「天国と地獄」熱海・土石流現場のリアル

地元民「雨は大したことない」問われる山地開発のあり方
ライター
  • 熱海の土石流現場に入った、山林の保全事業を行うNPO代表に引き続き聞く
  • 発生地点の上方、地形安定せず。被災地は人通りが少なく、非常に静か
  • 地元住民は「あのぐらいの雨は大したことない」。山地開発手法の問題か

死者10人、行方不明者18人を数えている静岡・熱海の土石流災害。発生から10日目となった7月12日には、菅首相が現地の被害状況を視察。原因解明が待たれている。山林の環境調査や保全事業などを行っているNPO「地球守(ちきゅうもり)」代表の高田宏臣氏は、土石流発生から間もない7月4日、現地調査に訪れていた。8日掲載の「熱海の土石流はなぜ起きた?発生メカニズムを識者が説明」に続き、現地入りした高田氏に視察しての印象を聞く。

わずか数メートルの違いで被害の有無が生じる(高田氏撮影)

高田氏は午前6時に千葉県内を出発。土石流のあった伊豆山地区はすべての道路が通行止めとなっていたが、通行可能な道路から先へ進み、10時ごろには発生地点に到着した。崩落地点にいた人々は、テレビカメラ2台を含むメディアと消防を合わせても、20人程度だったという。

土石流の発生原因を明らかにすべく、高田氏は崩落地点のさらに上を目指した。

山間部では、自然環境の劣化の原因は上のほうにあることが多いんです。今回も、崩落地点の上のほうは土石が流れ込んでいて、巨石や土砂もありました。土地が安定していないとすぐに気づきました(高田氏、以下同)。

土石流の被害を受けた住宅街は閑散としており、カメラをかついだテレビクルーや記者たちをしばしば見かけた。土石流は山地から海まで一直線に街を破壊しており、幅は100メートル、長さは1キロほどだったという。(国土地理院が発表した分布図によると、土石流の範囲は幅最大160メートル、長さ約2キロ)。

土石流の突き抜けるようなエネルギーに、これはかなわないなと思いました。でも、現場は静かなものです。自衛隊や消防も雨が止むまで動けず、待機している時間も長かったようです。

テレビのニュースでは、ナレーターが現場で声を張り上げるようにして実況中継するため、どこか騒がしいイメージを持っている人も多かったのではないだろうか。救助隊が懸命に捜索をしているのは事実とはいえ、現実の場面はニュースで見るより動きが少なく、もっと地味なのだろう。

土石流の通った部分だけが、戦争の後みたいにめちゃめちゃになっていた。でも、少し離れれば何ともない。天国と地獄というか、津波とまったく同じだなと思いました。住民の姿は少なく、時間が止まったようにすら見えました。

実際は動きのある場面ばかりではない(高田氏撮影)

周辺は電気や水道が止まっており、高齢の女性がプラスチック容器に給水車の水をくむ場面も見かけたという。

地元の人に言わせると、「あのぐらいの雨は大したことない」というのです。もっと危険と言われている渓流もあるのに、なぜあの場所であれほどの土石流が起きたのか。無秩序な山地開発によって、山の循環システムを損ねていたことが考えられます。

静岡県の調査結果によると、太陽光発電施設は「崩壊の直接的原因ではない」という。だが、高田氏の説明によると、山の自然体系は雨水や地下水脈、湧水などが直接的・間接的に影響し合っている。今回の災害を機に、山地開発のあり方について考え直す必要があるのかもしれない。

 
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