶりを見せつけられた。

老朽化の上、庁舎が分散している世田谷区役所(PhotoAC)

たとえば区役所庁舎の建て替え問題。現職の保坂氏は現在の土地に400億円をかけて立て替える方針だ。これに対し、内藤氏は、豊島区や渋谷区が、民間の分譲マンションとの相乗り開発などを駆使し「実質負担ゼロ」で新庁舎を建てた先例を指摘。「(豊島区や渋谷区の手法が)現代の特別区における庁舎の建て替えのスタンダードだ」と強調した上で、「建築費が仮に0になったらどうするか。400億円財源が生まれる」と強調した。

記者から「具体的にもう少し聞きたい」と尋ねられると、内藤氏は、区長権限で未着工部分の容積率を増やすことで、庁舎機能が分散する現行の計画から、庁舎を一本化して利便性を高める設計への切り替えるなど、立て板に水のように返した。

財政の見方もユニークだ。世田谷区が公表している21年度時点の負債は975億円だが、内藤氏はさらに「隠れ負債」が2000億円あるとの見解だ。その理由は、校舎の老朽化が進み、耐震基準も古い学校が40校もあるからだ。「保坂区長はこれまで12年間の実績として世田谷区を黒字にしたと言うが、建て替えをしていないから。苦肉の策として(築)90年まで長寿命化しようとしているのは良くない」とピシャリ。1校の建て替えが50億円程度、総計2000億円と概算した。

このあたり、将来的に膨張が見込まれる社会保障費を「隠れ債務」に位置付ける財務省的な発想で、消費税増税の名目で持ち出されるのに、リフレ派がよく批判しているが、この区長選に限ってはこの“財務省らしさ”が保坂区政の泣き所を突く武器となり、保守層の支持も得られるのではないか。

油断?保坂氏には文春砲も

筆者は、保坂区政が「世田谷モデル」と銘打ち、コロナ禍でのPCR大規模検査を敢行しようとした問題についての見解を尋ねた。世田谷モデルは5億円の予算を投入するも、累計3万件も検査しながら、陽性者が27人どまりという浪費に終わり、失敗したとの批判が強い。

内藤氏は「確固たるデータに基づき、約束できることは約束するが、できると言ってできなかったのは区民の信頼を信頼を裏切る行為だ」とデータの専門家らしい批判をした上で、「私であればそういうことはしない」と保坂氏の手法を一蹴した。

異例の共闘で臨む自民と維新(編集部撮影)

自民と維新が東京の選挙でタッグを組むのは21年の武蔵野市長選、19年小金井市長選のケースがあるが、いずれも市部で、23区では初めてだ。異例の選挙体制となるが、東京維新の代表を務める柳ケ瀬裕文参院議員(日本維新の会総務会長)は「先頭に立っていくのに間違いなくふさわしい人物」と、内藤氏の政策的な見識ぶりを見込んだからと強調した。

ここにきて保坂氏は、公用車の不正利用疑惑で文春砲を見舞われた。本人の住居は区内にあるものの、かつての本拠で、家族が今も住む「別宅」が区に隣接する狛江市にあり、別宅と公務先で公用車を使うというルール違反が指摘されている。「保坂氏は自民が強い候補者を出せないと油断していたのは間違いない」と政界関係者。

とはいえ、衆院議員を3期経験、区長として3期12年のベテラン政治家の地盤、看板は強固だ。果たして29歳の伏兵に勝機はあるのか。

後編では選挙戦の過去のデータ等から展望したい(こちらから。会員限定記事でアップします)。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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